バサルト繊維とポリイミドを組み合わせた 超耐熱FRP Vol.158
FRP適用拡大においてネックになる要素の一つはやはり耐熱性です。
有機物の多くは酸素存在下の高温環境では炭化したり、
酸化分解するケースが多いということからも、
ある程度は不可避といえます。
このため、多くのFRPの長期使用温度は200℃を上回ることはほとんどありません。
そのような中、長期使用温度が260℃という、
バサルト繊維とポリイミドを組み合わせた 超耐熱FRP が、
TFP からリリースされています。
TFP というのはイギリスの不織布メーカーです。
事業の概要は以下の動画でも見ることができます(音楽が流れます)。
不織布は、織らずに様々な方向に繊維が絡み合っているシート形状にしたもので、
ごみ取りネットやフェルト等、身近な製品にもあります。
しかしTFPが扱うのは、医療、軍需、燃料電池といった、
比較的特殊な産業用途のものです。
例えば延焼防止材料である TECNOFIRE(R) という製品を見てみます。
概要は以下の動画を見るのが一番わかりやすいと思います。
上記を見ていただけるとわかるように、
この材料は190℃以上の熱がかかると、
自らが厚み方向に膨張して断熱層である空気層を形成。
このような形態変化によって、延焼を防ぐという材料です。
膨張した際の厚み増加率は3500%にも達します。
そのためここでいう不織布は、あまり身近なものというよりも、
特殊産業用途、もしくは材料そのものに機能性を持たせているといえます。
バサルト繊維とポリイミドを組み合わせたFRPの用途
今回ご紹介するバサルト繊維とポリイミドを組み合わせたFRPは、
OPTIVEIL(R) という製品名で展開しています。
そして、当該製品をどのような用途を想定しているのかについては、
以下の記事を見るとわかりやすいと思います。
ここにも書かれているように、この材料の用途は
「水星や太陽を探査する衛星向けの材料」
ということになります。
もちろん、より耐熱性の高い金属を用いる部分が多いとは思いますが、
ロケットで宇宙空間まで運ぶ際には、搭載できる重さとスペースが限られるため、
軽量かつ柔軟性を有する材料を用いなければならない場所もあります。
そのようなところに使うことを想定しているものと考えます。
バサルト繊維は玄武岩を原料としている天然由来の優れた繊維で、
比重はガラス繊維と同じくらい、そして弾性率も当該材料より若干高い材料です。
ただ、この材料は源流が社会主義国からきているなどの理由から、
あまり一般的には流通していないのが実情です。
この辺りは以下のコラムでも述べたことがあります。
不織布単体であればより高耐熱の製品もある
上記の長期使用耐久温度が260℃というのは、
マトリックスであるポリイミドの耐久性に支配されているものです。
もし、不織布単体となるとより高温まで耐えられます。
例えば今回強化繊維として用いられているバサルト繊維は850℃まで、
長期の耐久性を有するとのこと。
これ以外として興味深いのは、 TECNOFIRE(R) という製品名で、
AES繊維を用いたものです。
AES繊維というのは、Alkaline Earth Silicate の略であり、
原料にシリカとアルカリ金属、またはアルカリ度類金属酸化物などを用いて製造される、
アモルファスの繊維です。
この繊維は生体内体残存性という性質があるため、
より安全なフィラー向け繊維として注目されているようです。
本件の概要については以下のページをご覧ください。
http://www.thermalceramics.co.jp/pdf/14cdb9ee5e9f68d683bafe4ccb0a23b5.pdf
AES繊維を用いた不織布の長期耐熱温度は最高で1300℃。
このクラスの耐熱性があれば、マトリックスをセラミックスや金属にした、
CMCやMMCへの適用も視野に入ってきます。
当然ながらこれらの材料と繊維を組み合せる動機付け(亀裂進展の抑止、断熱性や絶縁性付与等)は必要ですが、
繊維の選択肢として様々なものがあるということは理解しておく必要はあります。
FRPの特性を引き出す検討を行うにあたり、
宇宙向けのアプリケーションを意識するというのは妥当な考え方の一つといえます。
何かの特性を極端に引き上げる、
または際立つ性能を発現させる必要があるからです。
今回ご紹介した材料は耐熱性という切り口ですが、
それ以外にも様々なニーズがあります。
具体的な市場ニーズがあるかは別として、
こういうニーズがあるのではないかという想像のもとに社会に向け提案を行い、
その提案によって解決できる課題例を示すというアプローチが、
川上企業に求められる姿勢だと考えます。