Stuttgart大学でUV硬化FRPの研究プロジェクト開始
今回は私自身も会社員の頃に取り組んでいたUV(紫外線)硬化型のFRPに関する話題を取り上げます。
Photographed by Dobromir Hristov
ドイツStuttgart大学の Institute for Aircraft Construction で始まったEUVAMという研究プロジェクト。
このプロジェクトではFRPに対して光硬化、より具体的には紫外線硬化システムをマトリックス樹脂に適用することを目指しています。
本内容は以下の記事で取り上げられています。
EUVAM project investigates energy-efficient UV process for composites curing
この記事も参考に考えてみます。
※参考URL
Institute for Aircraft Construction
EUVAMとは
Stuttgart大学の研究プロジェクトで2023年1月11日に開始されたようです。
概要はこちらのサイト(ICM Projekt EUVAM gestartet)で述べられています。
この記事の要点を述べると以下のようになります。
・FRPに光硬化システムを適用し、この材料をICM Demonstratorfahrzeug (BUP14) という車両への実装することが想定されている
・ICM Demonstratorfahrzeug (BUP14) というのは新しいコンセプトの燃料電池車
・光硬化の中で主に検証されるのは紫外線硬化
・紫外線硬化を採用することで(熱硬化よりも)硬化工程のエネルギー効率を高めることが狙い
・紫外線硬化適用に伴う材料特性の低下と効率的な硬化工程のバランスをどの位置でとれるかを突き詰める
・紫外線硬化システムはデジタル制御もやりやすいため、工程のデジタル化にも寄与できる
・光の届かない炭素繊維強化プラスチックなどの紫外線硬化が技術的な課題
※参考URL
InnovationCampus Future Mobility (ICM)/twitter
以上の事から、紫外線硬化のFRPは新しい構造を有する燃料電池車の構造部材を想定しており、
紫外線硬化という光を媒体とした硬化システムは硬化工程の効率化とデジタル制御の採用ということを見据えているようです。
紫外線硬化最大の課題は透明ではない材料の硬化
紫外線に限らず、光硬化システムは様々なメリットがあります。
高速硬化、作業環境における熱的なメリット(高温にならない)、設備の簡略化等がその一例です。
その一方で、EUVAMの紹介文にもありましたが
「色がついてる媒体は光を透過しにくい」
という課題があります。
特にFRPの強化繊維の一つである炭素繊維は最も光を通しにくい黒色です。
この事実をどのように乗り越えるかが最初の壁となります。
これにも関連し、EUVAMに関連する研究論文が2021年に出されていますのでそちらも見てみたいと思います。
紫外線硬化型樹脂に関するStuttgart大学の研究者が執筆した論文概要
EUVAMに関連する論文は以下になります。
実際に論文を読むには購入が必要ですが、概要は公開されています。
こちらの論文について要点を抜粋すると以下のようになります。
・論文の主目的は紫外線による樹脂の硬化状況を調べた結果を述べること
・評価に用いたのはウレタンアクリレート系の光硬化が可能なプレポリマー
・硬化状況は硬度ShoreD(ASTM D2240)で評価
・評価するプレポリマーを染料によって着色させ、色合いと紫外線硬化への影響を理解
・使用した紫外線はUV-A、B、Cで、プレポリマーの色によって適した光の波長を選定
・405nmの紫外線が着色によらず、最も深くまで光が浸透し、硬化が進行し、プレポリマーが透明の場合に最深10.5mmの領域まで硬化した
・プレポリマーを黒色にすると光硬化反応は大幅に抑制され、不均一な重合体となった
概要だけでも重要な情報が含まれています。
やはり色がつくということは光硬化反応進行において一番の課題であることが述べられています。
着色が光硬化反応に大きな影響を与えているということです。
405nmという波長の紫外線が色によらず硬化反応を効率的に促進した、というのは大変興味深い情報とみて良いでしょう。
光硬化の樹脂で想定すべき他の課題
他にも課題はあります。
代表的なものをいくつか述べてみます。
身の回りの光でも硬化が進行
まず第一は紫外線を含む光源で、想定外に硬化反応が進行してしまう、ということです。
照明はもちろんですが、窓の外から入る太陽光も光源となります。
黄色の光は紫外線領域の光を比較的抑制できることが知られており、
紫外線硬化の材料を扱う現場では黄色光源で作業をするということもあります。
硬化反応進行についてラジカル系は早いがカチオン系は遅い
アクリルなどのビニル基(炭素二重結合を有するもの)を有する反応系において、
紫外線を含む光硬化は非常に速い反応を実現できます。
その一方で、同じ光硬化でもエポキシなどのカチオン重合はそれほど速いわけではありません。
つまり光硬化がすべて早いというのは誤解なのです。
光硬化によって得られた重合体は物理・機械特性が熱硬化のものと比較して低くなりやすい
今は状況が変わったかもしれませんが、
光硬化で得られた硬化物は熱硬化のそれと比べて物理・機械特性が低い傾向にあります。
架橋点間を結ぶ硬化材の材料特性が低いことによると私は考えています。
EUVAMの紹介でも述べられていたように、ある程度の材料特性低下を許容しながら、
紫外線を含む光硬化システムのデジタル制御との相性の良さ、
硬化工程におけるエネルギー効率の高さというメリットを享受するというバランス感覚が必要なのかもしれません。
いかがでしたでしょうか。
光硬化性樹脂は既にFRPとしては実用化されていることもあってそれほど真新しいものではありませんが、
硬化というと熱硬化という視点に陥りがちなのも事実だと思います。
例えば光硬化はデジタル制御がやりやすいということは、
ロボットなどでの硬化工程制御がやりやすくなるという可能性を示しています。
(既に一部実用化されています)
用途や状況によっては過酷な環境でFRPを積層や成形しなくてはいけない可能性も考えると、
現場で人が介在せずにロボットがこれらの作業の主役になることも想定できます。
熱源が要らない硬化システムというのはロボット側の耐熱性も不要になる等、
工程全体としてのメリットも見いだせると考えます。
材料の改質が進み、今以上に非加熱硬化システムがFRPでも一般的になっていくと期待しています。