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Bcompの天然繊維強化FRPがQuintessenza(R)のコンセプト電動車に採用

2024-07-08

FRP材料サプライヤの中で、天然繊維強化FRP(Natural Fiber Composites、以下、NFC)を中心に、
成形体までの供給に対応するBcomp。

BcompがItaldesignがリリースしたQuintessenza(R)のコンセプト電動車向けに、
NFCを成形した部品を供給したとの発表がありました。

※リリース内容

New Bcomp Materials for Italdesign Quintessenza(TM) Concept Car

この内容を踏まえ、概要の紹介と技術的なポイントについて考えたいと思います。

 

 

Quintessenza(R)のコンセプト電動車とは

概要を知るには以下の動画をご覧いただくのが良いかと思います。

2024年4月25日から5月5日まで開催されていたBeijing Auto Show 2024で発表されたと書かれています。

人を中心に水、土、火、空気など、自然のさまざまな要素とつながる、
というものをコンセプトにしており、
ミラーレスといったものは当然として、
後部座席が後方に倒れることで空を眺めるといった場所に変化するといった、
なかなか斬新な仕掛けが組み込まれています。

そして人間工学に基づくデザイン、
心地いい生地、後述する環境にやさしい素材の採用なども、
冒頭ご紹介した動画中で触れられていました。

このコンセプト電動車については、以下のような記事もありますので、
詳細を知りたい方はこちらをご覧ください。

 

※関連記事

Quintessenza(R)

 

Italdesignは日本メーカのコンセプト車のデザインをしたこともある

Quintessenza(R)のコンセプト電動車をデザインしたItaldesignという企業は、
デザイン業界では有名なようです。
例えば自動車のデザインであれば欧州車を中心にいくつもデザインしています。

以下のような日本車のコンセプトデザインも行ったことがあるようです。

Nissan GT-R50 by Italdesign

 

 

Bcompとは

スイスに本社があり、Flax(亜麻/リネン)を主とした天然繊維を強化繊維とした、
樹脂を含浸していないドライの基材や樹脂を含浸したプリプレグを製造販売し、
かつその成形まで対応することで成形体として供給することにも対応しているようです。

材料を起点に、成形加工という川下まで対応する企業といえます。

FRPは材料、設計、成形加工、検査といったものの結びつきが強く、
分業が成立しにくいと何度も述べてきました。

Bcompは自社の”材料”に自社の”成形加工技術”を当てはめることで、
より川下側の顧客に歩み寄るというスタイルによって、
この分業成立の難しさに対応していると考えます。

事業領域としては自動車関係に力を入れているようですが、
スポーツ、一般消費者向けの製品、そしてインフラといった他業界へと、
その範囲を広げている最中と推測します。

Bcompの展開事業領域はこちらのページで見ることができます。

 

 

Quintessenza(R)のコンセプト電動車に適用されたNFC

ここからQuintessenza(R)のコンセプト電動車へのNFC適用について触れていきたいと思います。

Quintessenzaのコンセプト電動車には、天然繊維を強化繊維としたFRPが用いられている

Photo credit : ITALDESIGN

 

採用されたのはBcompのampliTex(TM)

BcompはFlaxを主としながらも大きく分けて4つのカテゴリー材料をラインナップしています。

UD、+45/-45、朱子織、綾織といった連続繊維であるドライ基材であるampliTex(TM)、
グリッド材を主としたpowerRibs(TM)、
そしてそれぞれの基材をPP(ポリプロピレン)で含浸したプリプレグがあります。
PPを含浸させたものは、材料名称の中にPPという文言が加筆されています。

 

インテリアとエクステリアに使用された天然繊維基材

冒頭のリリース記事によると、
Quintessenza(R)のコンセプト電動車のインテリアにはampliTex(TM) biaxial fabric、
エクステリアにはampliTex(TM)を使っているとのことで、
ドライの基材が採用されたと考えます。

インテリアでいうとシート背もたれのプレート、
エクステリアではバンパーが一例として紹介されています。

ampliTex(TM) biaxial fabricは+45/-45の積層方向であることを意味しています。
製品ラインナップの中には
基材の配向位置を維持する目的でFlaxの横糸を入れたものとそうでないものがありますが、
どちらが採用されたのかは定かではありません。

エクステリアについてはampliTex(TM)としか書かれていませんが、
画像を拡大すると朱子織に見えます。

もしそうだとするとBcompの製品群でいえばampliTex(TM) 200, balanced satin weave 0/90°かもしれません。

 

NFCのマトリックス樹脂は黒の外観を実現し、リサイクル性を有するもの

組み合わせる樹脂は”a custom black resin”としか書かれておらず、
外観性に加えリサイクル性を考慮して選定したとしか書かれていません。

Flaxは茶色がかった色となるため、黒染めしているとも書かれており、
Italdesignがこだわる芸術性という観点で黒色にこだわりがあると考えます。

リサイクル性については、

…the recycling process through its monomaterial composition…

と書かれていることから、モノマーまで分解できる材料と推測されます。
PLA(ポリ乳酸)などの生分解性ポリマーである可能性もあります。
もしくは、化学反応によってモノマー(もしくはオリゴマー)まで低分子化させているかもしません。

過去にはポリアセタールを有する化合物を、
酸によって分解させるという研究例もご紹介しました。

 

※関連コラム

FRP学術業界動向 CFRPリサイクル を目指した分解可能なアセタール架橋サイジング剤

 

NFC適用動機は二酸化炭素排出量低減効果

Quintessenza(R)のコンセプト電動車に対してNFCを適用する動機として、
end-of-lifeでの二酸化炭素排出量が、
炭素繊維やガラス繊維のFRPと比べ最大85%削減できることにあると述べられています。

原料が天然素材ですのでその時点でカーボンオフセットの効果があり、
さらに再利用可能なマトリックス樹脂を使うということで、
新材料生成と比べてエネルギー消費の観点でメリットがあるといいたいのだと予想します。

 

最後に技術的なポイントを見ていきたいと思います。

 

 

ampliTex(TM)に関するデータは非公開

Bcompに要求しないと材料データは開示されないため、
材料特性は不明です。

ただ、製品名などからいくつか情報を見ることもできます。

 

製品名についている3桁の数字は目付

例えばampliTex(TM) 350, bi-axial +/-45°という製品名の350は350g/m2のことだと思います。
目付はFRP材料設計の基本ですので、ご理解いただくといいと思います。

以下のような解説コラムがありますので、
詳細はそちらをご覧ください。

※関連コラム

はじめてのFRP 材料仕様を示す 目付 、 Vf そして RC

 

強化繊維の主な材料はFlaxだが、木炭由来の繊維や炭素繊維もある

主とした強化繊維はFlaxでしょう。
ただampliTex(TM) 245, twill 2/2, charcoal 4477H、
ampliTex(TM) hybrid carbon UD tapeなどもあり、
繊維は複数種あるようです。

 

適用するにあたっては茶色より灰色から黒色が好まれる

Flaxは茶色ですが、この色だけでなく灰色や黒色の繊維がラインナップされていることに気が付かれたと思います。
Quintessenza(R)のコンセプト電動車でも、
マトリックス樹脂は黒色の樹脂でした。

黒をはじめとした暗い色はデザイン的に使用しやすい上、
成形加工時に発生する汚れが目立ちにくい、
というメリットもあります。

 

天然繊維は吸湿する

樹脂に埋まった状態とはいえ、
表層に強化繊維が多少なり露出すれば、
そこから吸湿することになります。

吸湿で材料が劣化するという観点もあるのですが、
私個人として気にかけているのが、

「吸湿による膨張で生じる応力の影響」

です。

自動車のようにあまり大きくないものは良いのですが、
例えばより大型の建造物にこの手の材料を用いた場合、
吸湿による変形が無視できない応力発生につながる可能性があります。

マトリックス樹脂がある程度、弾性変形できれば応力の発生は低減できるものの、
弾性変形するということは拘束されているような変形不可の箇所で応力集中が生じると考えられます。

このように、変形をどこかで吸収しようとすれば、
そのひずみが逃げられない箇所で応力発生源に変化し、
それが破壊起点となる恐れがあるのです。

締結部を増やすなどの工夫により、
応力集中させないという設計思想が、
特に大型構造設計では求められます。

 

天然繊維は真直性や品質の安定性に課題があることもある

ガラス繊維や炭素繊維など、FRP強化繊維の代表的な材料の特徴は、
繊維そのものがまっすぐである真直性が担保されている場合がほとんどです。

その一方で、天然繊維は真直性を示すものは少なく、
無撚糸として使うことは難しいと思います。

見方を変えれば、FRPになった時点で強化繊維がまっすぐとは限らず、
FRPとして初期変形が加わった際、強化繊維がまっすぐになるまでは荷重を担保できず、
その間にマトリックス樹脂がその荷重を背負ってしまい、破壊が生じる恐れもあるのです。

更に天然のものである以上、
特性のばらつきも大きいことが予想されます。

Flaxでいえば真麻の成長度合いなどによっても繊維径等が異なることは十分あり得ます。

このような素材のばらつきを、
品質保証の観点でどのように管理すべきかも考える必要があるでしょう。

 

 

まとめ

地球環境に対する配慮という考え方は、
地球環境保全という社会的課題への取り組みの必要性という観点から必須の時代です。

Quintessenza(R)のコンセプト電動車の狙いにあった自然への回帰というイメージにおいて、
天然繊維を強化繊維、低分子への分解が可能な樹脂をマトリックス樹脂としたNFCは、
構造部材としての機能に加え、既述の課題に取り組んでいるというメッセージ性を強調することが可能です。

イメージ戦略にNFCを使ったという今回のやり方は、
FRP展開の方向性を考えるにあたり参考になるものと考えます。

LCA(ライフサイクルアセスメント)をベースに、
NFCを使用することが二酸化炭素排出量の削減につながるというのが今回は軸となりましたが、
吸湿、真直性、特性ばらつきといった、有機天然繊維故の課題を見据えながら、
NFCを適用する際、どこに活用するのが現実的なのかを、
継続的に検討することが求められると思います。

 

 

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