フェースにCFRPを用いたゴルフクラブヘッド
FRPはスポーツ用品に用いられることもあります。
スキー、釣り、ホッケー、ヨット、自転車、シューズ等はその一例です。
そして、上記に加えてスポーツ用品へのFRP適用の代表例の一つが「ゴルフクラブ」です。
今日はこのゴルフクラブの中で、
クラブヘッドのフェースにCFRPを使うというケースについてご紹介したいと思います。
CFRPがこれまで用いられてきたのは主にシャフトとクラウン
ゴルフクラブでFRPが用いられてきた部分として、
真っ先に思い浮かぶのがシャフトです。
いわゆるカーボンシャフトは比較的昔からゴルフ用品として使われてきており、
日本では大手だと三菱ケミカルや横浜ゴムはもちろん、
中小企業でも日本シャフトやグラファイトデザイン等があります。
また、一例として横浜ゴムはクラブヘッドの上部分であるクラウンにCFRPを適用しています。
このように、ゴルフクラブにはCFRPを中心としたFRPが使われてきた一方、
その適用範囲はある程度限定されていたというのが現状でした。
TaylorMadeはゴルフボールが接触するフェースにCFRPを適用
今回ご紹介するTaylorMadeは、従来の領域ではなく、
「ゴルフクラブヘッドのフェースにCFRPを適用した」
というのが注目に値するところです。
stealth(TM)という名称のクラブで、
「カーボンウッド(CARBONWOOD)」
という名前で呼ばれています。
TaylorMadeのカーボンウッドに関する特設サイトもあります。
TaylorMadeはアメリカに本社のあるメーカです。
創業者がメタルウッドの発明者であるというのは、
ゴルフ業界では有名な話のようです。
どのような製品なのかは、以下の動画を見ると感じられるかもしれません。
技術的にいえば、特徴は以下のようになります。
(フェースにCFRPを用いているドライバーについて抜粋して述べています)
– フェースへのCFRP適用によりTiの場合と比較し40%の軽量化とフェース面積20%向上を実現し、寛容性向上
– フェースはCFRPを60層積層したものを採用
– 表層の綿密な凹凸形状設計により、エネルギー伝達効率向上、ボールの適切なスピン付与、
並びに心地よい打音のバランスを実現
– ヘッド形状の最適化により、スウィング時の空気抵抗を低減
– CFRPクラウンにより余剰重量が増加
ドライバーだけでも3種類の品番がありますが、
ロフト角のバリエーション違いや、
HDという恐らく「ハイドロー」という、
ドローバイアスなるスライスを抑制する設計のクラブだと考えます。
今回のリリースにおける技術的なポイントについて考えてみます。
スポーツ用途はFRPの機能性を発現させるのに良いアプリケーション
まず個人的な実感として、
安全性が第一の航空機や供給安定性とコスト重視の自動車等と異なり、
スポーツ用途は製品構成素材とユーザとの距離が近いため、
「カスタムメードの文化が残っており、材料の機能性を求められる」
という傾向にあります。
stealth(TM)で着眼した機能性は打音
今回のstealth(TM)も、飛距離や扱いやすさだけでなく、
打音という機能性を重視していることに注目する必要があります。
軽量化というFRPで一般的に求められる部分だけでなく、
「FRPを用いた製品設計の肝といえる軽量化+α」
のαの部分のコンセプトがきちんと盛り込まれています。
FRPは異方性があるため振動応答が一般的な均質材と異なることが知られており、
過去にはFRPの振動特性を活かしたケースをご紹介したこともあります。
・関連コラム
CFRPが適用された アコースティックギター LAVA ME PRO
Milled Fiber を積層方向に配向させた機能性シート材
FRPが複合材料であることを強みと捉える観点が重要
FRPは複合材料である故、
繊維と樹脂が相容れない状態で共存している状態にあります。
それを使いにくいという見方もありますが、
この相容れない故に材料中に多くの異種材料間の界面が存在し、
その間の応力伝達はシェアラグモデル(以下の関連コラム参照)を基本とした、
せん断モードで伝わるという技術的事実が、
振動応答の特異性と減衰特性を発現する土台にあるのです。
・関連コラム
様々な製品や業界においてコモディティー化が当たり前になっている昨今。
従来の考え方では先細りである、
という焦燥感も漂い始めているかもしれません。
こういう時こそ、技術の基本中の基本である本質に立ち返り、
FRPであれば「軽量化+α」に何があるのか、
という観点で幅広い技術の基本を見直すということが大切なのだと考えます。