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PAを層間に用いたFRPとアルミニウム間の 摩擦撹拌接合 Vol.148

2020-06-01

摩擦撹拌接合 はFRPに対して適用は困難

 

FRPの適用範囲を拡大するにあたり、金属等との異種材接合は不可避といわれています。 今回のコラムでは接合技術のうち、 摩擦撹拌接合 に着眼し、当該接合技術を用いた CFRP と Al の接合について研究事例を紹介します。

 

摩擦撹拌接合 とは

FSW という文字を見て接合技術であるということをイメージされる方以外は、
摩擦撹拌接合という言葉を聞いてみてもあまりイメージがわかないかと思います。

FSWというのは Friction Stir Welding の略になります。

まずは実例として以下のような動画をご覧ください。

これは A2219-T87 のアルミ材料に、
FSW で使う工具を回転した状態で接触させ、
アルミニウムが軟化している様子がわかりやすく映っています。

FSW というのは、接合したい金属材料について、
回転工具を当てて摩擦熱を与え、融点以下の軟化温度まで上がって軟化したところで、
2種類の金属を接合するという技術です。

融点まで上げないため、残留応力とそれに伴う変形が小さく、
また接合部の強度低下が少ないなど多くのメリットがあることが知られています。

この辺りは以下のようなサイトにおいて、
基本的なことをシンプルに記載されています。

http://tri-osaka.jp/technicalsheet/9001.PDF

 

FSWにおいて実際に異種金属を接合している動画の一例として以下のようなものがあります。

※冒頭音楽が流れます。

https://www.youtube.com/watch?v=aNbQH8XBgxQ

上記でも述べられていますが、FSWの技術は1990年代に TWI によって開発されました。
TWIのFSWに関する紹介は以下のような動画で述べられています。

当然ながら工具の形状、回転数、角度、圧力といった各種プロセスパラメータの最適化に加え、
異種材料同士の接合の場合は接合温度をどのくらいに設定するかなど、
多くの技術的知見が必要なことは言うまでもありません。

 

今日はこのFSWの「点接合」である FSSW( Friction Stir Spot Welding )を用いた
FRPとアルミニウムの接合研究についてご紹介したいと思います。

 

 

FRPとアルミニウムのFFSWによる接合を熱可塑性樹脂であるポリアミドで実現

今回ご紹介する研究は材料学会の2020年5月号に掲載されていた以下のものです。

※ ポリアミド樹脂を接着剤に用いたCFRP/Alの摩擦撹拌点接合
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms/69/5/69_379/_pdf/-char/ja

まず全体として大変丁寧に評価をされている印象です。
各種現象をできる限り数値にて定量的に評価しており、
考察もわかりやすいです。

何より、FRPはそのままではFSWを適用するのは難しい、
ということが周知のことであったことに対し、

「間に熱可塑性樹脂を接合媒体として挟み込む」

というコンセプトで取り組んでいるところが大変興味深いですね。

詳細については上記の論文を参照いただければと思いますが、
概要について述べたいと思います。

材料としては、以下の組み合わせでのFSSWの接合検証を行っています。

A.? CFRP( CF: T300 Epoxy:EPO622 )
→ベルトサンダーによるサンディングを接合表面に行っています。

B.? Al( A5052 )
→Alは酸洗浄の後、陽極酸化処理を行っています。

C.? PA12( 3030B )

について、上記論文中のFig.1、2でそれぞれ示すようにPA12をFRPとAlの間に挟み、
引張剪断試験、並びに十字引張試験片の試験片をFSSWによって接合させています。

その後、それぞれの試験片について作製時の温度変化の観察、
そして引張試験では破断荷重はもちろん、破断面の観察など、
大変細かく検証されています。

FSSW ではφ20の回転工具を用いています。

FSSW 実施時の温度としては、
中心部では撹拌開始後10秒弱で500℃を超えています。
その一方で回転工具外周では同時間で400℃弱、
少し離れると300℃超と少しの距離の違いが、
顕著な温度差につながっていることがFig.7から読み取れます。

厚み方向として具体的にどこの温度を計測しているのかは不明ですが、
少しの計測位置の違いが温度の大きな違いとなっていることは特筆すべきことです。
もしかすると、断熱性のあるCFRPの底面側で温度計測しているのかもしれません。

せん断引張試験においては、30mm角の融着面について、
で5から8kN程度の荷重が出ています。

十字引張試験片の場合は、同50mm角の融着面について、
0.8から1.4kN程度の破断荷重を示しています。

どちらも、回転工具を当てる時間を延ばすほど接合部破壊の剪断荷重が上昇していることから、
プロセス時間と剪断荷重にはある程度の比例関係が成立しているものと考えられます。

回転工具直下ではPA12もエポキシも存在せず接合していないなど、
実際の接合面積が不明瞭な部分があるため
接合強度を出すことは困難のようですが、
JISベースでの鋼材スポット溶接引張剪断荷重を上回る等、
高い値を示していることが示されています。

破壊モードとしては、DIC(画像相関法)によるひずみ挙動の検証結果から、
試験荷重増加に伴ってAl面のひずみが大きくなり塑性変形を示している一方、
CFRP面のひずみが増加しないことから、CFRPの層間?離が発生していると推察し、
実際の断面観察からもこの事実が確かめられています(Fig.12参照)。

ご参考までですが、
過去にFRPのひずみ測定については、
日刊工業新聞社の月刊誌「機械設計」の連載にて言及したことがあります。

※ 機械設計 」連載 第十三回 FRPの ひずみ 計測の留意点

FSSWによる接合は、
回転工具の外周付近を中心に形成された溶融層によって担われているのではないか、
という話はなるほどと思いました。

全体的に大変興味深い結果です。

 

では、今回の研究テーマを読むにあたり、
気が付いた点についていくつか述べてみたいと思います。

 

 

PA12を使っている理由を考える

読者としては、何故筆者がPA12というやや特殊な材料を、
接合媒体として選んだのかを考える必要があります。

私は

「極性基を有する分子構造であり、吸水性と融点の低いものを選んだ」

というのが筆者の狙いではないかと想像しています。

ポリアミドとしては、どちらかというとPA6の方が一般的なものとして知られています。
しかしPA6と比較しPA12の方が吸水性が低く、
また融点も低いことが知られています。

PA6 融点:225℃

PA12 融点:178℃

※参照URL
http://www.plastic-kakou.net/material/plastic/pa6tokusei.html
http://www.plastic-kakou.net/material/plastic/pa12tokusei.html

 

当然融点が低い方がFSSWの際の熱で早く融解し、
接合界面に浸透することが期待されます。

また、吸水性が低いものを選ぶことで、
水分由来の発泡を抑制したいという狙いもあると考えます。

また、PEEK等のスーパーエンプラを用いなかったのはPAの方が分子構造上に極性基を有しているため、
接合に対してポジティブな効果が得られそうである、という狙いと想像します。

一般的に極性基と呼ばれる、N、S、O等の原子を多く有する電子的な偏りのある構造は、
様々なものを引き付ける力があるというのが一般論としてあります。

PAは耐熱性を上げるために分子内にベンゼン環を多く有する極めて剛直な分子であり、
吸水性等はほとんどない、つまり極性をほとんど有さない構造です。

熱硬化性高分子のように活性の有る官能基(例:エポキシ基)等が無い熱可塑性高分子では、
上記のような極性基を有する構造があるか否か、ということが接合時には大変重要な性能となります。

 

 

FSSW を行っている最中のFRP/Al間の圧力

恐らく今回のような融着も同じだと考えていますが、

「接合する際の圧力が大変重要である」

というのが私の技術的な経験の中にあります。

今回のFSSWにおいて、
その接合のメカニズムの根幹にあるのが撹拌によって発生した摩擦熱による、
接合媒体の溶融と比接合体であるAlやFRPとの接触だと思います。

そのように考えると、やはりFSSWを行った際のFRP/Al間の圧力は、
接合力に何かしらの影響を与えると推測されます。

接触確率はもちろん、溶融したPA12の浸透度合い等と相関があると推測されるからです。

FSSW後の接合層(PA12の層)の厚みが0.24mmとのことですので、
0.1mmのPA12を二枚重ねて接合を行ったことを考えるとPA12の厚み変化はほとんどないようです。

PA12の溶融が不十分であることも影響し、
接合箇所にはあまり圧力がかかっていない様にも見えます。

いずれにしても、実際のプロセスではこの辺りの検証も必要になってくるかと思います。
(もしかすると、既に筆者は検証をされているのかもしれません)

 

 

熱分解はTGだけでなく、DTAで判断する

FSSWでは高熱が発生するため、
その温度によってどのくらいの有機物が熱分解するのか、
ということを予め調べています。

示差熱-熱重量測定装置を用いられているとのことで、
いわゆるTG/DTA分析装置だと思います。

この測定においては昇温による重量減少を見るTGに加え、
融解や分解といった相転移もしくはそれに準ずる変化が起きた際、
比熱が変化する、発熱反応や吸熱反応が起こるという、
測定試料の温度変化に対する熱的な変化を捉えるDTAも同時に計測していると思います。

今回のようにTGだけを見て重量減少率を見る、
というのも一つの考え方ですが、
それを補完する意味で実際の熱分解は何℃から始まるのか、
ということをDTAの立ち上がりの外挿温度で定量的に示す、
ということも一つのデータとして重要です。

この結果によって、場合によってはTGの明確な変化は起こっていないものの、
DTAによって既に基材となっている樹脂材料の熱分解が始まっている、いない、
といった考察も可能になると思います。

 

 

異種材接合品のリサイクルへのアプローチ

やはりここも無視できない領域でしょう。

FRPと金属をつけることができたとします。
しかし、その製品は永久寿命ではないので、
どこかで廃棄することになります。

複数種の材料が接合されることにより、
この廃棄方法が極めて複雑になるケースが多く見受けられます。

本課題に対するアプローチとして私が考えているのは、

「FRPの徹底した分別」

です。

FRPのリサイクルを考えるべきことは当然だと思います。
しかし、FRP自体が有機物と無機物の複合材料であることを考えても、
その対応は極めて困難です。

そのため、金属とFRPの複合体であれば、
まずはFRPを金属と分別し、
金属は金属としてリサイクル、
FRPは現段階ではそのリサイクル法としてある程度確立されているフィラーとしての利用、
もしくは埋め立てでの廃棄となります。

このような分別にはFRPに関する知見と、
廃棄物処理に関する知見の両方が必要であるため、
以下のような専門企業の協力が必要だと考えます。

※ FRP複合体廃棄物処理事業のお知らせ / 株式会社FRP カジ

当然ながら繊維と樹脂を分離しようという、取組もなされており、
Institute for Advanced Composites Manufacturing Innovation (IACMI)のDALE BROSIUS氏は、
それらをカテゴリー分けするということを提案しています。

https://www.compositesworld.com/blog/post/composites-recycling-no-more-excuses

 

上記のカテゴリーでいうと Category Level 4 や 5というレベルの取り組みもありますが、
それらは炭素繊維強化のものの一部にとどまっており、
まだその歩みは始まったばかりとも言えます。

リサイクルについては以下のようなところでも述べたことがありますので、
合わせてご覧ください。

※「 機械設計 」連載 第十六回 FRPリサイクル の現状と課題、そして必要な取組み
※ FRP学術業界動向 CFRPリサイクル を目指した分解可能なアセタール架橋サイジング剤
※ GFRPに近い将来求められる リサイクル

 

 

今回は、FRPと金属間の撹拌接合という難しいテーマに取り組んだ興味深い研究例をご紹介しました。

 

今回ご紹介したような技術が、
FRPのさらなる応用展開の懸け橋になるかもしれません。

FRPにとって異種材接合というのは不可避の流れの一つとも言えます。

しかし、そこに向けた技術的な要素は何なのかを一つ一つ丁寧に押さえ、
また破壊する際の破壊メカニズムを把握し、
その上で最終的に寿命を迎えた製品をどのように取り扱うべきなのか。

 

このような幅広い視点での取り組みが継続して必要だと考えます。

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