FRP自動積層を応用した新しいCMC製造法
FRPは強化繊維とマトリックス樹脂を組み合わせた複合材料です。
複合材料の分類のやり方はいくつかありますが、その一つがマトリックスの種類による分け方です。
FRPはじめ、マトリックス樹脂が高分子のPolymer Matrix Composites(PMC)。
金属がマトリックスであるMetal Matrix Composites(MMC)。
そして、セラミックスがマトリックスのCeramics Matrix Composites(CMC)です。
最近、新しいCMC製造が発表されました。
以下がその概要になります。
Addcomposites: Rapid cost-effective production of damage-tolerant C/C-SiC composites
今回はCMCの概要と、記事で取り上げられた技術について文献を引用しながらご紹介したいと思います。
近年注目が高まるCMC
Image above was drawn by AI by ordering to show heat resistant property of CMC
セラミックスは耐熱性が高く、軽いという強みがある一方、非常に脆い材料です。
この弱点を強化繊維で補う狙いが、CMCという複合材料誕生の原点です。
CMCについては過去にも取り上げたことがあります。
※関連コラム
高耐熱複合材料の CMC ( Ceramics Matrix Composites )
CMC最大の特徴はその卓越した耐熱性です。
CMCには複数種ありますが、今回新しく紹介するC/SiC系のもので耐熱温度が1350から2100℃といわれています。
それ以外にもSiC/SiC、C/C等がありますが、その多くについて同温度が1000℃を超えています。
なお、スラッシュの前が強化繊維、後がマトリックスを示しています。
CMC適用では航空業界が先行
航空機のエンジンは高温で燃焼させるほどその効率は高まります。
よって、構造材の耐熱性能は必須です。
航空機エンジンは前方をコールドセクション、後方をホットセクションといいますが、特に耐熱性が求められるのが後者になります。
インコネル(R)をはじめとした、ニッケル合金等の超耐熱合金が使われる背景はここにあります。
しかし航空機は1gでも軽くしたい。
そこで登場したのがCMCとなります。
商用エンジンだとLEAPエンジンのタービンシュラウドに適用したのを皮切りに、GE9Xではシュラウドに加え、燃焼器のライナー、ノズルにCMCを採用するなど、今や一般的になりつつあります。
軍用機はそれ以前に採用が進められ、F35に搭載されるXA100エンジン部品にCMCが使われ、比較対象部品は不明なものの25%の燃費改善と10%の推力向上を実現しているとのことです。
上述の情報含め、より詳細をご覧になりたい方は以下のサイトをご覧ください。
※参照元情報
CERAMIC MATRIX COMPOSITES: IS THE FUTURE HERE YET?
CMCの作り方
CMC製造方法は、FRPのそれと比べて全くの別物です。
以下の情報を参考に概要を述べたいと思います。
※参照情報
SiC化学気相含浸法における気相・表面素反応モデルの構築と最適反応設計/東京大学学術機関リポジトリ
CMC製造方法は主に4つ
CMC製造方法は複数あります。
そして単一の製造方法ではなく、これらを組み合わせることが多い旨、参照情報に書かれています。
一覧にすると以下の4つになります。
- 化学気相含浸法(Chemical Vapor Infiltration/CVI)
- 液相含浸焼成法(Polymer Impregnation and Pyrolysis/PIP)
- 溶融金属含浸法(Melt Infiltration/MI)
- 固相含浸法(Solid Phase Infiltration/SPI)
それぞれについて参照情報を元に、簡単に述べます。
CVI法
その名の通り気相での反応が基本となっています。
積層、プリフォームされた強化繊維に、気体のマトリックス原料を供給します。
SiCマトリックスの場合、四塩化ケイ素(SiCl4)とメタン、水素等の混合気体を用いるようです。
ここに熱をかけることでSiCl4中の塩素が炭素と置換し、SiCを形成するものと考えます。
SiCの純度が高く、プロセス温度も900から1000℃程度(文献によっては1200℃程度のものもあり)と、SiCを生成する反応としては比較的低温なのが強みとのこと。
その一方で、膜の生成速度が遅いためプロセス時間が長いという課題もあります。
工程時間短縮を目的に圧力や温度に勾配をつける、またそれとは別にSiC層の均一生成を狙い、強化繊維の入った環境を減圧環境において反応ガスをパルス的に導入する、というやり方もあるようです。
※参照情報
PIP法
Siを主構造内に含む高分子化合物を強化繊維に含浸させ、その後、焼成することでSiCを形成させるとのこと。
SiC形成速度はCVIより早く、反応温度も低いという強みがある一方で、焼成時に高分子が気化するため空隙が多く、また繰り返しの焼成が必要という課題もあるようです。
今回ご紹介する技術は後述するMI法に加え、このPIP法が基材製造の基本となっていると考えます。
MI法
強化繊維に炭素粉末を充填し、そこに溶融したSiを流し込むという工程とのこと。
(後述の通り、この記述工程はSPI法の可能性があります)
空隙の少ないマトリックスが短時間でできる一方で、工程温度が非常に高いため、強化繊維の特性低下が生じるのはもちろん、反応設備への影響も無視できないものと考えます。
この強化繊維の特性低下はSiC繊維の場合、アモルファスになることが主因のようです。
SPI法
こちらは参照情報に記載が無かったため、以下の情報を参考にしました。
※参照情報
これを読む限り、SPI法はMI法と類似内容の記述となっています。
これ以外にもいくつか情報を確認しましたが、MI法として記載されたものをSPI法として記述したものが多かった印象です。
異なる工法ではあるようですが、MI法とSPI法で具体的に何が違うのかについてまでが良く理解できていません。
なお、今回ご紹介する新しいCMC製造方法がMI法で、その内容を確認したところ、炭化したC/C積層体にSi粉末をまぶして焼成すると記載がありました。
CMC製造方法で参照した情報におけるMI法とは厳密には異なっています。
もしかすると、SPI法はSiの溶融液を直接浸させる、MI法は粉体を含む固体のSiとCを接触させた状態で焼成して含浸させる、という違いなのかもしれません。
新しいCMC製造技術は自動積層を取り入れたPIP法とMI法を組み合わせている
冒頭でご紹介した新しいCMC製造方法に関する内容に入っていきます。
このリリース内容は以下の学術論文で詳細が記述されています。
本内容を参照しながら概要を述べたいと思います。
CF/PEEKをμAFPで自動積層してプリフォームを作製
CMC主原料はFBR-MP0007というテープ材料でCF/PEEKです。
材料特性などの詳細は分かりませんが、以下のサイトでSDSを見ることができます。
FBR-MP0007 PEEK/CF Safety Data Sheet
これをμAFP(Micro Automated Fiber Placement)で自動積層することでプリフォームを作製するとのことです。
0.25mm厚みで3mm幅のテープ材を用いています。
AFPというと通常は門型や片持ちのロボットで自動積層するイメージですが、μAFPというのはいわゆる3D printingです。
設備の一例として以下のようなものがあるようです。
※参考情報
積層材を焼成後、MI法によってSiを含浸
積層材は窒素雰囲気下、850℃で30分焼成します。これによりPEEKが炭化します。
酸素が存在すると600℃近辺から酸化分解が生じることがTG(論文中Figure 1)の結果で示されています。
これによりC/C複合材ができます。
炭化した平板の上下面にそれぞれSiの粉を供給した後、減圧環境下で毎分10℃ずつ昇温させて1450℃で30分保持し、同昇温速度で1670℃まで上げて1時間保持してSiCを形成させるとのことです。
このSiの供給量は適当ではなく、炭化した積層材の空隙が埋まる量を計算し、上下面から50/50の比率で供給すると書かれています。
含浸状態はX線CT、EDS、ラマンなどで確認
CMCで問題になりがちな空隙率はX線CTで計算しており、おおむね10から20vol%との記載があります。
FRPを想定すると大変大きいと感じる方がいるかもしれませんが、CMCとしては悪くない数値です。
加えてSEMのEDSで元素分布の確認をしています。
後述する曲げ試験後の試験片を検査しており、その破壊表面にはSiC、CF、Cが存在していることが示されています(論文中Figure12)。
内部の元素構成をさらに細かく見るため、CMC断面のラマン分光分析結果も示されています。
Si元素がみられるものの、含浸しているマトリックスの多くがSiCに変化していることが示されています(論文中Figure 9)。
CMCの材料形態になっている事実を、これらの分析結果を用いて総合的に判断したと考えます。
曲げ特性
材料特性は曲げ試験で評価しています。
論文中のFigure 10で示されたDS線図(横軸はひずみではなく変位のためD/Displacementとしています)を見ると、ばらつきはあるものの、その多くが200MPaを超えています。
変位0.1mmを超えたあたりから大きな破壊挙動を示す試験片が増加する傾向にあるようです。
非常に微小な変形で破損することがよくわかります。
そしてある程度は致し方ないところではありますが、荷重付加初期段階から階段状の線図となっており、脆性材料故、損傷は常に継続して生じていると推測されます。
脆性材料であったことも考慮し、Weibull分布を想定した回帰分析を行っており、当該確率分布モデルで破壊確率を説明できることが示唆されています。
個人的な感覚としては、DS線図を見た限り正規分布でも説明できる破壊現象だと感じています。
この辺りは算出したWeibullモデルの形状母数の値を見れば確認できると思います。
母数数値が大きければ、Weibull分布の確率密度関数も正規分布のそれに近くなるからです。
最後に、技術的なポイントを見たいと思います。
自動積層を応用したことでFRP技術のCMCへの展開の糸口となっている
今回着目したのは、FRP由来の技術をCMC製造技術に応用したという視点です。
FRP技術はニッチのため応用展開がやりにくいことが多いのですが、ここからさらにニッチなCMCに目を向けたことが興味深かったです。
PIP法はFRPを基本にC/C複合材を製作する工程と相性が良く、三次元形状の成形体を得る積層工程に関し、今後更なる応用展開が期待されます。
そしてμAFPのような3D printingは、内部空間を有するような複雑形状積層も可能であることも強みといえるでしょう。
CMCの耐熱強度
今回は評価対象外でしたが、CMCの高温環境下での材料特性に興味があります。
使用可能温度は1000℃を超えるとの認識が一般的ですが、そのような環境温度でCMCの特性がどの程度維持できるかは重要な観点です。
当然ながら酸化分解反応が不可避である“酸素が存在した高温環境”です。
ここで最も興味があるのが圧縮特性です。
マトリックスや、繊維/マトリックス界面の特性変化が顕著に出やすいからです。
もしかするとCMC材料において高温での酸化分解が進むのは、マトリックスではなく強化繊維なのかもしれません。
その場合、引張特性を見たほうが特性変化を理解しやすい可能性もあります。
今回は超耐熱複合材料のCMCを自動積層で製作する技術と、その評価結果をご紹介しました。
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