FRP業界での活躍を目指す企業のコンサルティングパートナー

Glass Fiber Europe が示した自動車向けGFRPのリサイクルに関する指針

2023-12-11

Glass Fiber Europe が示した自動車向けGFRPのリサイクル対象品の一つは内装材であるダッシュボード

 

FRPというと炭素繊維を用いたCFRPを思い浮かべる方が多いようですが、
何度か述べたようにガラス繊維を強化繊維としたGFRPの方が量として圧倒的に多いの現状です。

例えばですが、JEC Composites Magazineの特別号である、
Overview of the global composites market 2022-2027によると、
複合材料としての重量ベースでの2020年の市場規模は、
実績ベースでCFRP関係が50万トンであるのに対し、GFRPは1060万トンです。

強化繊維の密度の違いを考慮してもその違いは圧倒的であり、
FRPを含む複合材料業界ではGFRPが主役であることは明らかだと思います。

さらに調査会社の市場調査を一例にすると、
GFRPの市場は今後10年間は9.54%びペースで成長し、
2029年の時点で430億ドルに到達するという予測も出ています。

※参考情報
GFRPに関する2023年から2029年までの市場動向予想(Exactitude Consultancy)

上記のJEC Composites Magazineでも、
重量ベースで年50万トン程度の成長が見込まれるとの記載があり、
GFRP関連の産業は継続した成長が見込まれています。

 

そんなGFRPに対し、いよいよリサイクルに関する話が本格化してきました。

過去にもGFRPリサイクルの重要性は述べたことがあります。

 

※関連コラム

GFRPに近い将来求められる リサイクル

 

今回はGlass Fiber Europeが2023年12月発行の方針書で示した、
自動車向けGFRPのリサイクルに関する指針について述べたいと思います。

 

 

 

Glass Fiber Europeとは

1987年に設立された欧州でガラスの連続繊維、
いわゆるガラスロービングを生産する産業声明として始まった組織で、
拠点はベルギーにあります。

以下の8つの企業から構成されているとのことです。

3B the fibreglass company
Envalior
FYSOL SAS
Johns Manville
Nippon Electric Glass
Owens Corning
Saint-Gobain Vetrotex
Valmiera Glass

欧州企業が主ですが、日系企業も入っています。

日本電気硝子(Nippon Electric Glass)は2016年にPPG Industries, Inc.の欧州ガラス繊維事業を買収していることが、上記の組織に名を連ねた理由と考えます。

以下のプレリリースを見るとPPGの英国にあるガラスロービング生産工場に加え、
オランダにある自動車向けチョップドストランドマットの供給拠点が買収対象である、
ということが参考情報として述べられています。

※参考情報

欧州ガラス繊維事業取得に関する覚書締結についてのお知らせ(日本電気硝子株式会社プレスリリース)

 

Glass Fiber Europeは欧州を拠点としてガラスロービングを生産する企業が主となっており、
欧州の研究機関やメディア、そしてNGO等の組織を代表して、
EUと連携しているとのことです。

ビジネス、気候/エネルギー、環境/化学規制、健康といった4つのカテゴリーで、
欧州におけるガラスロービングの適用を後押ししていきたいということを使命とする旨が、
HPにも記載されています。

この辺りは以下で見ることができます。

※参照URL
About us / Glass Fiber Europe

 

 

 

自動車向けGFRPのリサイクルに関する指針について

Glass Fiber Europeが示した指針の概要は以下のHPで述べられています。

THE END-OF-LIFE OF VEHICLES AND GFR COMPOSITES

この記事を参考に、方針の中身を見ていきたいと思います。

 

 

対象としているのは自動車に用いられているGFRP

GFRPが用いられている産業や用途は多くありますが、
今回の指針はあくまで自動車産業を対象としているようです。

恐らく2輪も4輪も含まれていると思いますが、
文脈を見ると何となく4輪を主として想定しているようにも見えます。

 

 

自動車を対象としているのはGFRPのリサイクルの取り組みに改善の余地があると考えているため

何故自動車を主たる対象にしたのかということについて、
明確には述べられていません。

しかし、文脈からすると自動車に用いられているGFRPが増加し、
これが電動化によって加速する可能性があること、
さらに自動車業界におけるGFRPのリサイクルの取り組みはまだ未熟で、
改善の余地があるのではないか、という観点があるように感じます。

実際、自動車は比較的リサイクルに対して積極的に取り組んでいる業界であるため、
裏を返すとリサイクルのフローがきちんと確立できないと、
GFRPを自動車で使ってもらえない、というようにGlass Fiber Europeは考えているのかもしれません。

 

 

主として想定される部品はダッシュボードと基板

自動車でGFRPが使われている箇所として紹介されているものを転載すると、
以下のようなものが書かれています。

dashboard, front end, central arm rest, doormodules,
headlamp reflector, hatchback, seat structures, frames,
noise engine shielding parts, heat shields, pillars,
headliners, airbag covers, roof frame,
timing belt and V belt, rear shelves,
spare wheel cover, PA air intake manifold, radiator caps,
cylinder head (e.g. valve rocker, cam) covers,
clutch disks, brake pads, fuel tank locking cover,
printed circuit boards, and battery casing

もちろん、上記の素材すべてGFRPであるわけではなく、
そうでない部品を搭載している車種もあります。

また想定より部品の種類が多いと感じられた方もいるかもしれません。
それは恐らく、GFRPといってもガラス繊維長がmm単位以下の射出成形品が含まれているためだと思います。

 

その中で、まずターゲットにすべきはダッシュボードと基盤とのこと。

サイズは10cm3以上の比較的サイズが大きなものに限ると書かれています。

 

 

GFRPのリサイクルにおいて避けなければいけないのは”汚染”

これは私自身も経験があるのですが、
例えば樹脂のリサイクルを例にとると、
同じ種類の樹脂でもアロイとしての配合が違う等の異なる組成となった時点で、
マテリアルリサイクルは困難になります。

主剤が概ね同じであっても、異なる化合物が入ると特性が変化する、
リサイクルプロセスを安定化しにくいといったことが理由なのかもしれません。

そのため、Glass Fiber Europeの指針においては、

「GFRPを汚染することなく”分別する”」

ということを重視していることがわかります。

例えば、GFRPは一般的な樹脂部品と比べて強度や剛性が高いため、製品寿命も長い。

 

これを踏まえ、GFRP成形部品をそのまま取り出し、
再利用するという事も考える必要があると述べられています。

 

 

またガラスというくくりで、
フロントガラス、リアガラス、サイドガラスのような、
Na2CO3やCaCO3を含むものとGFRPを一緒に考えるべきではない、
という主張もされています。

組成の異なるガラスの混入も汚染の一種として認識していると考えます。

リサイクル重量実績という数値目標を追いすぎて、
汚染防止というGFRPリサイクルに重要な工程管理がなされないことは避けなければならない、
といった旨の言及がなされているのも注目すべき点です。

実績数量を追うよりも、汚染を起こさせずにGFRPを再利用するために何が必要かを明確化するため、
ダッシュボードと基板という2つのターゲットから実証実験を開始し、
汚染回避と持続可能なGFRPリサイクルフローを構築しようとしているのかと思います。

 

今回の記事から考えるべきことは何でしょうか。

 

 

 

リサイクルの大前提は分別にあることを理解する

リサイクルを論じる前に、
この点を意識できていない方が多いと感じています。

異物が入った時点でリサイクルは難しくなるというのは、
言われれば当たり前のことですが、
当たり前すぎて盲点になりがちなのかと思います。

 

今回ご紹介したものを例とすると、
窓に用いられるソーダ石灰ガラスとガラス繊維を混ぜない、
という観点が該当すると思います。

その一方で、GFRPは複合材料である時点で異物の固まりです。
ガラス繊維と樹脂が強制的に一体化されているためです。

この事実がマテリアルリサイクルを難しくしている最大の理由です。

今回の指針では、GFRPを熱分解させてセメントのフィラーに用いる技術を事例として、
マテリアルリサイクルを述べていますが、
FRPリサイクルで最終到達点といわれる、

「ガラス繊維と樹脂の分離」

の到達にはまだ遠いということがお分かりになるかと思います。

用途が二次構造材や内装形状物から充填剤(フィラー)になってしまう、
すなわち用途がダウングレードしているというのが、
上述の”程遠い”をご理解いただくのにわかりやすい観点の一つです。

 

 

 

そのまま再利用するは実現できれば有効なリサイクル法

もう一つ興味深かったのが、

「GFRPは長寿命なので、そのまま再利用する」

という考え方です。

部品の形状を変えずにそのまま再利用するというのは、
実は最も理想に近いマテリアルリサイクルです。

自動車の寿命である10年程度でGFRPが劣化することは、
高温環境、オイルなどの溶媒、紫外線に日常的に暴露されない例えば車内設備等での利用では考えにくく、
そのまま使うことに特に問題はないと考えます。

ただ直接人の目に触れる、人が触るという箇所にそのようなものを使うことは、
心理的な抵抗があるかもしれないので、
人目に付かない部品であれば形状を維持したリサイクルの可能性があると感じています。

本観点は個人的には盲点だったため、
興味深かったです。

 

 

いかがでしたでしょうか。

今回はGFRPのリサイクルについて、
自動車というアプリケーションを事例に、
Glass Fiber Europeの方針をご紹介しました。

本質を捉え、どのようにして循環型社会を実現するのかについて、
FRPの世界でも模索が始まっています。

FRPのリサイクルにはどのような観点が本質なのかという視点と、
実現性と継続性を見据えた戦略の検討が重要なのだと思います。

Copyright(c) 2024 FRP consultant corporation All Rights Reserved.
-->