貯水タンク 向けGFRPの製品 HISHITANK Vol.150
FRPが比較的古くから適用されてきたアプリケーションの一つである 貯水タンク 。
飲料水の 貯水タンク はもちろん、工業用水の 貯水タンク 等も含まれます。
耐水性が高く、寿命も比較的長いということがFRP適用の背景にあります。
そのような中、三菱ケミカルから HISHITANK という製品がリリースされています。
このリリース記事は以下のURLから見ることができます。
https://www.alpolic-americas.com/news/news/innovative-water-storage-solutions-introducing-hishitank/
上記のURLは ALPOLIC Composite Materials ということに関するHPで、
主に金属とFRPや高分子を組み合わせた複合材料を指し、
建築などにも適用されているようです。
HISHITANK についてみていきたいと思います。
HISHITANKの特徴は組み立て形状の自由度の高さと耐震性
製品の概要についてはこちらのページから見ることができます。
GFRPを貯水タンクなどに用いる動機として、
耐水性は基本です。
しかし、今回リリースされた HISHITANK としての特徴は
・組み立て自由度の高さ
・耐震性
という2点が含まれていることがポイントといえます。
それぞれについてみていきたいと思います。
組み立て形状の自由度
HP上においてこの点については以下のように述べられています。
Flexibility
Since the tank is composed of a combination of panels,
it can be designed in a variety of ways.
This makes it possible to install the tank in spaces
where it would normally be difficult for a tank to do so,
as well as to make effective use of the space.
決められた形状のパネルの組み合わせで形状形成ができるため、
自由度が高いとのことことです。
実際に中身を見てみます。
パネルの寸法などは以下の所で確認できます。
https://www.hishitank.com/wp-content/uploads/2020/03/General-description.pdf
これを見るとパネルのサイズは厚みが3?15mmで、
以下のラインナップがあるようです。
0.5 m × 0.5 m
0.5 m × 1.0 m
0.5 m × 1.5 m
0.5 m × 2.0 m
1.0 m × 1.0 m
1.0 m × 1.5 m
1.0 m × 2.0 m
0.5m刻みで最大寸法 2.0m です。
これを金属フレームにはめ込む形で形状としていきます。
以下のページを見ると具体例も確認できます。
https://www.hishitank.com/wp-content/uploads/2020/03/Structural-Specifications.pdf
中を垂直に仕切って沈殿槽のように用いたり、
水平に仕切ることでタンク中を循環するような流れにしたりと、
用途によって中の構造も変更できます。
耐震性
上記のStructural Specificationの一番下には、
耐震性のことも書かれています
2-4 Earthquake-Resistant Design というところをみると、
「揺れによって生じる低周波によって発生する高荷重」
を中心に対策できるよう設計しており、
日本における耐震設計を踏襲しているようです。
このあたりは地震国である日本の知見は大変に役に立つものと考えられます。
貯水タンク 設計概要
上記でも紹介した General Description をみると、
1-7 Design Conditions という項に、
以下のような内容が書かれています。
Hydrostatic pressure: Water level (m) × 0.01 Mpa {0.1 kgf/cm2}
Design water level: Tank height (nominal height) × 0.9
Snow accumulation: 0.6 × 10-3 Mpa {60 kgf/m2}
Wind pressure: 1160 N/m2
Roof load: Short term central load per panel: 80 kg
Inlet water temperature: Ordinary temperature
Water quality: pH: 5.8 to 8.6
Illumination factor: 0.1% or less
Weatherability:
Since the roof is exposed to ultraviolet light when installed
outdoors, better weatherability is provided by inserting
non-woven fabric into the roof panel.
まず興味深いのは風圧ですね。
1160 N/m2の風速はどのくらいか、
ということを計算すると概ね風速 14m/s 程度のようです。
※参考URL:https://calculator.jp/science/wind-pressure/
台風などは想定されていませんが、
それなりに強い風には常にさらされていることは考えられているようです。
尚、この値が恒常的に耐えられる値で、
最大風速はどのくらいなのか等については特に書かれていません。
積雪というのも興味深い指標ですね。
日本でも同じような指標もあり、
雪の密度は場所により決められるようです。
尚、多雪地域で 30 N/cm/m2 、一般地域では 20 N/cm/m2 という雪の密度を設定しているようです。
(単位の意味は1平米、1cm高さあたりの重さを意味しています)
60 kgf/m2という上記の要件だとすると、
日本の多雪地域で20cm程度積もったものと同等の要件といえます。
(30 N/cm/m2 X 20 cm / 9.8 = 61.2 kg/m2)
そして、耐候性の向上には不織布をインサートした方がいいと書かれています。
不織布そのものにUV吸収性を持たせるのか、
UVが浸透してマトリックス樹脂が劣化してもその破壊進展を抑制するのか、
詳細については述べられていませんが、興味深い言及です。
FRPパネルの作製方法
こちらについては上記の General Description に概要が書かれています。
不飽和ポリエステルをマトリックス樹脂としたガラス繊維強化のSMCが基本のようです。
140℃で賦形し、表面はアイボリー色になるとのこと。
実物写真を見るとそれなりに光沢面を出すことを意味しているため、
ゲルコート層が存在するものと考えます。
また一般的なパネルに加え、断熱パネルもあり、
その場合は発泡スチロールをコア層にするようです。
以下のページ中の Thermal Insulation という項目の右下に、
温度変化に関するグラフが掲載されており、
断熱効果が得られているということが確認できます。
FRPパネルの基本材料特性
General Description には材料の特性概要についても見てみます。
引張強度は113MPa、弾性率は13.9GPa。
Vfが37.7%であること、SMCであることを考えれば、
概ねこの程度という印象です。
圧縮強度は思ったよりも高く340MPa。
SMCのように部分的にも水平方向に繊維が配向していると、
圧縮試験中に試験片が水平方向に変形するのを抑制することで、
圧縮強度が出やすくなることが知られています(私の経験でもこれは確かめられています)。
そして興味深いのは層間せん断強度が20.2MPaと記載されていること。
層間せん断をデータとして載せるのは、
それなりにFRPの異方性を評価している証拠です。
ただしここで用いられているのは、
ショートビーム法です。
そのため、層間せん断弾性率は算出されていません。
実際にCAEを行うにはポアソン比や弾性率が必要ですので、
もし層間せん断試験を設計向けにやるのであれば V-notch 等の、
別のやり方を行う必要があることは追記しておきます。
また Transverse shear strength という、
横せん断強度という数値も85MPaと書かれています。
これはなかなか珍しいですね。
以下のようなHPを見るとどのような試験かイメージがわくかもしれません。
https://www.djklab.com/service/koubunshibussei/788
金属でいうとシャーリングのようなせん断荷重をかけるイメージです。
シャーリングをご存じない方は以下の動画を見ると、
どのような動きかがわかると思います。
これによりどのような特性として把握したいのか明らかではありませんが、
規格化されていることから業界によっては必要とされる特性なのかもしれません。
それこそ、せん断で裁断する際どのくらいの荷重が必要か、
といったことを調べるのが目的ではないかと想像しています。
いかがでしたでしょうか。
今回の HISHITANK のリリースで感心したのは、
「取り扱い、特性概要等の情報が積極的に公開されている」
ということです。
特に技術的なデータが公開されているのは好印象です。
このようにそもそも製品が何物なのかということをデータをベースに公開しないと、
ユーザーとしてはその製品を使って何かをする、または購入を検討する等の際、
技術的な判断ができません。
定性的ではなく定量的な技術情報の積極発信によって自社製品の強みを示す。
技術情報発信型マーケティングの基本がよく見える好例といえるかもしれません。