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整形外科分野に適用が期待される複合材料

2024-09-16

FRPは複合材料の一種です。

複合材料は身近なものを含め、かなり広範囲に使われており、
天然材料もミクロで見ればその多くが複合材料です。

そして最も身近な天然系の複合材料の一つが、私たちの身体です。

身体に関する医療分野の一つは整形外科ですが、
ここにも複合材料が使われ、またこれから使われようとしています。

今回はFRPを含め、
より広域な定義である複合材料の整形外科分野での取り組みの現状についてご紹介したいと思います。

 

 

 

整形外科分野で用いられる材料には長期的視点での機能性が求められている

整形外科の分野で使用される複合材料の中にはFRPも含まれます

整形外科という単語で思い浮かぶものとして、
例えば人工関節や人工骨などがあります。

人工関節や人工骨には複合材料が用いられ、
さらにその材料の改善への取り組みが続けられている用途の一つです。

このような部分に従来用いられてきたのは、
チタンやステンレスなどの金属材料です。

ただ、これら従来材には”長期的視点での機能性”に難があるとのことです。

 

以下の記事を参考に、整形外科という領域における複合材料の状況を述べたいと思います。

Are Composite Biomaterials the Future of Orthopedic Surgery?

 

 

生体適合性に加え、生体の自己修復機能の活性化を促す材料が求められる

整形外科の領域で求められる長期的視点での機能性とは何かについて、
様々な意見があるかと思いますが参照した記事で述べられていたのは

生体適合性と、生体の自己修復機能の活性化の促進

のようです。

 

ここで言いたいことは、外科手術などで人工物を体内に入れた際、
拒絶反応が起こらないよう生体適合性があることはもちろん、
身体の一部になったうえで、生体組織の補修や成長を促す役割が欲しい、
ということだと理解しています。

この観点でいえば無機物の純金属ではなく、
有機物を含む複合材料の方が適しているといえます。

 

 

 

整形外科の分野で認識されている複合材料の強み

いくつか述べられていますのでご紹介します。

参照情報では、整形外科の中で主に人工関節や人工の骨・歯に使用する材料を想定して議論を展開しています。

 

 

材料組成設計に関する柔軟性

冒頭で述べられているのはやはり材料組成設計の自由度です。

金属アレルギーのある患者に対しては、
マトリックスの組成を調整することで生体適合性を高めることも可能とのこと。

さらにマトリックスに様々な無機物や有機無機ハイブリッド材料を添加することで、
材料特性そのものを高める、または人体の構造物に近くするということも可能です。

設計自由度は設計者を悩ませる側面もありますが、
様々な選択肢を用意してくれるという強みが整形外科の世界では評価されているようです。

 

 

寿命の長さ

従来の金属材料に比べ、複合材料は寿命が長いことも強みだと参照元には述べられています。

これは残念ながら一概には言えないというのが私の考えで、
均質材の金属ならではの強みが出るところでしょう。

 

ポイントとなるのは疲労限

金属はその組成によっては疲労限がある、
つまり長期使用時の特性低下が止まるものもあります。

複合材料、特に有機物を使っているものに疲労限はありません。
この点でいうと疲労減のある金属材料に軍配が上がります。

疲労特性を考慮した設計が可能になるからです。

疲労寿命を明確に予想できるのは、設計の観点から言うと最大の強みとも言えます。

その一方で複合材料の材料構成を最適化すれば、
疲労による特性低下をなだらかにすることはできるでしょう。

繰り返し荷重であれば応力比等の設定はもちろん、
クリープなどの高分子である樹脂の粘弾性特性を念頭にした評価が不可欠です。

 

 

重量

参照元の情報には書かれていませんが、
むしろ真っ先に思いつくのが重量についてのメリットです。

かなり軽いといわれるチタンでも密度は4.5 g/cm3程度であり、
ステンレスだと概ね7 g/cm3を超えてきます。

これに対し、有機物は樹脂を例にすると熱硬化であれば1.2から1.4 g/cm3程度、
熱可塑であれば1 g/cm3以下のものもあります。

強化繊維を炭素繊維にすればFRPとして1.6 g/cm3程度、ガラス繊維でも2.0 g/cm3を上回らないレベルです。
Vfが低い、つまり繊維含有量が少なければより密度は小さくなります。

 

人工骨に違和感の無さを与えるには重量設定も重要

身体に埋め込むということは、24時間荷重がかかり続けることになります。
当然ながら軽いことは大変重要なメリットであり、
さらに言うと複合材料なので”フィラーとの組み合わせで生体組織と密度を合わせる”こともできます。

ここは理解しておくべき観点だと思いました。

 

 

以下では整形外科向けを想定した複合材料について、
参照元に記載された研究事例を抜粋の上でひとつご紹介します。

 

 

抗菌作用と細胞の良好な生存能力を示したUHMWPEをマトリックスとしたFRP

UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)にHA(hydroxyapatite/水酸燐灰石)とTiO2(酸化チタン)のナノ粒子を添加し、炭素繊維やアラミド繊維で強化したFRPに関する研究例です。

Tamara R. Kadhim et al, Improving the Biological Properties of UHMWPE Biocomposite for Orthopedic Applications, International Journal of Biomaterials, 2023, 1, 4219841

UHMWPEに5%HAまたはTiO2をwt%で0から4.5%まで振り、
ここに重量ベースで5%相当のアラミド繊維、または炭素繊維で強化したとのこと。

繊維形態が述べられていないので詳細は分かりません。

イメージ図を見ると連続繊維であり、繊維層が一層だけあると書かれているので、
ほぼ樹脂で一層だけ連続繊維の層が存在する、
という形態なのかもしれません。

 

 

耐熱性能評価

DSCによる融点計測の結果、
上記の様々な添加材や強化繊維によって融点が最大11℃弱向上したと述べられています。

個人的にはやや”できすぎ”な結果のようにも見えます。

添加物として加えられただけで、
マトリックスと”融合していない”にもかかわらず、
融点という物理特性が変化するというのはあまり理屈に合わないからです。

比熱変化のDSCではなく、
機械特性の観点から耐熱性を評価するDMAであれば見るべき観点が弾性率になるため、
融点が変化するというのはそれほど違和感がありません。

 

 

濡れ性評価

純水に対する接触角の計測も行っており、
HAやTiO2によって接触角が低下、つまり濡れ性が向上したとのこと。
PEは疎水性のオレフィンなのでこの結果は妥当というより当然ともいえます。

面白いのはそこにさらに炭素繊維、またはアラミド繊維を加えた場合の話です。
どちらの強化繊維を添加した場合も接触角は低下していることが示されています。
これはあまり考えていなかったのと、有機物のアラミド繊維より、
炭素繊維の方が濡れ性が上がるというのは興味深かったです。

繊維というよりもその表面にあるサイジング剤の影響かもしれません。

ただ接触角を評価する表面に強化繊維が露出しているのが、
上記の考察の前提となります。

 

 

抗菌特性評価

抗菌特性する評価も興味深いです。

黄色ブドウ球菌と大腸菌の増殖がどの程度抑えられるかを評価しています。
具体的には試料の周りにどのくらいの増殖抑制領域が存在するか、
というもののようです。

これを見るとHA、またはTiO2の添加によって増殖抑制領域が増加したことに加え、アラミド繊維や炭素繊維の添加でさらにその領域が拡大、すなわち抗菌特性が高まることが示されています。

この結果は違和感を感じる方もいるかもしれませんが、
個人的には有りうる結果との理解です。

理由としては強化繊維が各ナノ粒子を担持し、
マクロ的な形態制御をするという役割を果たしているかもしれないからです。

ナノ粒子が担持媒体である繊維の存在により、
特性が発現するというナノテクノロジーならではの観点です。

これを支持する研究論文は既に複数存在し、
今現在も研究が進められている領域の一つです。

とはいえ、今回のようにマトリックスとナノ粒子を液相で混ぜたものを、
強化繊維層の上に注ぎましたというだけでは、
ナノレベルでの形態制御は難しいかと思います。

基本的には先に繊維とナノ粒子を処理する、
より正確には繊維上にナノ粒子を生成させるのが上記のような制御を行う際の基本工程である、
ということは加筆しておきます。

 

 

細胞生存率評価

FRP上でどのくらいの細胞が生存できたかという評価のようです。

ここにはMTTという定量評価手法が使われており、
テトラゾリウム塩が細胞内のミトコンドリアで呈色する現象を、
吸光度で評価するようです。

参照元の文献のFigure 7、8を見ると、HAの添加と炭素繊維の存在によって細胞生存率が向上する傾向が結果として示されています。

 

今回紹介した研究は、樹脂をマトリックスとし、強化繊維で機械特性を上げながらも、HAやTiO2等の添加材を加えることで抗菌性や細胞生存率を高める、という複合材料としての設計を試行錯誤する好例だと思います。

 

 

 

今後の展開について

参照元の記事では、3D printingを一例として患者一人一人に合わせた複合材を提供する、という流れを整形外科の分野で実現していくのが一案だ、との記述があります。

これは私も同感です。

複合材料は特性を調整できるというのが強みの一つだからです。

 

個人的にもう一つポイントとなると考えるのが、

「損傷の検知」

ではないかと考えます。

例えば人工骨を考えます。

我々人間の骨に微小なひびが入った場合、
それは腫れや痛みとして症状が出る、
いわゆる損傷検知をするという高精度検知機構が人体には備わっています。

一方で人工骨が仮に損傷が起こったとしても、それは周りの組織に影響が出る(損傷した人工骨が筋肉組織を圧迫する、傷つけるなど)までは本人もわかりません。

初期損傷を人体が検知できない状態が続くとします。

階段の上り下り、公共交通機関の乗り降り等、
危険が隣り合わせな動作で突然人工骨が折れれば、
その事象によってその人自身が怪我を負う、
場合によっては命にかかわる場合もあります。

複合材は突然の最終破壊が起こりにくいものの一つですが、
絶対ではない以上、人体の神経伝達物質と複合材料を何かしら連携させる、
といったことも将来必要かもしません。

 

 

 

まとめ

FRPも含まれる複合材料の整形外科の分野での取り組みについてご紹介しました。

生体適合性と、生体の自己修復機能の活性化の促進が重要である、
という今回のお話は大変共感できる部分でした。

またHAやTiO2などの添加材を用いることで、
濡れ性だけでなく、抗菌性や細胞生存率が高まった、
という研究例は興味深かったです。

いずれにしても強調したいことは、
FRPという狭い領域で思考に制限を持たせることなく、
複合材料という強みを活かして他分野に進出するという、
積極性と柔軟性が重要である点です。

そして医療分野のように細胞などの微小領域との関係が重要な世界では、
ナノ粒子を含むミクロな視点も必要です。

今回ご紹介できなかった他の参照論文の中には、
炭素のNanoplateletsというものを使ったという事例もありました。
これは層状のGraphiteです。

※参照情報

A Detailed Overview of Graphene Nanoplatelets

FRPについてもこのようなミクロの視点を取り入れることで、
新たな世界が広がる可能性もあります。

人々のQOL(Quality of Life)の向上に、
FRPを含む複合材料が医療分野で貢献することが、
今以上に求められていくのかもしれません。

 

 

 

※関連コラム

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再生医療 向け複合材料

医療 製品へのFRP応用を狙う Fraunhofer Institute

 

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