ExxonMobilが海底ガス油田向けの熱可塑性FRPホースを採用 Vol.152
(The image above was referred from https://www.offshore-mag.com/)
昨今の感染症の影響も受け、価格が下落傾向にある原油。
それでも中国をはじめとした国々の経済活動の再開に伴い、
徐々に価格が戻りつつあります。
※参照URL:WTI原油先物価格変動チャート
https://chartpark.com/wti.html
長い目で見ればエネルギー確保は大変重要な命題といえます。
当然ながら自然エネルギーの積極的な採用、
蓄電、電力消費効率向上は不可欠である一方、
原油のエネルギーとしての存在意義は大きいのが実情です。
そのような中、海底ガス油田向けに Airborne Oil & Gas の 熱可塑性FRPホース を、
ExxonMobil が採用したというニュースがでていました。
TCP jumper product と呼ばれる製品であり、
TCPは Thermoplastic Composite Pipe の略とのことです。
プレスリリースは以下の所で見ることができます。
https://airborneoilandgas.com/news/exxonmobil-upstream-qualifies-airborne-oil-gas-tcp
今日は海底ガス油田へのFRP適用の現状と、
上記のリリース内容の技術的概要をみていきたいと思います。
FRPは海洋エネルギー産業で注目される材料の一つ
FRPはその優れた耐水性、耐薬品性という性質から、
海水による腐食が課題として考えられている海洋エネルギー産業において注目されています。
この辺りは以下のメルマガでも述べたことがあります。
上記は Magma が炭素繊維で強化した CFRTP(マトリックスは PEEK : Polyether ether ketone )を用いた、
高圧にも耐えられる m-pipe(R) というものです。
m-pipe(R) は DNV(デット・ノルスケ・ベリタス)において DNVGL-RP-F119 という認証も取得し、
今後のさらなる展開を模索するという状況にあります。
このようにFRPはエネルギー産業という業界において、
その適用や適用検討が進められています。
Airborne Oil & Gas の提案する 熱可塑性FRPホース
上記で採用された「 TCP jumper product 」は、同じFRPでも上記とはだいぶ異なる製品になります。
まずは材料構成。
強化繊維は炭素繊維ではなく、ガラス繊維。
そしてマトリックス樹脂は、汎用オレフィン樹脂である PE ( PolyEthylene )です。
もちろんライナーが最内層にありますが、ベースの構造部材はGFRTPなのです。
主には「 outclass HCR hoses 」の代替であり、
用途は water injection purposes とあるので、
高圧の水を通すということにあるようです。
恐らく掘削泥水の排水などが想定されているものと考えます。
※掘削泥水については以下の資料のp.20を参照
https://www.jstra.jp/PDF/1166a727ea341e31090f052a500a05ced2348c2f.pdf
TCP jumper product も上述の Magma と同様、DNVGL-RP-F119 の認証に基づいて設計、製造されたようです。
※参照URL:
https://airborneoilandgas.com/qualification
TCP jumper product の技術的特徴
こちらの Airborne Oil & Gas の情報を基本に見ていきたいと思います。
技術的特徴の概要は以下のようなイメージになります。
1. 構成をシンプルに
耐薬品性を有するライナーを内側に、そしてその外側をGFRTPとして、
これらをすべて「融着」による接合で一体化するというシンプルな構造とし、
基本材料の特性をできる限り活用する設計とした。
2.外装材は適宜補修可能
GFRP層をはじめとした外層材料は補修可能にし、
製品の長時間寿命を狙っている。
→恐らく、熱可塑性の特性を活用した溶融補修を基本としているものと考えます。
3. 内径表面粗さは5μm以下
表面をできるだけスムースにすることで、
セメントや原油、水等の流れによる抵抗を最小化し、
液体物輸送効率を高めている。
4. 柔らかい材料で構成することで、屈曲変形も可能に
様々な形状に追従しやすくした。また、取り扱い性も高まるとのこと。
→時間当たりの会場への投入長さ向上にもつながるとのことです。
5. 最大水深3000mでの適用が可能
耐圧性能は10,000ksiとのことなので、約69MPa程度の水圧には耐えられるとのこと。
6. 内部をセメントが通過可能
強度や耐薬品性(アルカリ性)に問題がない。
7. 緊急脱着が可能
脱着しやすいジョイントを採用している模様。
8. 高い耐水性と耐薬品性
GFRTPの特性による。
材料や構造に関する情報は限られるため詳細はわかりませんが、
GFRTPにしたことによる耐圧性、耐水性/耐薬品性、補修可能構造、弾性率の低減がポイントといえるかと思います。
やはり従来品との違いは耐腐食性、耐水性、そして弾性率です。
主に想定している outclass HCR hoses という製品を見ると、
その大部分が金属でできていることからもこの辺りはイメージしやすいかと思います。
※ outclass HCR hoses の説明動画の一例
いかがでしたでしょうか。
今回のリリースで意外なのは用いられているFRP材料が極めて基本的なものである、
というところです。
なかなか汎用樹脂で、かつオレフィンのため接着性も低いPEを、
GFRTPのマトリックスに使い、それを海底ガス油田などの採掘向けのホースに用いようという考えは思いつきません。
実際は高い性能を発現していることから、
材料選定に加え、設計を最適化することでアプリケーションの幅は大きく広がる、
ということを改めて感じました。
今身の回りに使われているFRPを改めて見直すことで、
全く異なる領域や業界への応用が可能になるかもしれません。