CF/PA12のCFRTP製パイプの天然ガスや二酸化炭素の海中輸送向けたDNV認証取得
StrohmとEvonikが水素の元となる天然ガスや二酸化炭素などの海中輸送を目的に炭素繊維とPA12(ポリアミド12)を組み合わせた、CFRTP製パイプでDNV-ST-F119の認証を取得しました。
今日はこの動きの背景も含めて述べたいと思います。
VESTAPE(R) PA12-CFが原材料
今回の認証取得のリリースは以下で見ることができます。
今回の動きを主導しているのはNLR(Netherlands Aerospace Centre)です。
VESTAPE(R) PA12-CFというテープ形態の材料(厚み0.25mm、幅160mm)を用いた熱可塑性のCFRTPパイプは最高使用温度80℃、耐用年数30年で設計されており、700気圧に耐えることができる仕様とのこと。
使用されている炭素繊維はHTつまり、標準弾性率タイプになります。これはパイプとしては柔軟性が求められることに対応していると考えます。
そしてCFRTPは腐食にも強いことから、海中輸送など塩による腐食が懸念される領域で金属代替材料として重宝されます。
PA12というのは以下のような化学構造式で示されます。
Drawn by FRP Consultant
少しわかりにくいかもしれませんが、基本構造中にアミド結合のCを含めてCが12個あることからPA12と呼ばれます。
PA12については過去のコラムでも取り上げたことがありますが、NやOを構造中に有するために極性材料であり、融点も178℃と熱可塑性樹脂の中では比較的低いのが特徴といえます。
融点が低いためガラス転移温度も40℃と低めです。また、降伏応力が45MPa、引張弾性率が1.4GPaということで前者はPEEKの半分、後者は同60%減と物理、機械特性はスーパーエンプラと比べると低めになっています。
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Vf45%の状態でのVESTAPE(R) PA12-CFの特性は以下の通りです。一般的な二次構造材という印象です。炭素繊維を使っている割には弾性率が低い理由としては上述の通りです。
以下のデータの見方:試験項目/試験環境(RTDは室温、Dryという意味です)/試験規格/特性数値
Tensile strength 0°/ RTD/ ISO 527/ 1750MPa
Tensile modulus 0°/ RTD/ ISO 527 /100GPa
Flexural strength 0°/ RTD/ ISO 14125/ 900MPa
Flexural modulus 0°/ RTD/ ISO 14125/ 95GPa
Compressive strength 0°/ RTD/ ISO 14126/ 350MPa
Short beam shear, ILSS/ RTD/ ISO 14130/ 45MPa
In-plane shear strength/ RTD/ ISO 14129/ 30MPa (5% strain)
In-plane shear modulus/ RTD ISO 14129/ 1.4GPa
Poisson’s ratio/ RTD/ ISO 572/ 0.32
ref: Evonik HP
過去にPEEKをマトリックス樹脂とするCFRTPパイプで実績有
今回の主役であるStrohmは過去にCF/PEのCFRTPパイプでDNV-ST-F119の認証を取得した経験があります。社名はAirborne Oil & GasからStrohmにかわっています。
今回はPEよりもはるかに高い材料特性の樹脂を用いたことから、より過酷な環境での使用を想定していると考えられます。
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ExxonMobilが海底ガス油田向けの熱可塑性FRPホースを採用
今回の認証取得はオランダとドイツの共同の取り組みが背景にある
今回の動きのキーになるのは、H2M Eemshavenという取り組みです。
これがどのようなものなのかを理解するには、以下のような動画を観た方が早いかもしれません。
最上位にあるのはいわゆるブルー水素を用いて脱炭素を進めるということです。
動画を観ていただければわかるように、ブルー水素を製鉄産業など二酸化炭素排出の大きな産業に直接供給し、また電力を風力などで担保する等して、徹底的に脱炭素の取り組みを進めるというのが基本にあります。
CFRTPパイプが関係するのは北欧からの天然ガス輸送と、発生した二酸化炭素を海底地殻中に貯蔵するという話だと考えます。
どちらも高圧で海水中を安全に輸送する必要があります。
当然水素輸送等技術的課題は多いと思いますが、オランダとドイツという異なる国々が手を結んで取り組むというのは欧州らしいものといえるでしょう。
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CFRTPは海上輸送という選択肢において力を発揮する素材であることを感じていただけたと思います。
海に囲まれている日本でも類似の技術的ニーズがあるかもしれません。
ただインフラやエネルギーでは新しい材料を使いたがらない文化が日本にはあるようにも感じます。
一方でインフラの長寿命化は喫緊の課題であることを考えれば、CFRTPのような材料を適用するという柔軟性が次世代に向けての取り組みとして必要であるという考え方もあるのではないでしょうか。
欧州の追従ではなく日本は日本のやり方で持続可能な社会を達成し、次世代にバトンを渡せることを期待したいと思います。