Victrex ® PEEK の展開
FRPの中でも最近トレンドとなりつつある熱可塑性FRP( FRTP : Fiber reinforced thermoplastics )。
熱可塑性マトリックスの中で、最高レベルの耐熱性と機械特性を有する材料として高い実績を誇る樹脂材料の一つが、 PEEK ( Poly (ether) ether ketone )です。
今日のコラムではスーパーエンプラの代表格である PEEK の展開を見ることで、
FRP業界での戦略を考えてみたいと思います。
まず、PEEKメーカーとして30年以上の歴史のある Victrex 。
ホームページは以下の所になります。
熱可塑性樹脂の中でもガラス転移温度が140℃を超えるPEEKは、早い段階でCFRTPとして活用されてきました。
CFRTPの中で CF/PEEK の代表格が以下のCytecの材料です。
https://www.cytec.com/sites/default/files/datasheets/APC-2_PEEK_031912-01.pdf
Airbusの機体を中心に既に活用されている実績のある材料です。
このようなCFRTPの製造に用いられるのはPEEKのフィルムです。
Victrex もフィルムを製品として持っています。
http://www.victrex.com/ja/products/aptiv-films
プリプレグを製造するにあたり、入れ込む繊維料とフィルムの厚みを変えることで目付量、
つまり成形後の Vf (繊維体積含有率)を調整することが可能です。
このPEEKフィルムですがFRTP以外にも活用方法はあります。
高い絶縁破壊強度を応用し、電気基盤のコーティングに用いたり、
振動特性を活かして高寿命、高出力、共振によるノイズの最小化によりスピーカーやイヤホンに使ったり、
難燃特性と上記の振動特性を組み合わせて防音断熱材として用いられるなど、
多くの領域に用いられています。
そして最近発表になったのがPEEKの「 耐摩耗性 」を活用したPEEKの歯車です。
Victrexの樹脂を用い、Kleiss Gear が量産化したそうです。
以下にプレスリリースが出されています。
http://www.kleissgears.com/acquisition
歯車に樹脂を用いるというのはかなり昔から行われてきていますが、
ここでいう樹脂の歯車は自動車に用いることを想定しているようです。
つまり、従来金属で作ってきた歯車を樹脂に置き換えようとしているのです。
この流れはKleiss Gearだけではなく、帝人( Teijin )もアラミド繊維のチョップ材を用いて、ギアを作っていることは知られています。
Kleiss Gearは繊維を用いずに樹脂単体でやろうとしていることが特徴的なところかもしれません。
樹脂単体での歯車製造に最重要なのは精度。
そこのノウハウはKleiss Gearが持っている模様です。
加えて樹脂を使うには軽い、という以上に別の機能性が発揮されることが知られています。
その一つが、
「音と振動の低減」
です。
これは、先述した帝人も同じことを述べています。
なぜ、金属ではなくて樹脂を使うのか、という命題にこたえるための答えを一つ持っているということになります。
このような機能性を考慮したコンセプト設定は大切です。
さらに加えて、この商品に付加価値を見出しているもの。
それは、
「歯車の設計、試作、評価、製造という一気通貫のサービス」
です。
さらに言うと、VictrexとKleiss Grearが組んでいるということは、
素材を含めて手中に収めているということを意味しています。
つまり川上から川下までやります、というこの体制こそが本商品の付加価値となっています。
このモデルはFRP業界にもそのままあてはまります。
素材や設計という川上、試作や評価という川中、そして製造や検査という川下。
このような一連の流れこそ大切です。
そしてこのようなアプローチこそFRP業界に必要とされています。
ただし問題なのは日本企業の場合、今回のVictrexとKleiss Gearのような協力体制が難しいということです。
この理由は日本企業は自社のノウハウや技術を仮に機密保持契約したとしても隠したがる、
という文化によるものです。
これは良い悪いではなく文化ですので、この環境下でどうすればいいのかという話になります。
私の考える川上から川下までの一気通貫のサービスによる付加価値を日本企業で出すには、
自社内で業務範囲を広げるしかないと考えています。
この点は裏を返すと日本企業、そして日本人の強みですが、
広い範囲のことを器用にこなすことができるのです。
欧米の方にもこのようなことができる人はいますが少人数です。
本人の資質だけでなく、上下関係の厳しい欧米組織という枠組み故、
そのような裁量を与えられる人がそもそもほとんど居ないというのがその背景です。
(もちろんFraunhoferのような例外的組織もありますが、一般的な民間企業の印象です)
今回のKleiss Gearの川上から川下までの一気通貫のサービスというアプローチを参考にFRP業界でのビジネス展開戦略を考えるというのも一案と考えます。