FRP戦略コラム FRP材料の品質管理
FRP業界の中で最上位クラスのパフォーマンスを実現するために用いられる CFRP (炭素繊維強化プラスチック)。
その中でも繊維に樹脂をあらかじめ含浸してあるプリプレグは、
先日の記事でも説明したような含浸性が性能に直結するという考えから、
今でも主力材料として色々な所で活用されています。
もし本コラムをご覧の方がプリプレグを用いて事業化、量産化を目指す事業部にいらっしゃるとします。
恐らく最初に考えるのは、
「いかにして早く、安く作るか」
という点ではないでしょうか。
経営に近い所にいらっしゃる方は除くとして、
技術者、研究者として現場に近い方の多くがまず先行で考えることです。
当然ながら上記の考えは正しいことです。
もちろんそれ以外にも多くのことを考えなくてはいけませんが、
熱硬化性、熱可塑性に限らず、
「材料の 品質管理 」
という考えがFRP事業の根幹である、ということについて違和感を感じる方は少ないのではないかと思います。
FRP業界ではどのような製品を作るにしても、必ず材料に熱や光といった刺激を与えることで化学反応(正確には架橋反応や重合反応:熱硬化の場合)や融解といった相転移(熱可塑の場合)を起こさせ、賦形(ふけい:形を作る)するというのが一連の流れです。
ところが、ここで材料の品質がもし安定していないとしましょう。
どれだけ成形加工プロセスを最適化したとしても、根本の材料の品質が安定していなければ、
後工程が安定するわけがありません。
この点を是非とも再確認していただきたいと思います。
では具体的にどのような観点でFRPの材料の品質を管理すればいいのでしょうか。
大きく分けて4点あります。
1.重量
プリプレグを中心に重量というのは 品質管理 において必ず見るべきものです。
一例としては目付があります。
単位平米あたりどのくらいの重さになっているのか。
それにより繊維の均一性や樹脂塗布の均一性を見ることができます。
同じようにして、複数の樹脂を混ぜた場合にその混合物の比重を管理するというのも考えの一つです。
重量管理は計測がしやすいことから、管理項目として良く用いられます。
2.機械特性
多くの方が真っ先に思いつくのはどちらかというとこれのようです。
良く採用されるのは引張、圧縮、せん断といった基本的な試験の強度や弾性率です。
アプリケーションによっては曲げ試験を採用するケースもあります。
初歩的な品質管理でよく間違える方がいるのが、
ここでの許容値の設定方法です。
例えば数少ないデータのミニマムデータを許容値にしてしまうと、
長い目で見た時は多く不合格材料が生じるでしょう。
なぜなら限られたデータ内でのミニマムデータはあくまで、
「その行った試験範囲での最小値」
でしかなく 品質管理 に必須の、
「最低許容値」
とは似て非なるものだからです。
なぜでしょうか。
その試験そのもののばらつきは何ですか?
一体何ロット(バッチ)の材料に対して試験を行っていますか?
この辺りのことを全く無視しての点の評価にしかなっていないからです。
機械特性の品質許容値はあくまで、最低許容品質を定めるものなのだ、
ということを覚えておいてください。
3.化学特性
実は、品質管理で最も重要なのはこちらです。
品質管理規定を作る方の中に化学の知見のある人はあまりいないことから軽視されますが、
化学特性を把握することは極めて重要です。
詳細は先週の「設計的品質知見」に関するセミナーでお話ししましたが、
一例を上げるのであれば、DSC( Diferential Scanning Chalorimetry: 示差走査熱量測定 )やDMA (Dynamic Mechanical Analysis: 動的粘弾性測定 )です。
それぞれ概要を説明すると以下の通りです。
a. DSC
測定サンプルと基準物質の温度をプログラムに従って変化させながら、両者に対するエネルギー入力差を温度の関数として測定する。
b. DMA
正弦波の動的負荷を入力し、出力としてひずみや応力を検出することで、動的弾性係数を求める。
DSCは熱硬化性マトリックス樹脂のガラス転移温度や発熱ピークをベースとした硬化状況や保管状況の評価、結晶性の熱可塑性マトリックス樹脂については結晶化度やエンタルピー緩和による材料作製状況の評価を行います。
DMAでは主に熱可塑性マトリックス樹脂を用いた材料について複素粘度をベースとした温度と粘度変化の評価を行い、材料の作製状況評価と成形プロセスにおける温度と圧力プログラムへの合致性も知ることができます。
この辺りの化学分析知見はFRP業界では設計者はもちろん、品質管理担当者にとっても必須のものであることを追記しておきます。
4.目視検査
多くの方が気にするのがこれです。
当然ながら異物は成形物の内部欠陥や外観不良につながるため、
許容値は設定すべきです。
それ以外で気にするべきものは、繊維のほつれや、樹脂未含浸領域です。
どちらも成形物の物理特性、機械特性などに影響を与えるリスクがあるため取り除くべきかと思います。
そして、これまでの私が顧問先で経験してきた材料に対する要求を見ていると、
「繊維と繊維の間の隙間」
といった実際の成形物の特性にどれだけ影響を与えるのかが不明瞭(実際は複数層にて成形するため)なものや、
「不具合は一切認めない」
といった非現実的な過剰要求が散見されます。
目視検査は、あくまで成形物にどのような影響を与えるリスクがあるのかをきちんと評価した上で、
現実的な許容値設定が重要となります。
そして最後に忘れていただきたくないことがあります。
これも先週のセミナーでお話ししましたが、
「材料の品質要求は材料を使用する設計者が考え、要求し、材料メーカーと議論する」
という大前提です。
これは、FRP材料を用いる設計者が
「材料を設計する」
というレベルで材料を使いこなさないと、FRPの特性を引き出す設計ができないことに由来しています。
材料に関する品質は材料メーカーが考える、という従来の考えを捨てたいただかない限り、
FRPを活用した製品化は絶対にできません。
本点について明確な考えをお持ちでなかった場合、再認識していただければ幸いです。
合わせまして、材料を提供する側の方々も、
「このような材料を作ったので使ってみて」
というスタンスではなく、
「この材料をこのように使うよう設計するとこのような特性を発現できます」
という設計寄りの思想に転換することが重要です。
材料メーカーは設計者(アッセンブリーメーカー、成形加工メーカー)側に、設計者は材料メーカー側に歩み寄ることがポイントです。
材料を提供する企業と材料を使用する企業の距離が縮まることでFRP業界がさらに発展できるよう、私も尽力していきたいと思います。