Composite Structures Volume 315の概要とFRP学術業界トレンド
FRPを含む複合材料に関する科学誌は複数ありますが、その中で Composite Structures は複合材料の構造部材をメインテーマにしたコアジャーナルと呼んでいいものの一つです。
私も会社員時代に何度か論文を送る挑戦をしましたが、掲載してもらうことができませんでした。
Composite Structures の最新号である Volume 315 の中から論文を抜粋してポイントに触れ、
また当該誌全体を踏まえたトレンドということについてみてみたいと思います。
※以下、項目タイトルをクリックいただくと論文のページに移動できます。
Buckling analysis and design optimization of trapezoidal composite plates under hygrothermal environments
Buckling、つまり「座屈」というFRPが示す特徴的な破壊形態に着眼したテーマです。
台形形状のFRPを高温、高湿状態での荷重負荷によって生じる座屈と、
それを回避するための形状設計最適化をCAEを使ってやろうというのが趣旨です。
荷重のかかったFRPの変形挙動を剪断を基準(first-order shear deformation theory /FSDT)として予測し、
generalized differential quadrature (GDQ) 、恐らく何かしらの形で一般化された求積法によって、
座屈を起こす温度と湿度を求めるというもののようです。
温度と圧力だけでなく、積層、境界条件等をパラメータとして調査したようですが、
概要としては温度、湿度が高いことが座屈挙動に最も大きな影響を与えることが分かったようです。
論文の中身を見られないので詳細はわかりませんが、形状を決定するパラメータの抽出には成功したようで、形状設計の最適化への足掛かりを何かしらの形で提案できている可能性もあります。
座屈という破壊事象については過去にもコラムで触れたことがあります。
FRPを衝撃吸収部品等に使う場合には必須の知見と言えます。
※関連コラム
熱可塑性FRP円筒の軸圧縮破壊における破壊力学パラメータ検証
Low-velocity impact response of self-piercing riveted carbon fiber reinforced polymer-AA6061T651 hybrid joints
FRPの異種材接合において、航空機業界では主力の一つであるリベットに関する研究です。
FRPとA6061(アルミ)の熱処理材をリベットで締結し、そこに動的荷重である衝撃をかけた際の荷重応答と衝撃による損傷を評価しています。
損傷度合いはリベットでの締結力に大きく依存し、リベットに直接衝撃荷重が加わった場合に締結力の大幅な低下が確認されたとのこと。
FRPとアルミの締結部の損傷挙動は大きく2つに分かれており、
一つはFRP自体の破壊で特に低エネルギー(10J以下)の衝撃で支配的になり、
もう一つがリベット材であるアルミの塑性変形によるもので、
これはより高エネルギーの衝撃によって顕著になると述べられています。
リベットを打ち込んだ軸方向の衝撃にはアルミの塑性変形が、
それ以外の軸方向の衝撃にはFRPの損傷破壊が損傷挙動の主となり、
これらの理解がリベット締結の耐久性向上に向けた取り組みに重要ということが言いたいのだと思います。
FRPのリベット締結部に関する耐衝撃性の評価というのは詳細が不明であるため、
このような研究論文はこの領域の解明に向けた一助になると期待できます。
Nonlinear micromechanical modeling of fully coupled piezo-elastic composite under large deformation and high electric field
圧電材料を高磁場環境で大変形をさせた場合、どのような電気機械的挙動をするのかについて、
シミュレーションすることを目指すというのがテーマです。
挙動を予想するため、グリーンひずみテンソル(有限変形理論を基本とした変形前後のベクトル変形を弾性率で表現)、Eshelbyテンソル(母相に埋まっている楕円形介在物による応力場とエネルギーを計算する手法)、Eshelbyにフィラー干渉を考慮して複合材料向けの理論に修正したMori-Tanaka理論を採用し、圧電材料の挙動を把握することを狙っています。
圧電材料の電気歪み挙動は非線形を示したことから、
内点法の一種であるニュートン法(非線形方程式を解く手法の一つ)を用いてアルゴリズムを構築したようです。
これは様々な体積分率や形状の介在物を含む圧電材料に対しても予測ができるようになったとのこと。
圧電素子は複合材料の中でも複雑な挙動を示す材料ですが、
その挙動を非線形挙動を前提にある程度よくできるようになったのは、
機能を有する複合材料の性能予想に向けた前進と言えるでしょう。
変形によって発電できる圧電材料適用拡大に何かしら影響を与えるかもしれません。
※参照情報
グリーンのひずみテンソル
複合材料の物性値推定のためのマイクロ・メカニックスモデルの基礎と応用(1)
Nonlinear thermo-acoustic response and fatigue prediction of three-dimensional braided composite panels in supersonic flow
面内だけでなく、層間にも繊維を配向させた多軸織りのFRPの空力弾性という、
流体にさらされたFRPの応力や振動などの挙動を解明しようという研究論文です。
空力荷重のかかり方にはPiston法を用い、有限要素法での微分方程式を解く際、重み付き残差法の一種であるガラーキン法、ルンゲ・クッタ法を用いて行う等書かれていますが、どれも結局のところ古典理論を中心に評価条件を整えたと考えます。
これらの評価結果から、空力弾性は振動応答に加えて疲労寿命にも影響を与えたとのこと。
空力荷重や振動による疲労寿命という単語から、恐らく航空機を意識した解析技術が念頭にあると考えられます。
※参照情報
空力弾性:NX Nastran – Aeroelasticity
ガラーキン法
ルンゲ・クッタ法
全体を通じての印象
タイトルとAbstractを見ての印象ですが、
・異種材接合
・非線形数値予想
という2つが注目されていると感じます。
上記で紹介した論文以外ではco-cureで一体化した複合材料の静的破壊について述べているものがありました。
こちらはオープンアクセスなので全体を読むことも可能です。
FRPを本格的に活用するにあたり不可避の異種材との併用にあたり、
該当する要素技術の検証が求められているのかもしれません。
FRPが単独では使える範囲が狭いという裏付けと考えています。
また数値予想は構造設計では鉄板テーマですが、その数値予想の前提が非線形になってきていると感じます。
線形解析は現象を表現しやすいことから理解が容易である一方、
FRPのような複合材料も今回機能材の一例として出てきた圧電材料や、
塑性変形の可能性もある熱可塑性樹脂と組み合わせて使うとなれば非線形挙動を想定することは必須となります。
今後はFRPの世界でも最急降下法、共役勾配法、準ニュートン法といった単語も当たり前に聞こえるようになるのかもしれません。
非線形の挙動解明においては手計算が難しくなっていくため今以上に計算の理論がわからない事例が増え、ソフトに依存する研究者や技術者が増えることは懸念されます。
複雑な事象をいかにシンプルにとらえ、本質を理解するかという技術に対する真摯な姿勢が重要になっていくと考えます。
FRPに関係する学術業界の動向を少しでも感じていただければ幸いです。