消防車 へのFRP適用拡大
火災が起こった時にすぐに出動する消防。この時、消防士を現地に派遣し、消火活動を行う時に活躍するのが 消防車 です。
近年、この 消防車 へのFRP適用拡大が進んでいるというニュースが出ていました。
消防車というのは消火活動のためのタンクや各種機材を載せているため、
それぞれの構造設計の柔軟性、並びに軽量化というものが重要視されているようです。
そんな中、チェチェン共和国に本拠地を構える Zico s.r.o. という企業が、消防車向けのFRPタンクの設計とこのタンクを支える骨格部分の製造を行っているというニュースが発表されました。
※ Zico のURL
http://www.zico-gfk.cz/en/
Zicoは2つのタイプのFRPタンクを設計、製造、販売しており、
1つはタンクそのもの、もう一つはタンクとそのタンクを支える骨格が一体化したタイプとのことです。
以下のHPに上述したタンクの一部の製品について写真がアップされています。
http://www.zico-gfk.cz/en/tanks-for-fire-vehicles-in-three-categories
容量は400リットルから23,000リットル。
作り方は大きさによってハンドレイアップからインフュージョン成形を適用するようです。
使う繊維はガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、マトリックス樹脂はポリエステルやエポキシを適用しているとのこと。
主流の繊維や樹脂は大体扱えるようですね。
そしてこのタンクにおいて最も重要なのは
「漏れの防止」
です。
FRPタンクはすべてFRPというわけにはいかず、必ず金属部分とのジョイントが必要となります。
このジョイント部分からの”漏れ”というのがFRPタンクで最も難しく、重要な要件です。
Zicoはこの漏れ対策として接着剤を活用していると述べています。
使用しているのは Scott Bader というイギリスの化学メーカーの接着剤で、Crestabond® というものです。
※Scott Baderについては以下のURL参照ください
http://www.scottbader.com/adhesives
この接着剤はメタクリレート系の接着剤で、硬化速度が早いのが一つの特徴です。
ジョイント部分を固定するだけでなく、漏れを防止するためのシーリング材としてこの接着剤を活用しています。
またこのCrestabond® はタンクだけではなく荷室の引き出しやドアにも使われているとのこと。
これまで20個以上のネジでとめられていた引き出しを接着剤での固定に変更することで、部品の大幅削減と軽量化に成功。
当然ながらねじ止めのための穴加工も必要なくなったことから、
加工時間と加工費の削減にもつながっています。
消防車などの緊急車両の部品のため、荷重変形、耐衝撃性、耐久性、
といった要件もありますがCrestabond® を用いたドアはこれらの要件もパスしたと書かれています。
本日紹介した記事でのポイントを2点ほどご紹介します。
1.緊急車両に対するFRPの適用という戦略
2.FRPと接着剤の組み合わせ
それぞれ説明します。
1.緊急車両に対するFRPの適用という戦略
今回ご紹介した記事のポイントの一つ目は、FRPの適用対象です。
消防車は緊急車両の一種ですが、このような緊急車両は一般車両とは異なる要件があります。
例えば消防車であれば、過酷な環境で使用できるというのもありますが、
FRPを用いる動機となる重要なポイントが含まれています。
それは、
「FRPの特徴である軽量化によって”エンジンを変更せず”に」
– より多くの機材を載せることができる
– タンク容量を大きくできる
といった明確なメリットが得られるということです。
エンジンを変更せずにというのがポイントです。
軽量化することができればその分、別のものを載せる、載せるものの容積を大きくする、といったことができることは極めて大きなメリットの一つです。
そしてさらに、FRPという素材を用いることで従来の金属材料に無い「機能性が発現できる」、となればより多くのニーズを発掘することにつながり、FRPを用いようという動機につながっていきます。
このような明確かつ特殊な要件を求められる緊急車両というものをFRPの適用先候補として考慮するということも戦略の一つです。
2.FRPと接着剤の組み合わせ
これもFRPの宿命の一つです。
どうしてもFRP単体では実現できないことは多く、金属との組み合わせが必要となることがほとんどです。
その場合に真っ先に候補となるのが接着ですが、接着は接着で色々とメリット以上の問題点もあります。
最も問題となるのが、
「接着強度のばらつきが大きい」
「気を遣った前処理が必要」
ということです。
材料のばらつきについてはある意味有機材料の宿命ともいえます。
FRP材料の信頼性評価や設計許容値設定にこのばらつきを考慮する統計学手法がありますが、それはそのまま接着剤にも適用されます。
つまり、接着剤は使用される環境、使用する人、季節、材料のロットといった多くの要因によって変動します。
この変動が意味することは、
「変動を考慮した信頼性の担保が重要である」
ということです。
化学メーカーがどうこうではなく、適用する材料がどのくらいのばらつき範囲で変動するのか、ということを使用する側が把握することこそが重要です。
なぜならば化学品のばらつきは不可避だからです。
化学メーカーの努力によってばらつきを低減することができてもゼロにはできません。
まずはばらつきありきなのだ、ということをよく認識し、
評価を慎重に行うことが求められます。
そしてもう一つが表面処理。
こういうとFRPの表面処理が重要なのだ、とおっしゃる方もいますが、ほとんどの破壊はFRPと接着剤の間ではなく、金属と接着剤の間で発生します。
FRPのマトリックスが有機物で、同じ有機物の接着剤と相溶性が良いことをイメージできれば上記の話に違和感はないと思います。
つまりここでいう表面処理というのは金属側のことを指しています。
金属の表面処理は、化学処理、陽極酸化処理、エッチングなどありますが、この表面処理方法によって接着強度は変化します。
さらにやっかいなのは、金属、表面処理方法、接着剤の種類によって最適な組み合わせが異なるということです。
つまり色々な組み合わせを評価し、最適なものを抽出するという地道な作業が必要となります。
金属表面を研磨することでアンカー効果を持たせようというのはもちろん重要ですが、接着強度に影響を与える濡れ性を考慮しなければ接着強度はどんどん不安定になっていきます。
可能であれば接着剤だけではなく、仮に接着部分がはがれたとしても最終破壊に至らないよう、ボルト締結との組み合わせにするということが安全性という観点から重要であるに違いありません。