複合材料が機体やエンジンの部品に用いられている戦術輸送機A400M
Airbusによるとドイツ北部のWunstorfという町に、A400M向けの保守、点検、整備等を実施する、
メンテナンスセンターを新たに開設すると発表しました。
※参照情報
Ground-breaking ceremony in Wunstorf
新たなメンテナンスセンター開設は、既に戦争状態にある東欧への対応やきな臭さを増す中央アジア、
そして今まさに緊張の高まりから実際の衝突につながってしまっている中東を意識したものであると考えます。
要望の根底にあるのはNATOの存在です。
今日はこの記事を参考に、軍事輸送機におけるFRP適用とその保守について考えてみたいと思います。
A400Mは戦術輸送機の一つ
A400Mというのはエアバス・ディフェンス・アンド・スペースによって開発が行われた戦術輸送機です。
輸送機ですので爆撃などは行わず、主には物資や人の輸送を担います。
本格運用は2013年からですので、恐らく現時点では新しい世代の戦術輸送機となります。
A400MについてはAirbusのサイトで概要を見ることができます。
組み立ての概要を説明した以下のような動画もあります。
概要としては以下のような数字を抑えておくといいかもしれません。
Maximum range 4,800 nm (8900 km)
High speed M 0.72
Cargo hold volume 340 m3
Delivery heavy payloads Up to 37 tons
ここでいう最大航続距離は、積載重量が0の時の距離です。
尚、非公式な情報なので妥当性の確認は必要ですが、
20t積載の場合で6390km、30t積載の場合で4540kmと、
積載重量に応じて航続距離は短くなっていきます。
何故航空機では軽量性を重要視してFRPのような材料を用いるのか、
ということをご理解いただける一つの実データ例とも言えます。
乗員は3-4名、全長45.1m、全幅42.4m、全高14.7mのサイズ感です。
最大30t積載が可能とのことです。
TP400-D6-Aというターボプロップエンジンを搭載
A400Mはプロペラを動力とした戦術輸送機です。
プロペラといっても、具体的にはTP400-D6-Aというターボプロップと呼ばれるエンジンで、一般的なターボファンエンジンの最前回転翼であるファンローターがプロペラとしてむき出したイメージとなります。
多軸である3シャフト構造を有し、11,000という軸馬力を実現しており、
可変ピッチシステムも採用しています。
このシステムについては以下のコラムでも触れたことがあります。
※参照コラム
また後退角をつける、つまりプロペラが軸の真横から見た際に後ろに反ったような形をしているため、
回転に伴う衝撃波の発生を遅らせる形状となっており、
A400Mは最高飛行速度マッハ0.72に到達します。
尚、よく近場を飛ばす航空機の一例であるB737という旅客機を例にすると、
最高飛行速度は概ねマッハ0.73-0.79程度ですので、
プロペラと言えどもかなり早いことがわかります。
またターボファンと比べて離陸や着陸に要する最低滑走距離が770mと短いのも強みです。
様々なところへ、または様々なところから物や人を運ぶことを使命とする輸送機は、
滑走路に対しても対応力を求められます。
輸送機にターボプロップが多いのはこのような理由になります。
この観点では日本のC-2輸送機はターボファンエンジンですが、
最短離着陸滑走距離が500mしかないにもかかわらず、
36tの積載重量を実現しています。
日本も優れた輸送機を持っていますね。
自宅上空で飛ぶ姿をよく見ます。
ターボファンなので音が静かなのが助かります。戦闘機のターボジェットは本当に激しい音が出るのに対し、対照的です。
※参照情報
輸送機にも多くの複合材料が使われている
既に述べている通り、輸送機の構造部材の鍵となるのは強さや剛性を担保した上での「軽さ」です。
実際、A400Mでも多くの複合材料が用いられていると書かれています。
ここでいう複合材料がFRPか否かは不明ですが、
少なくともそこで言及されている材料の一種としてFRPは含まれるでしょう。
FRPが使われている可能性のある領域は、
A400Mは機体の構造部材に加え、
一番目立つところではエンジンのプロペラでしょう。
薄い形状である上、日常的な回転によって遠心力がかかり続け、
さらに何かが衝突する恐れがあるため強度も欲しいという所にFRPはもってこいです。
今回、特に明記されていませんが、
全面かどうかは別としてTP400-D6-AのプロペラにはFRPが使われていると私は考えています。
FRPに限らず長期利用にメンテナンスは不可欠
もう一つ理解して起きたい観点があります。
冒頭に紹介したAirbusのリリースにもあるように、
A400Mは新たなメンテナンスセンターを開設したというリリースに関連します。
これが意味することは、まだそれほど台数(2021年時点で100機程度)が出ていないA400Mが、
これから徐々に主力になっていくにあたり、
長期運用を見据えた点検や修理、そして部品交換などを行うことを想定しているものと考えます。
実はFRPにおいてもメンテナンスの考え方は重要です。
プロペラの場合、使い方にもよりますが表層全面に特殊なシールを貼っている場合もあり、
これが剥がれている、損傷しているということであればそれを修理、または交換することもあります。
ただ翼の構造部材であるFRPが損傷をした場合は、
無理に補修するよりも翼ごと交換することが望ましいと考えます。
目視で仮に損傷が見つかったとすればそれは内部により大きな損傷が生じている可能性があるためです。
ただFRP構造部材の点検を行うにあたり、大原則は非破壊検査による内部検査です。
外部に異常が無くとも、内部欠陥を疑わせる信号(例えばエコーなど)が出た場合、
部品ごと交換するという指針を主とした保守点検指示書を準備しておくことが、
運用上は重要となります。
英語では Matintenance Manualとも呼ばれ、メンテナンスの現場で活用されています。
いかがでしたでしょうか。
特定地域から脱出をする、特定地域に救援物資を届けるといった役割が期待される輸送機。
そこにもFRPが使われています。
安心して輸送機を運用するためにも、
今回ご紹介したような保守、点検、修理、交換といったメンテナンスが必要であることに疑いの余地はありません。