難燃性を有する熱硬化性プリプレグ GMS EP-540 Vol.134
今回のコラムでは、
難燃性を有する熱硬化性プリプレグ GMS EP-540
ということについて述べてみたいと思います。
難燃性のテーマについては以下のようなコラムも書いたことがありますので、そちらも合わせてご覧ください。
※ EN45545-2 で高い難燃性を示した PFA Composite
GMS Composites とは
オーストラリアに本拠地を構える GMS Composites 。
熱硬化性プリプレグを中心とした多くのラインナップを備える企業です。
先日、機会があってこの企業の担当者と話したのですが、
熱硬化としては幅広い製品を扱っている印象です。
HP上には以下のラインナップが掲載されています。
http://www.gmscomposites.com/prepreg-range/prepreg-technical-datasheets/
一般的なエポキシのもグレードはもちろん、
ガラス転移温度が200℃のもの( EP-250 )、
耐亀裂進展を目的にナノレベルで改質したもの( EP-290 )、
高速硬化のもの( EP-270 )、
防弾向けの超高靭性のもの( EP-620 )、
さらには超耐熱を狙った BMI ( ビスマレイミド )ベースのもの( BP-190 )等、
多くのラインナップをそろえています。
繊維もガラス、カーボン、アラミド、汎用有機繊維等をそろえており、
基材構成もUD、平織、綾織、朱子織、NCF( Non crimp fabric )等、
様々な形態にて対応可能とのこと。
担当者曰く、上記のHPで紹介しているのは一部であり、
繊維で言えば上記に加え、天然繊維の亜麻( flax )、バサルト繊維等が提供可能であり、
マトリックス樹脂も熱硬化が主体であれば顧客ニーズによってカスタムメイドする、
とのことでした。
カスタムメイド対応については以下の所に書かれています。
http://www.gmscomposites.com/custom-services/
難燃性を有する熱硬化性プリプレグ GMS EP-540
上記の製品の中で、注目すべきは
難燃性を有する熱硬化性プリプレグ GMS EP-540
です。
一般的に熱硬化性樹脂は難燃性に劣る傾向があり、
それ故、航空機や鉄道などの公共交通機関の多くは、
熱可塑性樹脂を基本としたものを用いています。
そのような中、 GMS Composites は難燃性の熱硬化性樹脂を開発したとのこと。
少し年数は経っていますがプレスリリースは以下で見ることができます。
上記によると UL94 V0 という難燃性規格をパスしたとのことです。
ULとは UNDERWRITERS LABORATORIES INC からその名前の由来が来ているとのこと。
UNDERWRITERS LABORATORIES INC は米国の保険会社協会がデラウェア州法に基いて設立し、火災、
その他の事故から人命・財産を保護するための研究・試験・検査を行う事を業務とする非営利目的の安全試験機関とのこと。
(出典:http://www.katecs.co.jp/industry/kankyou/pdf/data/togawagomu_date_397_398.pdf )
UL94 V0 というのは、垂直に立てられた試験片をしたから火入れする際の難燃性を評価する試験です。
以下のような概要説明をご覧いただくとわかるかもしれません。
————
垂直燃焼試験(Vertical Burning Test)で判定短冊状の試験片を垂直にし上端で保持し、
その下端に10秒間ガスバーナーの炎を接炎させる。
ガスバーナーの炎を離した後に炎が消えたなら直ちにガスバーナーの炎をさらに10秒間接炎し炎を離す。
判定は有炎燃焼時間の合計とドリップ(試験片から落下する粒子)による引火の有無により、
燃焼しやすい順から94 V-2・94 V-1・94 V-0とランキングされる。
※出展:https://www.takigen.co.jp/tech/ul94.html
————
UL94 V0 では接炎後の燃焼時間が10秒以内で、
10回接炎した後の燃焼時間の合計が50秒以内、
試験片の保持位置までの燃焼やドリップの落下による脱脂綿の燃焼が無い、
というこのクラスの規格では厳しい評価のようです。
上記のプレスリリースによるとこの試験により、
GMS EP-540 の燃焼時間は平均で3秒以内だったとのこと。
当然ドリップなども無く、余裕を持っての規格パスとなったようです。
そして環境に関する関心が高い昨今、ハロゲン種は使っていないそうです。
ターゲットとしているアプリケーションは航空、軍需、自動車の3分野のようですが、
自動車での適用検討が先行で進んでいるとプレスリリースには述べられています。
適用を進める自動車メーカー(OEM)は2社あり、
どちらもスーパーカーを作るメーカーとのことですので、
恐らく欧州の著名なOEMかと思います。
レース車両に用いながら課題などの洗い出しを行っていたとのこと(2016年時点)。
今は他のOEMや、より広い業界での適用が進められているかもしれません。
GMS EP-540 の特性
では早速この樹脂を基本とした標準製品のデータシートを見てみます。
以下のURLで見ることができます。
http://www.gmscomposites.com/wp-content/uploads/2016/05/EP-540-v2.pdf
ポイントの概要を抜粋します。
– 硬化温度:80から150 ℃
*代表的な硬化温度と時間の関係は以下の通り。
8 – 10 hours at 90 ℃
4 – 5 hours at 100 ℃
2 – 3 hours at 110 ℃
1 – 2 hours at 120 ℃
– 強化繊維種: CF、GF、AF(カスタムメイドであれば他の繊維も可能と考えます)
– 保管寿命は-18℃で1年、23℃で6週間
– ゲル化時間:120℃で6-12分
– 主な機械、物理特性(強化繊維:T300 / Vf 42% / twill:綾織り)
T11:460 MPa
E11: 44.67 GPa
T11 fracture elongation: 1.18%
Tg[℃]: 109-116
硬化時間は決して早いわけではありません。
ガラス転移温度は一般的な汎用エポキシよりも高めですね。
汎用以上、Variable以下という温度です。
引張破断伸びは一般的なCFRPよりも若干大きい印象です。
手元にあるデータ(T11のUDエポキシの実測データ)をベースに、
Vfと繊維の特性データを用いてT11とE11を逆算してみましたが、
弾性率はほぼ計算通りの値が発現しています。
強度は3割ほど低い値となっており、
これはエポキシそのものの破壊強度が低いのが主因か、
繊維の基材構成(今回でいうと綾織り)が主因かはわかりません。
ただ、難燃性を付与するという取り組みにより、
エポキシ樹脂自体の強度、
つまり三次元架橋構造に何らかの影響を与える添加剤や、
硬化剤を用いている可能性は否定できません。
私の予想は強度そのものが低下したというよりも、
靭性が低下し、初期破壊由来の破壊進展が早まったため、
CFRPとしての強度が低下したと予想しています。
上記のような留意点があるにせよ、
熱硬化性の難燃性FRPというのは非常に興味深い製品といえます。
耐熱性がある故、温度の高い部分(例えばエンジンやモーター、バッテリー付近など)にも適用可能かもしれません。
今後FRPは今以上に内装材への適用も念頭に難燃性が求められてくると思います。
このような時、従来の熱可塑に加え熱硬化性FRPで提案しながら剛性向上を実現し、
結果として薄肉化や部品点数の減少が可能となることで、
「空間の確保」
という新たな機能性を提案できると考えます。
今後のFRP動向把握の一助にしていただければ幸いです。
<お知らせ> ━━━━━━━━━━━━━━━━
今後の登壇予定のセミナーを以下の通りご紹介させていただきます。
合わせて参加をご検討ください。
– 2019年11月29日(金)10:30-16:30
会場:日刊工業新聞社 東京本社 セミナールーム(東京・日本橋)
CFRP/GFRP材料規格(Material Spec)の中身とその作成に必要な材料試験実施法
https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/3109
– 2020年1月23日(木)10:30-16:30
会場:日刊工業新聞社 東京本社 セミナールーム(東京・日本橋)
FRP製品開発フローと 技術的なポイント
– 月刊誌「 機械設計 」連載:2019年12月号発売中
2019年12月号の連載では、
FRPの成形加工技術について概要と各技術の比較を行っています。
FRP成形加工の基本の理解にご活用ください。
※題目 樹脂とは別物のFRP成形技術
http://pub.nikkan.co.jp/magazines/detail/00000907
– JEC Composite Magazine #131への英語記事掲載
2019年11月発行予定の JEC Composite Magazine #131に、
英語記事が掲載されました。内容は材料規格に関するものです。
title: Material specs for industrial applications of composite materials