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JEC Asia 2019 を通じてみた業界動向 Vol.135

2019-12-02

今日のコラムでは JEC Asia 2019 を通じてみた業界動向

ということについて述べてみたいと思います。

 

今年、初めてJEC Asiaを訪問しました。

これまで JEC World は複数回、顧問先の依頼で訪問したことがありましたが、
JEC Asiaは初めてでした。

今週のコラムでは今回の訪問で見てた業界の動向について述べてみたいと思います。

 

 

1. 一般的になってきた熱可塑性FRP

まず驚いたのは熱可塑性FRPのラインナップの多さです。

一昔前は、Solvay(Cytec)、Tencate等の大手のみが出していた熱可塑性FRPが、
少なくとも3社以上で展示されていました。

そのうちの一社は KOLON PLASTICS という企業です。
日本語のHPもあります。

https://www.kolonplastics.com/2015_renewal/jpn/index.html

元々は樹脂の成形加工メーカーのようですが、
エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックの材料とその成形ノウハウを持ち、
それを繊維などと複合化する技術もあるようです。

アプリケーションとしては自動車や軍需が展示されていました。

前者の代表例はフロントエンドで、
PPをマトリックスにUD材とLFTを組み合わせ、
適宜金属のヘリサートをインサートするなどして、
比較的大型のものを一体で成形していました。

以下がその写真です。

jec asia 2019

( Photographed by FRP Consultant Corporation )

 

PPのLFTはそれ以外にもPedal Memberなどにも用いており、
Lead Frame等は金属とPA6マトリックスのLFTを組み合わせていました。

それ以外にもマトリックスは不明ですがGF連続繊維プリプレグを用いた板バネ、
LFTを用いたブラケットなども展示されていました。

後者の例としては、NCFの炭素繊維とエポキシを組み合わせた材料をスキンとしたハニカムサンドイッチ材で、
戦闘機のランディングギアドアや、
PEとアラミド繊維を用いた防弾シールド等がありました。

NCFについては過去に以下のコラムで述べたことがありますので、
NCFをご存じない方は合わせてご覧ください。

※ FORMAX が Advanced Engineering UK で NCF 基材を発表

上記の通り軍需を中心に熱硬化も一部ありますが、
民需の製品にはかなり積極的に熱可塑の製品が提案されており、
その多くが連続繊維とLFT、並びに金属との組み合わせであることがわかります。

LFTについては以下のコラムでも述べたことがあるので、
そちらも合わせてご覧ください。

※ Solvayが提案する高機能ポリアミドの LFT

 

2. 電気自動車

これはやはり欧州だけでなく、アジア全体のトレンドといえるかもしれません。

Cammsysというもとは半導体装置メーカーとしての技術を基礎に多くのカメラ製品を生産する企業が、
CEVOという小型電気自動車を展示していました。

( Photographed by FRP Consultant Corporation )

CEVOに関するサイトは以下で見ることができます。

https://www.cevo.co.kr/en/c.jsp

完全充電にかかる時間は3時間程度で、
平坦な道であれば95km程度の連続走行が可能とのこと。
最高速度は80km/hです。

バッテリは Li-ion で8kWhのものを用いており、
最大出力は14.85kWとのこと。

尚、2人乗りで大きくはありません。

元々カメラを製造する企業ですので、
その技術を用い、安全性能を高めるという機能は織り込み済みですね。

安全性能や自動運転に関連する技術については以下のコラムでも触れていますので、
そちらもご覧ください。

※ 農業向けドローンへのFRP適用

以下に CEVO のコンセプト動画があります。
今回は展示されていませんでしたが、
ピックアップトラックの開発も進めていることがわかります。
移動店舗として用いるという提案はなかなか面白いですね。

https://www.youtube.com/watch?v=-9JXMezWIcI

今回の展示に限らず、
Conferenceテーマに電気自動車が取り上げられるなど、
日本以外のアジア圏でもかなり活発に行われていることがわかります。

FRPが具体的にどこに用いられているのかまでは話が聴けていませんが、
二次構造材には間違いなく使われていると思います。

電気自動車になると内燃機関の自動車と比べて熱に対する要件が下がる、
というのがFRP適用の後押し要因になることは間違いなさそうです。

 

 

3. スポーツ用品へのナノテクを応用したFRP適用

市場規模が小さいとはいえ、スポーツ用品へのFRP適用は積極的に行われている印象です。

その中で自転車は比較的目立つ位置に展示されていました。

WIAWIS は出展していた企業の一社です。
アーチェリーや自転車製品を販売している企業ですが、
特徴的なのは CNT や Graphene ( グラフェン ) を積極的に用いている点。

Graphene に関連することは最近も以下のようなコラムで述べました。

※ Graphene を熱可塑性発泡ポリウレタンに添加した 安全靴 の保護材へ適用

熱硬化のマトリックス樹脂にこれらの材料を添加することで、
耐久性や衝撃吸収性を高めているとのことです。

これらは nano carbon tech という名称で専用のページがあるくらいです。

https://www.wiawis.com/bbs/board.php?bo_table=m5_2&wr_id=1&ct=bk&ct=bk

良くできたページですね。
衝撃吸収性や耐久性の評価結果がわかりやすく書かれています。

当社が顧問先企業で指導を進めることをきちんとできているイメージです。
このようにユーザーの気持ちを先回りして技術データを提示するというのは重要なポイントです。

内容を見ると自転車のフレーム設計として、
ハンドルやペダル付近は剛性を高めて操縦安定性を図る一方、
座椅子付近は強度を上げる一方で衝撃吸収性に力点を置いた設計にしているとのこと。

剛性を上げたい個所について特に Graphene が効果的に働くとのことで、
材料を複数使い分けているようですね。

技術的には上記のページで書かれていることはごもっともな一方、
厳密な技術評価としては不十分です。

少しだけ技術的な話をしてみます。

まず振動吸収性は周波数特性を考慮して行うべきです。

減衰特性を評価するにあたり、本点を理解していないケースは結構多いです。

減衰特性の評価方法の一つとして半値幅法がありますが、
これを評価したい場合はランダム加振(複数の周波数帯の加振入力)をしたうえでその応答を観なくてはならず、
形状を有するコンポーネントを加振してその減衰を見るという上記のページでの見方では不十分です。

そもそもどの周波数で見ているのかわからない上、
測定したい減衰特性の方向も不明瞭であり(加速度計でもひずみゲージでも特定方向しか見られない)、
拘束条件や重量による影響も大きく受けます。

振動モードは曲げとねじりの2つのモードの組み合わせで発現する、
という技術の大前提を理解していないとこの辺りの評価を見逃すかもしれません。

また疲労試験は材料そのものの特性を見るのであれば、
形状の有るコンポーネントではなく形状因子の無いクーポンで行うべきでしょう。

また、疲労については応力比を複数振ることで Goodmann Diagram (疲労限度線図)を作成しなければならず、
これらを観ない限りは一概には耐久性が高い低いの評価はできません。

Goodmann Diagramについては以下のコラムでも述べたことがあります。

※ CFRP、GFRPの設計に重要な 疲労限度線図

形状の有るコンポーネント試験(単体試験)で評価したがる方が多いのは理解していますが(製造業の方は国を問わず形で評価したいようです)、
形状因子の入った疲労試験ではそもそも拘束条件をどうするのか、
そして応力比はどうするのかといったことを決めなくてはいけない上、
破壊したか否かをどのように評価するのかをよく吟味しなくてはいけません。

目視で壊れていなくても、FRPの一般的な破壊である内部破壊が進展している可能性もあり、
その場合、固有値が変化するため同じ周波数で加振しても共振していないこともあります。

そうすると、先に壊れた方が実は長持ちしているように見えてしまう恐れもあるのです。

こうなってしまうと評価自体ができていないということになりかねません。

WIAWIS もこの辺りはきちんと評価した上で、
一般的な方にもわかりやすいデータを示しているのかもしれません。

しかしもし上記のデータを見る方がFRPに関わる技術者であるのであれば、
このようなことを考えることは必須といえるでしょう。

いかがでしたでしょうか。

JEC Asia 2019 を通じてみた業界動向ということで、
熱可塑性FRP、電気自動車、スポーツとナノテクFRPという3つがトレンドである、
ということについて述べてみました。

個人的な印象として、国を問わず日本以外の海外はスピード感があると感じています。

そしてそのスピード感は加速する一方です。

海外が良くて日本がだめということは決してありませんが、
このスピード感による置いてかれているという危機感が、
日本企業の現場の技術者にまで浸透しているかが疑問に感じることが多いです。

FRP産業技術は製造業技術の一部でしかありませんが、
いまやFRP業界の技術は通信や制御等も巻き込みながら、
かなり広がってきています。

そういう意味では製造業という全体の流れとして遅れ始めている、
というのが実態なのかもしれません。

 

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