FRPを用いた医療向け シェルター Tupelo Flat Pack Shelter Vol.145
(The image above was referred from https://www.corecomposites.com/project-management/tupelo-flat-pack-shelter.html)
昨今は水面下での動きは別として、
大局的な動きは COVID-19 によって大きな制限があるのが現状です。
今後、様々な価値観や常識が大きく変化する可能性は高いですが、
いずれにしても今の制限を低減させることが世界中の共通命題となっています。
そして入院患者の急増に伴い医療崩壊が始まりつつある今、
臨時の隔離病棟を作るというニーズが急激に高まっています。
そのような中、ADS と Core Composites が、
FRPを用いた医療向けシェルター Tupelo Flat Pack Shelter の供給を開始すると発表しました。
リリース記事は以下の所で見ることができます。
https://www.corecomposites.com/project-management/tupelo-flat-pack-shelter.html
ADSというのは恐らく以下のサイトにある、
ASD Logistics Solutions のことだと思います。
この企業はパナマに本社があります。
この企業に運用とロジスティックを任せ、
FRP製の Tupelo Flat Pack Shelter を Core Composites が製造するようです。
Tupelo Flat Pack Shelter の想定用途
非常用医療シェルターですので、
感染症による隔離が必要な今、
最重要なのは病床確保です。
今回のシェルターは機密性も高いため、
陰圧室とすることが可能です。
陰圧室とは室内の気圧を大気圧よりも低くすることで、
室内の空気が不用意に外に出ないようにするものです。
もちろん、室内の空気を排気する際にはフィルタリングの上、
逆流防止ダンパを設置します。
この辺りの概要については以下のページでも見ることができます。
http://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/pdf/q044.pdf
それ以外の用途として、以下のようなものも想定されています。
1. ウィルス実験室
2. 外科手術室
3. MRI / X線検査室
4. 設備保管庫
5. 集中治療室
6. その他、医療行為を行う専門室
つまり、陰圧(場合によっては陽圧)ができることに加え、
FRPが高剛性であることを利用し、
大型の設備を入れても使えるということのようです。
Tupelo Flat Pack Shelter の特徴
最大の特徴としてうたわれているのは、
「軽いため運搬や組み立てが楽」
という点です。
運搬、並びに組み立ての容易さについては、
FRPが軽量材料であるという最大の特徴を反映しています。
必要な場所にできる限り早急に届け、
また重機などを使わずに組み立てられる。
緊急用の医療シェルターに求められるのは、
上記のようなスピードです。
そのため、自動車や航空機で簡単に運べることが求められるとのこと。
もちろん、船舶、鉄道などでの輸送も重量的なメリットはあると考えます。
今回販売する標準サイズのユニットは、
「20” X 10″ X? 10″(単位はインチ)」
ですので、
「約 500 X 250 X 250 mm」
です。
人の肩幅程度の厚めの長方形の板と言ったところです。
今回医療用シェルターに用いられるFRPは平面のパネルで、
これを組み立てていきます。
これ以外のサイズにも対応可能と書かれており、
一番大きいものでも重量は 220 lbs(約99kg)であり、
人力で組み立てることも可能と書かれています。
(作業標準的には5人程度は必要なので、人力だとかなりの重労働と想像します)
当然ながら基本的にはフォークリフトなどを使いながらの組み立てが推奨されるが、
そのような設備がない場合は人力でも可能、というイメージとのことです。
このパネルが緊急医療用シェルターで用いられる個所は、
– 屋根
– 壁
– 床
とのことで、シェルターの大部分を担うことができる材料のようです。
もう一つの特徴として書かれているのが、
「使用されているFRPが耐薬品性が高く、室内除菌洗浄や長期利用が可能」
ということです。
FRPは薬品タンクにも用いられるグレードがあるように、
耐薬品性が極めて高いです。
そのため、医療で用いられるような薬品に対しての耐性はほぼ問題ありません。
必要に応じてシェルター全体を消毒液で洗浄することも可能となっています。
さらに、海の近くで使われるとしても、耐蝕性の高さから腐食がほとんど起こりません。
あくまで利用目的は緊急用ではありますが、
COVID-19 を中心とした感染症との闘いはいつ終わるかわかりません。
そのため、ある程度の耐久性を見込んでいると考えられます。
その他の特徴
上記で述べた以外の特徴について以下のようなものが書かれています。
Ready for any relatively level Terrain:
設置する地形形状に対する柔軟性があるとのことです。
Locking Caster(車輪)をつけられるので、移動しやすくすることはもちろん、
凹凸のある個所でも車輪をロックして固定できるとのことです。
Integration Scalable:
後から継ぎ足し的に拡張できるとのこと。
パネル形状が一定であることがこれを可能にしています。
Modular Lighting and Wiring System:
医療行為に必要な照明はもちろん、
その他、電気系統を導入することで設備稼働も可能になります。
Negative/Positive Pressure and Air Filtration:
上記でも少し触れましたが、陰圧、陽圧が可能です。
Increased R-Value Insulation:
R値が8程度の断熱性があります。
※R値
熱抵抗とも呼ばれます。熱伝導率を材料の厚みで割り、単位面積当たりの熱流束を意味しています。
単位は [m2・K/W] です。値が大きいほど断熱性能が高いことになります。
建築業界ではR値が10以上、場合によっては30以上のものを使っているようです。
以下のようなサイトも参考になります。
– R-value (insulation)
https://en.wikipedia.org/wiki/R-value_(insulation)#R-value_definition
– Insulation R-VALUE – What is R-Value?
本製品は2020年4月から生産を開始する予定のようです。
Tupelo Flat Pack Shelter に使われている材料
今回のリリースでは具体的にどのようなFRP材料を使っているのか、
ということについて述べられていません。
しかし、ヒントになる情報はあります。
Core Composites の 20ft ISO Shelter という以下のページです。
https://www.corecomposites.com/project-management/20ft-iso-shelter.html
これは軍事用の シェルター になります。以下が外観写真になります。
(The image above was referred from https://www.corecomposites.com/project-management/20ft-iso-shelter.html )
軍事用シェルターは当然ながらできる限り簡単に輸送でき、
必要な場所において簡単に組み立てられ、
耐久性や断熱性が高い、という要件があり上記で紹介した非常用の医療シェルターと、
類似した性能が求められていることがわかります。
軍事用ということもあり、
9kHz以上の高周波におけるEMC(電磁両立性)も良好だったと書かれています。
上記のシェルターの場合、使われている材料構成は、
A. carbon-fiber/PET foam core/phenolic resin system
または
B. carbon-fiber/fiberglass/PET/phenolic system
とのこと。
つまり、CFRPが外層(シェル)、コア材としてPETのフォーム材、
またはGF/PETを組み合わせた材料を適用。
マトリックス樹脂はフェノール樹脂を基本としているとのこと。
フェノール樹脂を用いる動機は当然ながら難燃性です。
コアシェル構造にしたのは、コア材をフォーム材やGFなどの断熱性が高い材料を用いることで、
断熱性能(上記でいうR値)を高めることが目的です。
コーナーにはCF/難燃性Epoxyを組み合わせたプリプレグを適用し、
高強度/高剛性と難燃性を両立させています。
恐らくですが、Tupelo Flat Pack Shelter も類似の材料を用いていると考えられます。
COVID-19 について収束の見えないのが現状ですが、
大切なのはまず医療体制を維持することだと考えます。
このような取り組みに対し、
FRPも上記のような活用をされていることを知っておく必要があります。
上記以外にも以下のような取り組みもご紹介しました。
※ COVID 19 の緊急対応に向けた 3D Printing の活用
ピンチをチャンスに変えるためにできることを、
一つひとつ積み重ねるという真摯な姿勢が今求められているに違いありません。