大気圧プラズマによるFRPの表面処理 Vol.181
Composite Worldの記事に、大気圧プラズマ処理に関する研究開発とシステム設計を行う Plasmatreat GmbH が、
Fakuma 2021 という展示会に出展するという記事が出ました。
※Plasmatreat presents plasma systems for surface treatment solutions at Fakuma 2021
Fakmaというのは樹脂のプロセスを主とした展示会で、
今年は2021年10月12?16日という日程でドイツのFriedrichschafenという、
スイスとの国境も近い都市で開催されるようです。
https://www.fakuma-messe.de/en/
上記の予定を見ると2年に1度の開催のようです。
射出成形、押出成形はもちろん、樹脂製品の紹介もあると想像します。
Plasmatreat GmbH の有する大気圧プラズマ技術
Photographed by Visit Greenland (オーロラは太陽風というプラズマによって起こる)
Plasmatreat GmbH は日本語のHPも持っています。
会社の概要については以下のような動画があります。
技術の基本にあるのは大気圧プラズマですが、
これはその名の通り大気開放状態で行うプラズマ処理です。
HPにも書かれているように、基礎技術はドイツの半民半官の研究機関である、
Fraunhofer Institute のIFAMがパートナーであり、
Atmospheric Pressure Plasma Technology のページで示されている技術がその基本にあるようです。
私も大学院生の時に休学して、
まさにこのIFAMにて8カ月間ほど研修生として働いていましたが、
当時はこの手のテーマは無かったような気がしています。
尚、私自身は抗菌性を有する医療材料の研究をしていました。
話を元に戻します。
上記のFraunhoferのサイトを見るとわかるように、
あまり詳細は書かれていません。
ここはComposite Worldの記事の方が情報が書かれています。
要点を抜粋すると以下のようになります。
・プラズマの照射対象はCFRP
・一例としては、接着や溶着といった工程の前処理として適用
・プラズマは酸素や窒素原子を含有しており、これらを照射することで表面エネルギーを増加させる
→より親水性に近づける
・接着や接合へのアプリケーションの場合、プラズマには有機ケイ素も含有させる
→どのようなアプリケーションかによって、プラズマ含有元素は異なる
・プラズマ処理によって濡れ性の向上だけでなく、長期接着性維持にも効果がある
上記は一般的な記述という見方もありますが、
恐らく細かいノウハウがその背景に色々あるものと推測します。
接着接合においては有機ケイ素を入れるというのはその一例でしょう。
これはシランカップリング剤としての役割を担わせようとしているのが明確です。
プラズマも含有元素設計がポイントになると考えます。
今回の情報を参考に考えるべきことについて述べてみます。
FRPと金属間の接着や接合では金属側の表面処理が肝
これは良く誤解があるので一度明確に述べておきたいと思います。
あくまで一般的にですが、
「FRP/金属の接着や接合では金属側の表面処理に注意すべき」
です。
これは、経験や感覚だけでなく、
「接着や接合の媒介材料が接着剤などの有機材料であることが多い」
ため、
「無機材料である金属側との相性が悪い」
というのがあります。
FRPもガラス繊維や炭素繊維といった強化繊維の多くは無機材料です。
しかしマトリックスは基本的には樹脂です。
樹脂というのは室温で硬い高分子の事をいいます。
つまり、有機材料なのです。
無機と有機は相容れない材料です。
FRP/金属間の接着や接合の界面破壊は、
その多くが接着剤と金属間で起こるのは、
このような原理原則が背景にあることを忘れてはいけません。
そのため、上記のプラズマはFRP向けと述べられていますが、
これはあくまでFRPに関係する企業の目をむかせるために書いてるという可能性を認識する必要があります。
金属とFRPの接着や接合であれば、
同じかそれ以上に金属側の表面処理に目を向けるべきでしょう。
プラズマ処理後にどのくらい効果が持続するか
ここも盲点かもしれません。
プラズマ処理が終わった後、
表面には極性基が形成されているはずです。
しかし、その効果はどのくらい持つのでしょうか。
例えば何かが接触しても大丈夫なのでしょうか。
接触しなくても例えば室温で保管した場合、
1カ月くらい放置しておいても例えば接着特性や濡れ性は変化しないのでしょうか。
本当の量産になるとなかなか連続工程的に、
表面処理をしてすぐに後工程という流れになるとは限りません。
表面処理後に数日はもちろん、場合によっては数週間や数カ月保管される可能性もあります。
そのような保管暴露により特性は変化しないのかについて、
きちんと評価することが本プラズマを評価するにあたっては不可欠だと思います。
接触角だけでは語れない
これも難しいところです。
接触角は確かに濡れ性の判断には大変有効です。
しかしながら、濡れ性が良いからと言って必ずしも接着や接合強度が発現するとは限りません。
接触角と当該強度に相関がみられないこともあります。
そのため、接触角だけを盲信するのではなく、
接着や接合であればその工程、
特に私の経験では「圧力」に注意を払う、
といった工程を俯瞰的にみる姿勢が不可欠です。
今回は大気圧プラズマ処理をご紹介しました。
プラズマ自身は短時間で表面改質できる技術の一つであり、
FRPのように異種材接合が不可避な材料にとって重要なものとの認識です。
しかし良い技術であってもそれを生かすも殺すも使い方次第という所もあります。
技術を基軸とした原理原則から離れず、
常に本質を見据えた取り組みが求められています。