コンクリートの補強材向け引抜成形GFRP材
今月に入り、大手ガラス繊維製造メーカである Owens Corning が、
引抜成形を得意とする Pultron Composites と Joint Venture を設立すると発表しました。
概要は以下のプレスリリースで読むことができます。
Owens Corning and Pultron Composites Form Joint Venture to Produce Fiberglass Rebar
このリリース内容も触れながら、
コンクリートの補強材へのFRP適用という流れについて述べてみたいと思います。
コンクリートには補強材として鉄筋が入っている
Photographed by Lintang Samudera
改めてコンクリートを考えてみると、
多くはその中に補強材として鉄筋が入っています。
最も身近なものの一つが家の基礎でしょう。
家の基礎を作る以下の動画を見ると、
途中で骨材と呼ばれる鉄筋が見えると思います。
これがいわゆる補強材です。
この補強材を鉄ではなく、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)にしよう、
というのが今回の話の趣旨になります。
鉄筋コンクリートに求められるのは徹底した耐久性
鉄筋コンクリートの用途はインフラや建築など、
「できるだけ長くそのままもつこと」
が求められます。
鉄筋コンクリートは複合材料の一種で、
マトリックスであるコンクリートと補強材である鉄筋で役割が違います。
前者が耐圧縮荷重、後者は耐引張荷重という機能が設計コンセプトにあります。
そして耐久性維持に大切なのが、
「補強材である鉄筋に腐食性のある溶液(酸性雨や海水など)が到達しない」
ということ。
鉄筋コンクリートの補強材腐食の原因となる上記のような液体浸透の主原因が、
補強材埋設位置の不適切さ(表面や底面付近に補強材が存在する)に加え、
コンクリートのクラックです。
コンクリートで被覆されていない補強材の鉄筋が海水等に接触すると簡単に腐食し、
その腐食現象によって生じる体積膨張が結果的にコンクリートの損傷を引き起こすことで、
さらに腐食が進行するという負のスパイラルに陥ります。
この辺りは以下の動画でわかりやすく述べられています。
コンクリートの耐久性向上に向け短繊維を混錬する考え方もある
上記の動画でも紹介されていましたが、
鉄鋼やガラスの短繊維をコンクリート自体に混ぜるという取り組みがあります。
これは、コンクリート自体の強度を高めるというより、
クラックなどの初期損傷が生じる荷重向上が主目的にあります。
クラックを生じにくくすることのメリットは、
既に述べた通りクラックが補強材と外部環境の接触ルートになることによります。
例えば材料学会誌でも放射性廃棄物の埋設処分施設への適用を想定し、
コンクリートに鋼繊維を混錬した人工バリア材料の透水性を評価しています。
コンクリートに繊維を混ぜる際に生じる空隙が透水性向上の原因の一つになっていること、
透水が進行するとこの空隙に水が浸透する可能性等が述べられています。
詳細については以下をご覧ください。
鋼繊維入り高強度高緻密コンクリートの透水性評価 酒本 琴音 他
このようにコンクリートそのものに短繊維をフィラーのような形で加えて初期損傷を抑えることで、
補強材への腐食液浸透を防ぐというアプローチも行われています。
Owens Corning の動きは自領域を超える覚悟の一面を示唆している
FRPを適用しようとするアプローチは、
鉄筋コンクリートにおけるコンクリートではなくその補強材に向けたものとなっています。
冒頭紹介した Owens Corning と Pultron Composites の協業によって示唆されるのは、
コンクリート補強材向けのGFRPを世に出していこうという挑戦に対し、
いよいよガラス繊維メーカという川上企業が主体となって動く兆候であると考えます。
今までのように、材料メーカは材料だけを売っておしまい、
または川中、川下企業の御用聞きの結果出てきた要望に沿った動きをしようという姿勢から、
自分たちが主体としてより川下側に降りていこうという変化が出始めているのです。
以下では Owens Corning がFRP製のコンクリート補強材に関する概要動画を見ることができます。
Owens Corning はガラス繊維メーカですが、
従来のガラス繊維メーカと比べ、
積極的に新しい材料を開発する取り組みを進めています。
過去には、以下のような取り組みを取り上げたことがあります。
このような取り組み自体は決して新しくはありませんが、
企業が自領域を乗り越えて取り組む姿勢を示していると理解して間違いはなさそうです。
Pultron Composites が得意とする引抜成形は同一断面成形に適した成形方法
引抜成形というのはその名の通り、
「樹脂を含浸した繊維が引張られながら型の中を通過し、既定の形状に成形される連続工程」
となります。
どのようなものなのかは、以下のような動画を見るとわかりやすいかもしれません。
以下の動画で紹介されているのは中空パイプ形状になります。
尚、引き抜き成形については以下にも取り上げたことがあります。
何故鉄筋代替の補強材の成形に引抜成形が適用されたのかについては、
成形方法を見るとご理解いただけると思います。
技術的な観点から言うと引抜成形は単純なイメージがあるかもしれませんが、
その型設計には高度なノウハウが必要であることは加筆しておきます。
コンクリート補強材のFRP化最大のポイントは耐腐食性
何故鉄筋の代わりにFRPを使うのか。
その答えは、鉄筋コンクリートの求められる最上位要件を考えればわかりやすいでしょう。
鉄筋コンクリートで最も重要なのは耐久性であるということは既に述べました。
では、耐久性という観点で従来の補強材である鉄鋼と比較し、
FRPが優位性を発揮できるのは何かと考えると、
「耐腐食性」
という単語があぶりだされます。
インフラにFRPが適用されるとすると、
その多くの適用動機は耐腐食性が基軸となる可能性が高いことを念頭に置くと、
様々なプリケーションの検討の一助になるかもしれません。
当然ながら軽量化も見逃せません。
密度だけを考慮した場合、鉄鋼に比べるとGFRPはVfなどにもよりますが概ね3分の1以下。
冒頭の Owens Corning のプレスリリースによると、
既存の鉄鋼の補強材と比べて7分の1と書かれていることから、
材料置換だけでなく同一材料特性を維持しながらの形状変更も行っていると考えられます。
軽量化できれば作業性も上がり、
また輸送も楽になる。
やはり軽量化というメリットも副次的とはいえポイントといえます。
歴史の浅さと塑性変形の難しさが課題の可能性
一方で課題として考えられるのが、
「土木建築への適用は歴史の長さが最重要」
という考え方でしょう。新しい材料を新たに土木建築に適用しようとする場合、
その歴史の浅さという「技術的な観点とは無関係な部分」が障害となると容易に想像できます。
加えて、鉄鋼であれば容易にできる塑性変形も、
FRPではそれほど簡単ではありません。
引抜成形を適用している時点で、
ガラス繊維の中でも連続繊維、つまりロービングが使われているため、
そもそもマトリックス樹脂は簡単に曲げることはできません。
無理に曲げようとすれば割れてしまうばかりではなく、
仮にマトリックス樹脂が熱可塑だとして現場で加熱して曲げるとしても、
繊維が屈曲して強度も低下します。
FRPの宿命ともいえる異方性は最後までつきまとうとも言えます。
この辺りの課題も考えながら、
しかしどのようにして進めていくのか、
ということを記事を読みながらも能動的に考えることが、
様々な情報を読む際の目線としては重要と考えます。
いかがでしたでしょうか。
技術的課題や業界的障害はあるものの、
うまく使えば金属材料より長く使える可能性があります。
このようなところに少しずつFRPが適用され、
過去に木材から金属やコンクリートといった材料が拡大した時と同様、
基礎設計スキルの底上げが起こることで、
FRPが適材適所に使われるようになることを期待したいと思います。
FRPの土木建築への適用事例の一例としてご理解いただければ幸いです。