マトリックス樹脂の 国内価格
FRPの根幹部分を担う マトリックス樹脂 。
昨年9月に行ったマトリックス樹脂に主眼を置いた概論セミナーでは、
コア企業の方々に参加いただき、鋭い質問等もいただきました。
より掘り下げたセミナーをやってほしいというご希望もいただいているので、
本年もセミナーや書籍の企画を考えたいと思っています。
そしてそのマトリックス樹脂について技術者、研究者としても理解していなくてはいけないものとして、
「価格推移」
というものがあります。
営業や経営の方が技術はわからなくてもいい、というのが時代遅れなのと同じように、
技術者、研究者も経営や市場の最低限の情報を把握していなくてはいけません。
これは何度も述べているように、FRPは材料、設計、製造、品質といった技術的なつながりが非常に強い、
ということに加え、事業性を考えた研究開発を行わないと企業がその事業を存続できない恐れがあるような、先の見通せない時代になっているということが背景となっています。
そんな中、FRP業界では機関誌の一つに入る Composite World の編集長である Jeff Sloan 氏が以下のような記事を書いています。
http://www.compositesworld.com/columns/tracking-energy-costs-and-resin-prices
要点を説明すると、原油価格が下がったとしてもマトリックス樹脂の価格(上記の記事で主に述べられているのは不飽和ポリエステルです)は上昇傾向にある、ということ。
そしてこのような価格情報傾向が新環境性材料のバイオマテリアルなどの普及を妨げる可能性について言及しています。
まず、原油価格ですがここ最近は下落傾向にあることは感覚的にはわかるのではないでしょうか。
以下に代表的なチャートを示してみます。
上図が月次ベース、下図が年次ベースとなっています。
( The image above is referred from http://ecodb.net/pcp/imf_group_oil.html )
年次ベースで見るとまだまだ原油価格は高止まりですが、ここ数年で見ると明らかに下落傾向にあります。
そして実際の樹脂の価格推移はどのようになっているのか調べてみました。
データの確からしさを最優先にしたため、経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編 (平成25年度)をベースに評価してみました。
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/gaiyo/resourceData/02_kagaku/nenpo/h2dbb2013k.pdf
今回評価したのはFRPに良く用いられるマトリックス樹脂の不飽和ポリエステル(UP)、エポキシ樹脂(EP)、ポリアミド樹脂(PA)です。
以下のデータはあくまで国内(または国内から海外への輸出)が評価対象となっています。
尚、UPのみは売り上げ単価の算出をGFRP向けのもので行っていますが、
EP、PAはFRPに限らない用途全体としての評価になっていることをご理解ください。
各数値の取り扱いについては以下の前提、並びに詳細は上記の経済産業省のHPをご覧ください。
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この年報の中の各項目の定義は、つぎのとおりです。
生産……国内の自工場で実際に生産された指定品目の生産をいいます(仕掛中の半製品は除く)。
出荷……自工場から指定品目である製品(現物)を実際に出荷した数量をいいます。
「販売」販売を目的として、例えば、消費者又は販売業者などに出荷したもの。
「その他」?同一企業内他工場へ出荷したもの。
?委託生産の原材料として出荷したもの。
?受託生産品を生産業者である委託者へ出荷したもの。
?自家使用したもの(見本、贈答用、展示用、試験、研究用など)。
販売金額……販売数量を生産者販売価格で評価したものです。生産者販売価格とは、企業の販売価格から、積
込料、運賃、保険料、その他の販売諸掛りを除いたもので、消費税を含みます。
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評価年度としてはH21とH25について比較しています。
まずは、販売価格です。
横軸が樹脂の種類、縦軸がキロ単価(ただし、売り上げは上記の統計条件に基づく)です。
出荷量と売り上げ高から私の方で算出しました。
(上記の経済産業省のデータを写したわけではありません)
あくまで、相対比較としてご覧いただければと思います。
( The image above is licensed by FRP consultant )
これを見ると、EPとPAが同等で400から500円/kg程度。
不飽和ポリエステルは半額近い200円台後半であることがわかります。
ただし、どの樹脂もH21よりH25の方が単価が上がっているということがわかります。
これは、冒頭のComposite Worldの記事に合致する事実です。
そしてもう一つ注目すべきはPAの単価の高さ。
はやりPAクラスのエンジニアリングプラスチック(エンプラ)になると、単価もエポキシに匹敵するということがわかります。
その一方でUPはやはり材料単価そのものが安いというのがわかります。
このような事実もUPが未だにFRP(特にGFRP)で積極的に活用されている一因となっているのかもしれません。
もう一つ見るべきデータが出荷量です。
以下に示します。
これは非常に興味深いですね。
( The image above is licensed by FRP consultant )
私が思っていたことと異なり、PAの出荷量がUPを上回っています。
唯一H21から25にかけて出荷量が増加しており、更なる拡大が示唆されています。
これはFRPに限らず、PAクラスのエンプラに関するニーズが国内でも高まっているものと推測されます。
それに対し、UPは横ばいです。
これは堅調な需要とアジアでの生産拡大によるものかもしれません。
そしてEPの生産量は下がっています。
単価が上がっているのに出荷量が下がっている。
これは中国を初めとした日本以外でのアジア圏におけるエポキシ樹脂の生産が拡大したために、
結果として価格競争が激化し日本でのエポキシ生産量が低下しているものと考えられます。
以上のことから、樹脂の単価が上がっているというのは大きくは間違いでない情報ではないかと考えられます。
いかがでしたでしょうか。
今日は日本国内を中心とした樹脂の価格と、それらの出荷量についてデータを簡単に見てみました。
このように世の中に出回る情報を鵜呑みにするのではなく、
自分なりにデータを集めて検証するという自主性が重要です。
特に有益な情報が少ないFRP業界では、自分で情報を取りに行く、という姿勢がこれからの明暗を分ける可能性もあります。
ご参考になれば幸いです。