L&L Products の BMW7向け フィルム接着剤
BMW 7 series の B ピラー の CFRP 部分補強( 金属とのサンドイッチ構造 )においてCFRPと金属の接着に使用する フィルム接着剤 ( adhesive film / glue film )を製造販売する L&L Products 。
以下のプレスリリースを出しています。
http://www.llproducts.com/ll-products-supports-bmw-7-series-carbon-core-body-construction/
BMW 7 series はFRP業界で話題性があるようで、先日の JEC でも 人だかりができていました。
そこで撮影した写真を以下に添付します。
もしかすると、実物をご覧になった方もあるかもしれません。
( The image is licensed by FRP consultant )
B ピラーの部分を拡大した写真も合わせて載せました。
このエメラルドグリーンに見えるものが L&L products のフィルム接着剤です。
BMWのピラーに使われているプリプレグは Hexcelの M77をマトリックス樹脂とするプリプレグです。
L&L productsのフィルム接着剤含めてどのように積層していくのか、
といった点については以前、こちらの記事で動画含めてご紹介しているのでご覧ください。
動画部分だけを抜粋すると以下の所になります。
http://bcove.me/jmhh6725
( The video above is referred from http://www.hexcel.com/products/industries/ipreforms)
実はこのフィルム接着剤はFRPを扱うにあたっては極めて重要といえます。
CFRPの部材というものはそれ単体で使うことはほとんどなく、必ず金属などとの「 異種材接合 」が必要です。
そしてこの異種材接合については情報があまりないのに加え、誤解が生じているケースがあるようですので補足説明をしたいと思います。
接着の問題はCFRPと接着剤間ではなく、金属と接着剤間で起こる
欧州ではCFRPの表面処理をレーザーで行うといった話がトレンドの一つとして伝えられています。
表層のマトリックス樹脂をレーザーで熱分解させて吹き飛ばし、
強化繊維を露出させるというものです。
これにより当然ながら凹凸によるアンカー効果が期待され、
表層にも反応性の高い官能基が出てくるため接着強度の向上が期待されます。
CFRP同士の接着であれば問題ありません。
しかしながらCFRPとSUSやアルミといった金属の場合、
「実際に接着の問題が起こるのはほぼ100%金属と接着剤間」
というのが現実です。
冷静に考えれば当たり前のことであるというのはお分かりいただけるかもしれません。
なぜならばCFRPのマトリックス樹脂は、樹脂というくらいなので高分子です。
つまり有機物なのです。
一般的に良く知られるマトリックス樹脂のエポキシ樹脂はそれそのものが接着剤として用いられるような材料です。
そのためこちらも一般的に接着剤として用いられるエポキシ接着剤との相性は抜群です。
もちろん例外もあります。
比較的不活性のオレフィン系の熱可塑性樹脂の場合は接着強度に問題が起こる可能性もあります。
さらに言うと離型剤にも用いられるようなフッ素系の高分子には固有の表面処理が必要であることは追記しておきます。
その一方で、金属は有機物とは対極にある無機物です。
金属の表面処理は酸や陽極酸化処理といったエッチング(表面粗さ)により表面積を増大させ、接着剤と金属表面の接触面積を上げながらアンカー効果を狙うというのがロジックです。
必要に応じてプライマーを用いることも必要となります。
特にアルミの場合はプライマーの塗布により接着強度の向上と、耐食性向上が期待できるでしょう。
アルミの耐食対策としてアルマイト処理を行うのが一般的ですが、アルマイト層は基本的に不活性ですので接着には不向きです。加えて封口処理をするとさらに接着性が低下します。そのためプライマーの使用は必須といえます。
しかし、金属の種類によってはプライマーを用いることにより接着強度が低下することもあるのです。
このように金属と接着剤の間の接着評価は非常にシビアです。
CFRPと金属の接着を検討する場合には、CFRPとの接着もさることながら、金属との接着に細心の注意を払うべきです。
接着はせん断と剥離で評価する
接着の評価では大きく分けて2つの破壊モードを評価しなくてはいけません。
一つがせん断接着強度。
もう一つが剥離接着強度です。
どちらも接着強度ですが、接着剤の素材や厚み選定、被接着体の表面状態によって両者の接着強度の振る舞いは変化します。
ミクロ的にはどちらの接着破壊モードも生じることが普通であると認識しておいた方がいいと思います。
そして、実際に接着したものをアプリケーションとして用いる場合、せん断と剥離、どちらのモードが優先的に負荷として生じるのか。
また、せん断と剥離どちらを優先的に破壊モードとなるように接着層を形成させるのか。
このような設計思想は最低必要条件といえます。
無視できない線膨張差による繰返し応力
これは先日のセミナーでも話をしましたが、CFRPと樹脂や金属は10-5[/℃]スケールの線膨張係数の差があります。
接着層を介して異種材が接合している場合、この差がそのまま変形量の差として接着界面における応力の発生に直結します。
10-5[/℃]というのは1m長さのもので0.01mmというわずかな量ですが、これは1℃あたりの話。
初期状態からの温度差が100℃ ( 例えば、室温20℃から120℃に加熱した時 ) あると1mmの寸法差分が生じることとなります。
1mmの変形というのは無視できない変形量の差分です。
しかもこれが繰り返し起こった場合は接着層に繰り返し疲労荷重が付加することとなり、突然剥離が生じる恐れがあります。
L&L products はこれを考慮し、線膨張差による変形量差分を吸収できるように材料設計したと述べています。
恐らく、熱可塑性成分を添加することによりゴムライクな特性を付加しているものと推測します。
L&L products が発表したフィルム接着剤は金属表面が汚れていても接着可能である上、160℃で2分という高速接着が可能というのが売りです。
これらの情報を見た時に必要なのは、
「BMWが使っているから我々も使おう」
という後追いの短絡的な発想ではなく、
「自分たちの設計に必要な要件を整理し、それに見合った接着剤を選定しよう」
という設計思想です。
CFRPを適用するのに避けて通れない接着技術。
本点も考慮しながら設計を行う必要性をご理解いただければ幸いです。