廃棄された風力発電ブレードの靴底材料適用によるリサイクル
原料高のあおりを受けて投資額が激減しているとはいえ、
今も注目が高い洋上風力発電。
洋上風力発電に限らず、
今後も風力発電関連ではブレード材にFRPが使われ続けると予想されます。
しかしここには負の側面もあります。
風力発電そのものは風という自然現象をエネルギーに変えられますが、
安定運用には保守点検が必要である上、
寿命を迎えたFRPブレードをはじめとした構造材料の廃棄方法まで考慮しなくてはならないからです。
風力発電機のブレード材であるFRPの廃棄を、
マテリアルリサイクルで対応しようという新たな取り組みをご紹介します。
FRP製風力発電ブレードは既にその廃棄量が激増することが予想されている
本点は過去のコラムでも取り上げましたが、
風力発電ブレードの寿命/EOL(End of Life)が20年、
1MWの発電量に対して用いられるブレードのFRP重量が10トンであると想定した場合、
2019年時点で652,190MWの風力発電を担っている6,521,900トン(約650万トン)のFRPが、
EOLである20年後の2039年にその役割を終えると予想されています。
※参照コラム
FRP製風力発電ブレード驚きの廃棄量予想と求められる取り組み
尚、風量発電による発電量のデータを更新すると2022年末時点で906,000MWとのことです。
上記の予測に基づくと、2042年には約900万トンものFRPが1年間で廃棄される可能性があることになります。
※参照情報
風力発電機FRPブレードを粉砕し、靴のソールに適用
Image above was referred from EL GANSO
このような状況の中、
風力発電機のFRP製ブレードを粉砕し、靴底材料に用いることで、
マテリアルリサイクルを実現しようという取り組みが始まりました。
スペインでエネルギー事業を主事業の一つとして運営するAcciona Energiaと、
同国のファッションブランドである El Gansoが共同で、
上記のコンセプトのスニーカーをリリースすると発表しました。
本取組に関する動画も以下のサイトで公開されています(英語字幕がついています)。
また、このスニーカーに関する情報は以下のページで見ることができます。
概要を見てみます。
原料となった風力発電機
スペインのナバラ州で1998年に運用を開始した風力発電機のFRP製廃棄ブレードを使ったとのことです。
累積で12,500MWの発電を行っており、
これは5461トンの二酸化炭素排出量削減、
もしくは4160本の樹木が吸収する二酸化炭素に該当するとのこと。
ブレードの長さは23メートル。
以下の関連記事に書かれています。
Acciona Energia, El Ganso develop shoes made with recycled wind blade materials
風力発電ブレードリサイクルの取り組みの見込み
スペインだけでも20,000個のブレードをリサイクルする必要があると見込まれており、
リサイクルのスケールアップは不可欠とAcciona EnergiaとEl Gansoは認識しているようです。
これに応じて産業スケールでリサイクルを行う工場を、
ナバラ州のLumbierに設立することを発表しています。
今回のスニーカーへの廃棄ブレード材適用は、
その起爆剤になるとの意思表示がなされています。
まずは80%以上の廃棄ブレード材を回収し、
将来的には100%リサイクルを目指すとしています。
風力発電ブレードのスニーカーのソールに適用するにあたっての技術的なポイント
次に技術的なポイントを見たいと思います。
想定しているFRP材料
強化繊維はガラス繊維、マトリックス樹脂はエポキシ樹脂とのことです。
剛性と強度に加え、
硬化収縮を抑制することを目的に風力発電ブレードではエポキシが用いられるようです。
廃棄予定のブレード材は粉砕のうえ、スニーカーソールのゴム材料に添加される
ブレード材は機械的な処理により、
粉状態に粉砕されるようです。
粉砕されたブレード材はフィラーのようなイメージで、
スニーカーのソールのゴム材料に混錬されるとのこと。
ガラス繊維とエポキシ樹脂で構成される粉砕材料は、
摩擦という機能性向上に寄与するとのことで、
スニーカーのソールに適していると考えられていると述べられています。
加えて耐久性向上にも効果があるとのことで、
ダウングレードと言えどもマテリアルリサイクルを行う価値はある、
ということを述べたいのだと思います。
今回の内容から考えるべきことは何でしょうか。
できるだけ機械的、化学的処理無しに再利用できるのが望ましい
マテリアルリサイクルを想定した場合、
FRPは強化繊維とマトリックス樹脂という複数の材料から構成される複合材料ゆえ、
廃棄された後の再利用が難しいものの一つと考えられており、
私も同意見です。
そのためFRPのリサイクルを想定した場合、
個人的にはできるだけそのまま使える手法を主として選択すべき、
と考えています。
例えば、以下のような駐輪場の屋根という再利用は個人的には望ましい形態だと考えます。
粉砕などの機械処理や薬品を用いた化学処理が不要であり、
追加工は必要であるものの、できる限り元の形を活かすことで、
リサイクルに向けた工程が簡略化できることに気づいていただけると思います。
Wind turbine blades repurposed as bike sheds
適切な管理と必要に応じた補修が重要
もう一つ理解しなくてはいけないのが、保守点検という考え方です。
ヘルスモニタリング技術も応用しながら問題は小さなうちに検知する等、
適切な管理を行うことで安定した発電量を確保する、
という観点が風力発電では不可欠です。
日々の運用において、
風雨による摩耗はもちろん、
落雷や鳥、並びに雹の衝突等もリスク要因です。
風力発電機のヘルスモニタリングについては、
過去にもコラムでご紹介したことがあります。
※関連コラム
損傷した箇所については、
必要に応じた補修が必要なのは言うまでもありません。
今回の取り組みで興味深かったのは、
スニーカーという”個人向け商品”にリサイクル材料を適用したことです。
廃棄材料のリサイクルといった社会的な課題に関連するもの、
個人にその重要性と必要性を理解してもらうことが肝要だと思います。
今回の取り組みはそのようなコンセプトで進められた案件ではないか、
と個人的には考えています。
FRPが持続可能な材料として認識されるためには、
まだまだ試行錯誤が続くと思いますが、
今回のような取り組みが既に始まっていることは理解しておく必要はあるでしょう。
ご参考になれば幸いです。