リサイクルプラスチック と炭素繊維を用いた車載コンテナ Vol.149
イギリスに本社のある PENSO という技術受託企業が、 リサイクルプラスチック と炭素繊維を用いた車載コンテナに関するリリースをしたと記事が出ていました。
本内容は以下のURLで見ることができます。
http://www.penso.co.uk/case_studies/blue-ocean-home-delivery-pods/
上記のリリースを踏まえ、 リサイクルプラスチック と炭素繊維という組み合わせのコンテナでどのようなことを狙っているのかについて考えてみたいと思います。
PENSOとは
PENSOという企業をご存知な方はあまり多くないかと思います。
複合材料設計技術を一つの主軸とし、
航空機や自動車産業向けに技術サービスを展開する企業のようです。
主な事業として以下のようなことが書かれています。
– Composites
– Consulting
– Concept design and vehicle build
– Design and Engineering
– Electronics
– Finite element analysis
– Interior systems development and supply
– Niche vehicle build
※参照元
http://www.penso.co.uk/company/
複合材料関連業務を一つの軸にしながら技術相談( Consulting )も受けるとのことなので、
受託とコンサルティングを両方とも引き受ける企業という印象です。
また機械的な設計だけでなく、
電気電子、 FEM 等も対応するようです。
ISO 16949 も取得していることから、
自動車業界がそのターゲットの主体にあると想像できます。
従業員は200人程度で、2000年設立のようです。
リサイクル樹脂と炭素繊維を用いたプロジェクトとは
この PENSO が最近リリースしたのが、
表題にもあるリサイクルプラスチックと炭素繊維を組み合わせた複合材料を使った、
車載コンテナになります。
本リリースは複数メディアで見ることができますが、
以下の PENSO のサイトでも見ることができます。
http://www.penso.co.uk/case_studies/blue-ocean-home-delivery-pods/
これを見ると今回の取り組みのポイントは以下のように述べられています。
– Increasing demand for home deliveries
– Costs: vehicle, fuel and drivers
– Vehicle damage
– Driver shortages
– Vehicle security
– Health and Safety
– Tighter environmental legislation
– Need to reduce congestion
昨今の COVID-19 の影響もあり、
宅配輸送のニーズが高まっている、
というのがその背景にあるかもしれません。
リサイクル材料を用いる、
輸送における温室効果ガス排出量を低減する等、
環境的な意識が強いのは本プロジェクトが
「 BLUE OCEAN HOME DELIVERY PODS 」
という名称がつけられていることからも容易に想像できます。
このプロジェクトで狙うのは、3.5トンの車両で、
軽量化や形状の見直しにより、輸送能力を1.5倍にすることのようです。
(同じ重量のものを従来輸送に3回かかるものを、2回にすると上記 PENSO のリリースに書かれています)
また PENSO は国と Advanced Propulsion Centre (APC) という所から、
10年間で1630万ポンド(約21.9億円:1ポンド134.7円換算)の助成金を受けながら、
研究を積み重ねてきたというのが技術的蓄積として大きいようです。
これがFRP製車載コンテナを42分に1個出荷できるという生産性の背景にあるようです。
ターゲットにする車両とFRP製車載コンテナのイメージ
Mercedes Sprinter とのことです。
以下に一例を示します。
( The image above was referred from https://www.mercedes-benz.co.uk/vans/en/sprinter-luton)
車両と一体型のバンではなく、Luton と呼ばれる車載コンテナが別途搭載されているタイプのもののようです。
コンテナは冷蔵仕様のもの、リフターがついているもの、
側面がスライド式で開くもの等、様々な仕様のものが想定されているようです。
側面がスライド式で開くようなものの例としては以下のサイトのイメージ図を見ると、
わかりやすいかもしれません。
( The image above was referred form https://fleet.ie/penso-comes-to-the-door-with-blue-ocean-home-delivery-pods/ )
そしてMercedes SprinterにFRP製コンテナを搭載した車両は、
2020年7月には量産を開始すると述べられています。
FRP製車載コンテナによる効果と当該コンテナの概要
いくつかの例が上記で紹介した別のメディア媒体に書かれています。
冷凍仕様のコンテナを例にすると、
FRP適用による軽量化に加え、
冷凍機コンプレッサーの高圧化と冷気の流れの効率化による開閉による温度変化の低減により、
従来は850kgだった積載上限が、1250kgに増やせるといった例が書かれています。
上記のコンテナを搭載した車両について、
第三者機関による Millbrook Proving Ground での冷凍機を稼働させながらの走行試験の結果、
燃費が34.05mpg(mpgは miles per galon の略です)であり、
同型車両が24mpgであったことを考慮すると燃費向上にも貢献できると書かれています。
34mpgは約12km/Lで、24mpgは約8.5km/Lです。
次にこのコンテナの概要についてみていきます。
このコンテナの詳細構造についてはあまり述べられていませんが、
主な構成材料としては炭素繊維、PET、アルミであり、
サンドイッチ構造のようです。
恐らくですが、スキンはマトリックスをPETにしたCFRTP、
コア材は断熱効果等を見込んでPETのフォーム材、
梁や車両との連結部分はアルミで構成されているものと想像します。
この辺りは情報がほとんど開示されていないので、
今後の情報開示を待ちたいと思います。
その一方、空力性能も見直し、燃費改善に一役買っていると書かれています。
段差を減らすなどして、空気の剥離や乱れを低減する形状にしているものと想像されます。
では今回のような記事を踏まえ、どのようなことを考えなくてはいけないのでしょうか。
使用後のリサイクルはどうか
FRPを始め、複合材料最大の課題は、
「材料を複合化するため、リサイクルがしにくい」
ということがあります。
そのため、FRPを使った製品のリサイクルの第一歩は、
まず徹底した分別である、
ということは以下のコラムでも述べています。
このような指摘を想定してか、
以下のように述べられています。
At the end of each pod’s life, more than 95% of the structure can be recycled,
including the carbon fibre, aluminium and polyethylene terephthalate (PET).
※参照元:https://fleet.ie/penso-comes-to-the-door-with-blue-ocean-home-delivery-pods/
これは大変興味深い話です。
ここまで想定しているのは大変素晴らしいことだと思います。
その一方で恐らくリサイクルにおいてはダウングレードをせざるを得ず、
事業性という観点で大きな課題を突き付けられることになると想像します。
持続可能な事業にするためにも、
具体的なリサイクル方法とビジネスモデルを検討する、
または行政がそれを手助けする資金や仕組み構築に協力するといったことが必要になると考えます。
強化繊維は炭素繊維よりガラス繊維が望ましい
あくまで今回開示された情報の範囲における私の理解ですが、
今回のようなアプリケーションに炭素繊維を使う理由があまり見当たりません。
コストやリサイクルの話もさることながら、
技術的に何故使うのかがわからないのです。
炭素繊維を使わなければいけないほどぎりぎりの設計をするような対象物でない上、
断熱性などの観点からもガラス繊維の方が有利です。
さらには、炭素繊維を作れるメーカーに限りがあることから、
材料供給にも不安があります。
代替材を簡単に入手できないからです。
今回がコンセプトの検証というだけであれば炭素繊維もありですが、
本当に市場流通させたいのであればガラス繊維のラインナップもリリースした方がいいと考えます。
今回のリリースは要望の高まるリサイクル材料を使っているとのことに加え、
製品寿命を迎えた後もリサイクルできる、
という end of life まで想定したコンセプトを掲げていることは大変いいことだと思います。
また、FRP適用による軽量化というだけでなく、
冷気の流路の最適化や外観形状の見直しによる空力性能の改善等、
多角的な技術観点から課題の解決に向かおうというアプローチ方法も好印象です。
COVID-19 により全世界の価値観は変わったと思います。
少しずつ元に戻っていくと思いますが、
完全には戻らないと予想しています。
このような変化からニーズを捉えるには、
自社の技術範囲を超えた俯瞰的な視点が必要です。
上記のリリースはこれから求められる技術的なコンセプト検証の好例の一つといえるかもしれません。