2020年のFRP業界最新ニュースの振り返り
今日のコラムでは、 2020年のFRP業界最新ニュースの振り返り?として、昨年発行したメルマガを抜粋して概要を述べてみたいと思います。
各メルマガの内容は、項目名をクリックすることでご覧いただけます。
1. PPS をマトリックスとした Toray Cetex(R) TC1100 と FAR 25.853 難燃性評価
東レに買収されたTenCateの材料であるPPSをマトリックスとする熱可塑性プリプレグのお話です。
この材料最大の特徴はやはり「難燃性」でしょう。
FAA ( Federal Aviation Administration )が難燃性要件として示している、
FAR 25.853に基づき、Avarage Max HRR ( 5 minutes )、Average Total HR ( 2 minutes ) がそれぞれ35以下であり、
厳しいといわれるFAAの要件を満たしたと想定されます。
また、熱可塑性樹脂をマトリックスとしているため靭性値も高く、
CAIで229 MPa (33 ksi)を示すなど、その特徴がでています。
2. Vestas が2040年までに廃棄物ゼロの風力発電ブレードをリリースすることを発表
SDG’sが注目され、日本政府が掲げるグリーン成長戦略の重点分野の一つとして洋上風力発電が指定されるなど、
今FRPを用いたアプリケーションの中で特に注目の高まっている領域の一つといえます。
Vestasはそこからさらに一歩先に行って、使用済みの風力発電ブレードをどのように再利用、または処理するか、
といったコンセプトを示しています。
特に注目している部品がブレードとナセル。
これらを以下にして再利用できるものに変更していくのかがキーになるとのことです。
作ることだけでなく、その後のことに目を向ける。
まさに今の時代に求められる考え方ではないでしょうか。
3. Netzsch が FRP成形加工でも用いる 粘弾性測定 製品を強化
成形加工を考えるにあたり、FRPのマトリックス樹脂の粘弾性挙動は不可避の技術的知見ですが、
この辺りを考慮した成形プロセス設計をするケースはまだ少数派のようです。
キャピラリーレオメータやずり剪断等の様々な計測技術を基本とした粘弾性測定技術の理解の第一歩として、
改めて一読いただきたい内容です。
4. COVID 19 の緊急対応に向けた 3D Printing の活用
感染拡大が未曽有の規模に巨大化した COVID-19。
第一波が出始めた頃に酸素マスクが不足し、シュノーケリングのマスクを酸素マスクに代用する、
ということを目的にそのジョイントを 3D Printing で作るという取り組みの一つとしてご紹介しました。
非営利での利用を目的にモデルデータを公開し、多くの部品が作られたようです。
このような柔軟性が 3D Printing 最大の強みであり、
強度や剛性が必要な場合はそれをFRPにすることで、
医療崩壊の危機抑止に取り組んだという事例といえます。
5. Eurofighter 向け towed decoy への CFRP 適用
感染症の拡大により世界は混乱していますが、この混乱に乗じ、紛争が絶えないという状況でもあります。
曳航式デコイとして、FRPを適用し、その成形方法に「bladder moulding technology / 風袋成形」を用いた、
という事例を紹介しました。
この技術は品質とコスト両立への一歩になる一方、
風袋には高分子を使うため、FRP硬化、つまりマトリックス樹脂重合時の活性種のアタックにより、
風袋材料が劣化するリスクがポイントなるでしょう。
6. 損傷検知をサポートするセンシング機能を有する繊維を用いた 宇宙服
これはFRPというよりも繊維についての技術でしたが、
「センシングを軸とした機能材を目指す好例」
としてご紹介しました。
Twaron(R) Ultra Microという極細のアラミド繊維と導電性センサーを用い、
宇宙服の損傷を検知するということをコンセプトとして提案しています。
7. FRP層間破壊靭性特性評価の現状と 破壊力学
材料力学の考えに固執し、破壊力学の観点を取り入れられない方が多いことから、
破壊力学の基本について述べました。
エネルギー開放率と応力拡大係数の違いと活用方法、
FRPではMode IとMode IIのどちらで評価すべきか、
といった基本について書いていますので、復習を兼ねて一読いただきたい内容です。
8. ExxonMobilが海底ガス油田向けの熱可塑性FRPホースを採用
FRP適用で注目されている海底油田、海底ガス田に関する内容です。
TCP jumper productという名称で、強化繊維にガラス繊維を、
マトリックス樹脂に汎用オレフィンであるPEを用いるという、
非常にオーソドックスな材料構成で厳しい環境での適用に挑む、
という興味深い内容です。
外装材を補修可能なものにする、柔らかい素材とすることで屈曲変形も可能にするなど、
様々な特徴を有しています。
一つの産業用途事例として知っておいていただきたい内容になります。
9. 洋上風力発電 向け大型FRP翼の寿命予想シミュレーション
「亀裂進展とそれによる破壊という予測計算精度をできるだけ犠牲にせずに、計算速度を上げる」
ということを目的に、
「破壊解析を pre-processing で行う一方、亀裂進展解析を別のモジュールで行う」
というコンセプトで進むシミュレーションのご紹介でした。
上述した通り日本政府もこの技術に取り組むのであれば、
このような知見も蓄積し、どのタイミングで部品交換を行う必要があるのか、
といった保守点検システムを構築する必要があるでしょう。
10. FRP製マンホール蓋向けの ウレタンアクリレート 樹脂の適用拡大
熱硬化性マトリックス樹脂と言えば不飽和ポリエステルかエポキシという時代は変わりつつあります。
主鎖にウレタンを導入したアクリル樹脂が欧州を中心に適用が拡大しており、
ここで紹介したマンホールはその一例となります。
アクリルが硬化特性を支配することから、ラジカル重合ベースとなり、
触媒の添加量によって高速硬化や硬化速度制御がある程度できるというのが注目すべき点です。
いかがでしたでしょうか。
昨年度はグリーンエネルギー、リサイクル、感染症対応といった内容を多く取り上げた印象があります。
世界中の価値観の変化によって、FRP業界におけるトレンドは急激に地球環境維持や、
人々の健康というところに向かい始めていると感じます。
この流れは今年度も変わらないと想像します。
しかしどのようなトレンドがあろうとも、
その基本となる基礎技術は不変です。
こういう時こそ感覚論で話をするのではなく、
その現象の一つひとつを技術的な理論をもって丁寧に解明していく、
という愚直な取り組みが不可欠なのではないでしょうか。
今年度も引き続き様々な情報をお伝えできればと思います。