FRPに対する意外なAIの活用法について
最近は生成AIだけでなく、自律型AIも一般的になりつつあります。
今回はFRP業界におけるAI適用概況に加え、
このような技術をFRPに活用できないか、
ということについて考えてみたいと思います。
AIは用途範囲が広い故、専門家でも最適用途を示しにくい
これはFRP業界だけではないと思いますが、AIは用途がとても広いゆえにどのような活用法が妥当かについての判断が難しいといえます。
AIに加え、AR/VR/XR、ロボット技術を事業に応用する専門家の方のインタビューをご覧ください。
AIは仕事を奪うか、AI関連でどのようなところに投資すべきか、AIをイノベーションにつなげるにはどうしたらいいかなど、よくある質問に答える形式となっています。
これをご覧いただくと感じられるかもしれないのが、FRP業界(動画中ではFRPを主とした複合材料業界)に対し、AIをこのように活用すべきだという判断は難しそうである、という点です。
議論の出発点として欠けているのが、
「何をしたいのかという明確な目標と、それに到達するパラメータが揃わないとAI活用法は議論できない」
という点です。
動画中で応答している専門家の方も類似のことを述べており、
また投資などについてはいきなり大掛かりに投資するのではなく、
小さなことを積み重ねるところから行うべきではないか、という話をしています。
これらの点については自分も同意見です。
AIは万能解を提供するような魔法の杖ではないということです。
ただ、部分的には適用やその検討が進んでいる事例もあるため、主なものをご紹介します。
FRP業界では3つの最適化が進行中
個人的な印象ですが、AIを本格的に活用している事例はそれほど多くないと思います。
ただ、既に検討や部分的実装が行われているのも事実です。
一言でいうと”3つの最適化”、というのがAI活用のトレンドと考えます。
以下、3点についてそれぞれ述べたいと思います。
モデリングの最適化
Multiscale Modelingが一例です。
FRPの複雑な非線形挙動を、教師有り学習によって予測できるモデルといえます。
教師有り学習ですので、カテゴリー分けまでで終わりがちな教師無し学習と異なり、現実に即した予測を可能にする”かもしれない”モデル構築には有効と考えています。
この辺りは過去のコラムでも取り上げました。
※関連コラム
プロセスパラメータの最適化
これらはここ数年、学術界で論文化されている例も増えてきていますが、どちらかというと産業界で先行して進められてきたと考えています。
産業界での動きは水面下のため、表立って出てこなかったということに尽きるでしょう。
6,7年前の段階でこの手の取り組みに関わったこともあります。
ファイバープレースメント、インフュージョン成形を例とした文献も以下の通り存在します。
偶然にもどちらもFirst Authorが同じ人です。
※関連情報
Yifeng Wang et al, Applications of artificial intelligence/machine learning to high-performance composites, Composite Part B, 2024, 284, 111740 (こちらはReview論文なので、概論です)
Yifeng Wang et al, Analysis of Process Parameters for Composites Manufacturing using Vacuum Infusion Process, materialstoday: procceedings, 2020, 21, p.p. 1244-1249 (こちらの文献は2014年発刊のまだ新しい雑誌のため、内容の技術的質に留意が必要です:査読の質が担保されていない可能性があるため)
入力と出力のパラメータ抽出が最重要
このような検討で大切なのは、
そもそも評価すべきパラメータを抽出しきれているか、
そして最終的なゴールである教師データが適切な内容構成となっているかです。
例えば事例として紹介した文献のうち、
インフュージョン成形へのAI適用検討においては、
樹脂圧力、成形体の厚みが(恐らく教師データの)パラメータとして設定されています。
しかし教師データであれば、
- 内部欠陥
- 強化繊維の移動
- Vf
- 表面の輪郭度 など
を入れなければならないでしょう。
またインプット側についても
- 樹脂の種類
- 評価当日の室温
- 主剤と硬化剤を混錬してから流すまでの時間
- 強化繊維(基材)の構造や配向
- 基材端面からピールプライやシーリング位置までの距離 など
が評価対象になる可能性があります。
このようにプロセスデータをAIにきちんと学習させたいのであれば、
それを使う側が想像力を高めなくてはいけません。
スケジューリングの最適化
これはFRP業界に特化したというわけではありませんが、
第二次産業全体としてAIを取り入れやすい事例といえるかもしれません。
納品、在庫、設備投資といった、
工場運営において必要なスケジューリングを幅広い視点で行うというものです。
ゴールが明確であるうえ、
パラメータが業界に依存しない普遍的なものである、
というのがポイントといえそうです。
これについては以下のような記事が参考になるかと思います。
※関連情報
How AI is improving composites operations and factory sustainability
ここまでは業界でAIの適用やその検討が行われている事例についてご紹介しました。
最後に私の考えるAIの意外な活用法について述べたいと思います。
FRPに関する技術的理解を深めるのに生成AIを活用
一つ考えられるのが、
生成AIにFRPに関する技術専門用語を解説させ、その妥当性を議論する
というものです。
当社の別事業である技術者育成事業の取り組みの一つとして上記を行ったところ、想像以上に技術的議論を深める足掛かりを得られる可能性を感じたことが、AI活用法の一つとして提案する理由です。
生成AIや自律型AIで模範解答を得ようとしているのではありません。
どちらかというと、技術の本質を理解できているか、
そしてその妥当性を検証するという、
技術者としての基本を確認するための”きっかけ”を提供する相方として活用する提案となります。
ご興味ある方は該当するコラムをご覧ください。
※関連情報
今回はFRP業界におけるAIの概況と、活用例についてご紹介しました。
FRP関連の技術知識習得向上に関連したAIの活用法理解の一助になれば幸いです。