Grid形状のFRPを用いたデータセンター向け建築材
情報化社会といわれて久しい現代において、サーバー、クラウドや関連する機器を設置するデータセンターは社会インフラの一部となっています。
COVID-19の影響によるオンライン業務の増加や5G等の高速通信の開始、
そしてビックデータの活用への注目等によってデータセンターの役割はますます大きくなっているといえます。
データのバックアップや頻繁な更新が必要なソフト運用は今やクラウド上で行うのが常識となっています。
今回はデータセンターの構造部材へのGrid形状のFRP適用ということについて述べます。
データセンター向け構造部材への要求
Photographed by Manuel Geissinger
大きく分けると以下の点に集約されるようです。
・優れた断熱性
・外部からの水分等の浸透遮断
・比強度/比剛性を高めることによる内部構造スペースの拡大
・構造物製造時の効率向上と環境負荷低減
・耐薬品性をはじめとした耐久性の向上
このような観点を含む評価について規格化も進んでおり、北米だと
The American Society of Heating, Refrigerating and Air Conditioning Engineers (ASHRAE)
というものがあるとのこと。
・参照URL
The American Society of Heating, Refrigerating and Air Conditioning Engineers (ASHRAE)
この協会の発行している規格 ASHRAE Standard 90.4が更新されています。
これは業界では有名な話のようで、例えばこちらの情報も日本語で公開されています。
上記の観点も踏まえ、どのような形でFRP適用につながっていくのかについて考えます。
データセンター構造部材としてFRPを用いる動機は比強度と比剛性の向上
以下の記事を参考に考えてみたいと思います。
Composites-reinforced concrete for sustainable data center construction
ここはFRPが強い特徴として示している軽量材料という部分が基本となっています。
関連する内容についてみていきます。
データセンター構造部材の基本構造と形状
ターゲットとしているのはデータセンターの構造部材のうち壁材になります。
外層であるコンクリートの層の間に引抜成形したスチレンを挟み込みんで中間層とし、
これらの層間をGrit形状のCFRPで補強するという形態になります。
外から見るとコンクリートですがそのコアとなる中間層はスチレンで、
表層から裏層に向かって厚み方向にGrit形状のCFRPで補強するというイメージとなります。
Grit形状というのは目の粗い網のイメージです。
グリーンネットフェンスをイメージいただくと概ね近しいものになります。
以下は類似したフェンスのイメージ画像です。
Photographed by JÉSHOOTS
形状そのものはまさにパネルです。
巨大なまな板のような形状を想定していただいて大きな問題はありません。
データセンターの大きさにもよりますが一般的には12 square feet(約11.16m2)、厚みが9 inch(229mm)です。
この中間層には断熱目的でおよそ3 inch(76.2mm)厚みのスチレンが挟み込まれているという形状になります。
この断熱性能を示す数値の一つとしてR値というものがあります。
R値については以下のコラムで触れたこともあります。
※参照コラム
FRPを用いた医療向け シェルター Tupelo Flat Pack Shelter
Grit形状のFRPであるC-GRIT(R)
今回補強材として用いられるのはCHOMARATのC-GRIT(R)という材料です。
C-GRIT(R)の紹介ページにも書かれているように、
主にコンクリート構造材の軽量化や補強を主に用いられる事を想定しています。
繊維の積層方向は0°/90°で、ここにエポキシ樹脂を含浸、硬化させることで、
繊維同士を固定し、かつ垂直方向にラティス構造を有する材料となります。
恐らく樹脂量もそれほど多くなく、強化繊維自身が平織などの密に織り込まれていないグリット形状なのでロール状に巻き取ることも可能だと考えます。
熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂としながらも、硬化後も変形させて使うことができるというのは面白い材料といえます。
Grit形状のFRPを多く入れればいいというわけではない
ここで一つポイントとなる観点があります。
それは、Grit形状のFRPを多く適用すれば様々な性能が正の相関を示して上がるわけではないということです。
一般的にはパネルの幅24inch(610mm)ごとに使うのが適切だとのこと。
多く使うと性能が落ちるというわけではないようですが、あまり変わらないということなのだと思います。
加えてFRPを多く使うことはパネルを製造するという工程の長時間化を助長することからも、
不必要にGrit形状のFRPを使う必要はないという考えをあえて述べているものと考えられます。
連続成形で製造される板形状のスチレンは断熱に加え水分の浸透を防ぐ
データセンターの構造部材、特に壁に使われる材料に求められるのは断熱性に加え水分浸透の遮断です。
この機能発現を担うのは中間層に用いられるスチレンです。
引抜成形で作られるとのことなので板形状になります。
ここで用いられるスチレンについて詳細は述べられていませんが、表面に光沢を示すような樹脂の板材です。
そのため、外層であるコンクリートとの密着性を担保するため表面をサンドブラストで表面処理すると書かれています。
この表面処理によりパネルの圧縮強度で25psi(0.8MPa)程度向上するようです。
同等性能のコンクリートパネルと比べ50%の重量削減に成功
外層にコンクリート、中間層にスチレンを適用することによって製造されたパネルは、断熱などの要求性能について同等である100%コンクリート製品と比べ50%の重量削減に成功したとのこと。
重量は1m2辺り33kgです。
これは同従来のコンクリートパネルの密度と比較し3分の1になります。
軽量化できれば輸送も組み立ても楽になるというメリットはあえて言及するまでもないかもしれません。
密度の大幅な低下により比強度、比剛性が大幅に向上
上記の通り密度が下がるということは構造設計に大きな影響を与えます。
単位密度当たりの強度と剛性、すなわち比強度、比剛性が向上するからです。
既に述べた通りデータセンターではできる限り広いスペースが求められます。
その方が多くの設備を設置することができるからです。
その際にポイントとなるのが比強度と比剛性。
同じ強度や剛性を達成しようとする際に必要な材料重量が低下するため、
それを支える柱を細くする、または設置密度を下げることができます。
これこそが構造部材で囲まれた空間を拡大させる鉄則的な考え方です。
コンクリートとスチレンを組み合わせたことが、このような新たな価値を生むこととなったのです。
最後にFRP適用の動機と課題について考えます。
Grit形状のFRPを使ったのは層間の強度を高めるため
今回FRPを用いた理由はずばり
「中間層と外層の一体化の実現」
です。
スチレンとコンクリートの間が剥離すると構造部材としての特性が失われるため、
常にこれらが密着している状態を維持しなくてはいけない。
これこそが今回FRPが用いられた理由です。
加えて炭素繊維を使っているので、もしかすると面外の変形を抑制するという高剛性化に貢献しているかもしれません。
ただ、最重要の役割やコンクリートとスチレンが層間方向に剥がれないことだと考えます。
材料を複合化すると廃棄やリサイクルがやりにくくなる
この話題は避けて通れないでしょう。
作れば終わりという時代ではないからです。
コンクリート単体は様々な再利用法がありますが、
そこに有機物の樹脂が入り、更にはFRPも入ってくると想定外の異物だらけの複合材料となります。
このような形態の材料をどのようにして再利用、並びに廃棄するのかについては課題も出てきます。
複合材料も岐路に立たされているのかもしれません。
今回はデータセンター向けの構造部材とそこに用いられるGrit形状のFRPについてご紹介しました。