農業向けドローン へのFRP適用 Vol.132
タイで誕生したFRP成形メーカーとしては老舗の COBRA。
元々はサーフィンをはじめとした個人向けマリンスポーツ製品がその原点にあります。
今でもその事業に力を入れており、最近は世界中の関連業界の出展する展示会で大きなブースを構えるまでになっています。
COBRA関連の記事の一例として、過去に以下のようなことを紹介したこともあります。
※ CFRP/Innegra スキンと EPS コアのサーフボードへの適用 Vol.123
その COBRA から最近、 HG Robotics の ドローン 向けにFRP成形部品を提供した、
というプレスリリースがでました。
* COBRA delivers first 100 composite fuselage covers for cutting-edge drones
https://www.cobrainter.com/files/6615/6887/5331/COBRA_Composite_Drones_PR.pdf
HG Robotics の Tiger Drone とは
( The image above is referred form https://www.commercialdroneprofessional.com/cobra-international-teams-up-with-hg-robotics-on-tiger-drones-project/ )
COBRA のプレスリリースによると、まずは100機分の製品を出荷し、
2019年9月から12月までの間に500機分の出荷を見込んでいるとのこと。
420平方ミリという小型の面積ながら、
機体全体のFRP化並びに、機体とローターを締結するフェアリングが主なFRP成形品とのことです。
COBRAのFRP成形品が適用されたのは HG Robotics の Tiger Drone という製品です。
製品の概要はこちらのページで見ることができます。
無人飛行体、いわゆる unmanned aerial vehicles (UAVs) は今後今以上に適用が進むといわれる製品の一例です。
UAM については過去にも以下のような記事でご紹介したこともあります。
今回の Tiger Drone は農薬散布や農地、並びに農作物の状態確認を主な役割として想定された、
農業向けのドローンになります。
農薬を入れたタンク(搭載サイズは10L)を搭載することはもちろんですが、
昨今のドローンでは必要不可欠ともいえる広角のカメラ、
さらにはGPSも搭載されています。
RIDAR( light detection and ranging )のセンサーも搭載されており、
地形を三次元形状として認識することも可能です。
パルスレーザーがその担い手であるRIDARは反射光到達までの時間を計測することで距離計測が可能であることから、
以下のような自動運転の視野の一つとしてなくてはならないものになりつつあります。
もはや位置制御にGPSやRIDARをはじめとしたセンシングは、
ドローンに無くてはならないものとなっていると考えます。
使用している材料は、強化繊維がガラスで、マトリックスはエポキシ。
ハンドレイアップの後、バキュームバック、いわゆるインフュージョン成形を主体とした成形とのことです。
強化繊維をガラスにしたのは、
電波透過性が良いからという理由と述べられています。
Daimlerがラゲージドアにガラス繊維強化のFRPを使ったのと同じ動機ですね。
※ご参考:Mercedes SL Roadster のラゲージドアへの SMC 採用
エポキシである理由はあまり明確ではありませんが、
不飽和ポリエステルよりは高い機械、物理特性が必要である、
化学物質管理、内部気泡残留回避といった理由でスチレンモノマーを使いたくない、
といったことが背景にあるのかもしれません。
成形がハンドレイアップというと非効率的なイメージを持たれる方も居るかもしれませんが、
上記のドローンサイズ(大きさ:1750 × 1500 × 600 mm、ボリューム:約200台/月 どちらについても)であればハンドレイアップが最も成形効率が高いと思います。
ハンドレイアップは工程の柔軟性という観点で、
ファイバープレースメントをはじめとしたオートメーションと比べはるかに優れており、
工程規格等で細かく管理すれば安定した品質での量産も可能です。
この辺りのFRP成形に関する話は2019年12月の日刊工業新聞社の機械設計の連載でも述べています。
(発売は11月中旬頃の予定です)
COBRAはアルミ製の型提供も過去にHGに対して行っていた、
とのことですので今回のインフュージョン向けの型もアルミだと想像します。
それをバックして、低粘度のエポキシを注入しているのでしょう。
平面形状ですが、以下のような工程を見るとイメージがつくかもしれません。
樹脂を含浸させるのは言うほど単純ではなく、
注入のさせ方、引き方によって変化します。
実際上記の動画でも樹脂注入は最初右端から始め、
途中から真ん中より注入させるという工程を踏んでいます。
今回のリリースのポイント
ポイントは主に2点です。
まず、電波透過性というFRPを適用しなければいけない理由が極めて明確な事。
これは金属では達成困難な特性であり、
FRPの「機能性」に着目した非常に妥当な設計的観点といえるでしょう。
もう一つが、対象が空を飛ぶものゆえ、軽量化と高剛性が使命であるということ。
電動のドローンは自重が軽いほど長く飛ぶことができます。
農業においてLIDARやGPSを活用しながら農薬をまく場合、
1分でも長く飛べることが作業効率向上に重要(現在の仕様だと液体搭載無でも10分と飛行時間延長には課題もありそうです)。
その際、軽いというのはやはり絶対的な正義です。
そして、空中に浮かせる構造物をできる限り細く、そして小さい形状で支えることで、
上空での風の影響を最小化させるにあたり、高剛性であることは必要不可欠です。
様々な活用が見込まれるドローン。
今回のような農業はもちろん、最近は遭難者捜索や山火事などの調査、
水害状況の把握といったことにも活用されています。
特に自然災害が頻発する日本において、
更なる展開も見込まれます。
大雨などで自分の畑や田んぼなどに被害が無いか等を調べるためにドローンを活用すれば、
様子を見に行って流されるというリスクを回避できます。
このように農家の方々の命を守るということにもドローンを活用することができるのではないでしょうか。
<お知らせ> ━━━━━━━━━━━━━━━━
今後の登壇予定のセミナーを以下の通りご紹介させていただきます。
合わせて参加をご検討ください。
– 2019年11月29日(金)10:30-16:30
会場:日刊工業新聞社 東京本社 セミナールーム(東京・日本橋)
CFRP/GFRP材料規格(Material Spec)の中身とその作成に必要な材料試験実施法
https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/3109
– 2020年1月23日(木)10:30-16:30
会場:日刊工業新聞社 東京本社 セミナールーム(東京・日本橋)
FRP製品開発フローと 技術的なポイント
– 月刊誌「 機械設計 」連載:2019年10月号発売中
2019年10月号の連載では、FRP製品製造の安定化と、
最重要である市場問題発生時の原因究明の迅速化、
という役割を担う工程規格について述べています。
※題目 将来にわたる最低限の品質確保に必須のFRP工程規格
http://pub.nikkan.co.jp/magazines/detail/00000894
– JEC Composite Magazine #131への英語記事掲載
2019年11月発行予定の JEC Composite Magazine #131に、
英語記事が掲載される予定です。
内容は材料規格に関するものです。
http://www.jeccomposites.com/knowledge/jec-composites-magazine