JEC Innovation Awards Atlanta 2016 vol.1
今回から2回にわたり、今月初めに開催されていた JEC america における JEC Innovation Awards Atlanta 2016 受賞技術を紹介し、それぞれの特徴並びに私から見た課題について言及し、それを踏まえた業界動向をみていきたいと思います。
尚、JEC Innovation Awards Atlanta 2016 の内容は既に以下のHPで公開されています。
http://www.jeccomposites.com/events/innovation-awards-atlanta-2016/2016-winners
1.Design(設計)
Compliant design technology and software for product designers of the future
Winners: FlexSys Inc. (USA)
形状設計サポートソフトの受賞です。
FlexSysは以下の所でプレスリリースも出しています。
FRPの形状設計はFRPの特性を理解した上で行わなくてはならない、
という現実を考慮した製品となっています。
PBT(ポリブチレンテレフタレート)に30%ガラス繊維のFRPを題材に必要な強度、剛性、並びに両者の比を考慮した形状設計を行って行くことが可能なようです。
非常に興味深かったのが、様々な形状条件になった時にどのような結果になるのかという繰り返し評価が可能なこと。
CAEがもっとも機能を発揮するといわれる評価の一つである、
「アルゴリズムによる最適化設計」
が行えることを意味しています。
もちろん、これを鵜呑みにするような短絡的な設計者の方は本ブログをご覧の方には居ないとは思いますが、初期選定のスクリーニングを行うにあたってCAEは利用価値があることは間違いありません。
そして課題については、まず「精度」に関するところでしょう。
精度の確認はCAEの根幹ですが、ここの検証は非常に手間と時間がかかるのも事実。
上述の通りあくまで初期スクリーニングに使うのだ、というぶれない姿勢が重要です。
もう一つが異方性を考慮した振動モード解析ができるのかどうか、というところです。
今回の一例として評価した対象部品は振動による変形シミュレーションも行っています。
振動モードは形状に依存する部分が大きいのですが、同時に剛性によっても変化します。
これは、剛性の高さによって同一形状でも固有値が変化するということが本質的にあると考えています。
当然ながら形状による影響のほうが振動モードに与える影響が大きいことに疑いの余地はありませんが、
UD材のような異方性の強い材料の場合、剛性コントロールによりモード形状を変化させることも可能です。
このような材料の異方性を考慮した振動モード解析ができるのかということは、
本CAE技術の有用性判断基準の一つになると考えます。
2.Aeronautics(航空業界)
Green PPS leading edge cover made from recycled thermoplastic composite materials
Winner: ThermoPlastic Composites Research Center (The Netherlands)
Partners: Fokker Aerostructures B.V. (The Netherlands), TenCate Advanced Composites B.V. (The Netherlands)
リサイクル材料をベースにした熱可塑性樹脂(PPS)の航空機部品の受賞です。
以下に示す ThermoPlastic Composites Research Center というオランダの研究機関が主として推進してきたプロジェクトのようです。
https://www.youtube.com/watch?v=o-pKtKv_Exw&feature=youtu.be
今回受賞したリサイクル材料の研究に関連すると思われる動画も一部あります。
AirbusのCFRTPの適用を立ち上げから支えてきたFokkerがパートナーにいるあたりが、オランダでの業界動向を感じます。
これまでハイパフォーマンスが最重要だった航空機もイメージ戦略として少しずつ環境性能を高めようという潮流が出始めています。
今回は強化繊維のリサイクルと熱可塑性樹脂の適用という組み合わせで、環境にやさしいというイメージを植え付けようとしているようです。
約10mm四方に裁断したフレーク状の材料を用いるというのが主軸のようです。
従来金属材料が使われてきた翼の先端を守るリーディングエッジをFRP化仕様するというのは軽量化に貢献するのはもちろん、プリプレグの端材を材料として再利用することで低コストかも実現できると書かれています。
環境性能が求められる欧州を中心に、この手の技術の重要性は今後も高まるということが示唆されています。
技術的懸案としてはやはりエロージョンでしょう。
エロージョンというのは砂のような細くて堅い粒が繰り返しあたることですり減っていくという事象です。
耐エロージョンについて金属と比較しFRPはあまり高いとは言えず、多くの場合金属で保護するのが一般的です。
この課題が乗り越えられているのかがまず一つ目の課題です。
そしてもう一つがランダム材を用いることによる厚みのばらつき管理です。
ランダム材は成形しやすいと一般的には言われていますが、
これは材料の形態、特に繊維長と単位体積繊維含有率に大きく依存することはあまり語られません。
局所的に材料が存在するリスクのあるランダム材は、結果的に局所的に厚くなる、または材料不足のために薄くなるという厚みばらつきのリスクが常に付きまとう難しい材料です。
また繊維端面がそこら中に出てくるため、短い繊維では高速の空気流れによって引きはがされてしまうかもしれません。
このようなリスクは航空機のかなめともいうべき空力性能の低下にもつながり(空気の流れが最も速いリーディングエッジ付近の凹凸は空力性能低下最大の原因)、全体としてのパフォーマンスが低下してしまうのです。
加えて、ランダム化するという材料の追加工があるにも関わらず、本当に低コスト化につながるのか。
この辺りは冷静な判断が必要です。
3.Transportation(輸送)
Carbon fiber composite transport tanks combining lightweight properties with very high chemical resistance
Winner: Omni Tanker Holdings (Australia)
Partners: GreenStorm Solutions (Australia)
個人的には今回の Innovation award の中で最も価値のある、つまり産業に貢献する可能性が高いものであるというのが第一印象です。
一部実用化されつつありますが、大型タンクローリーの容器にFRPを使うという技術です。
今までは耐薬品性を初めとした各種要件をFRPが満たせないということで適用されてきた範囲が限られてきました。
具体的な内容はかかれていませんが、耐薬品性の高い樹脂の開発に成功したようです。
以下のHPを見るとポリエチレンのライナーが肝のようです。
http://evolutiontankers.com.au/chemical-tanker-innovation
もちろん耐熱性、難燃性といった色々な制約があるのも事実ですが、FRPを使うメリットが非常に明確であるためコンセプトは良いと思います。
今後の展開としては日本でいえば電車のコンテナではないでしょうか。
日本は電車輸送網が発達していることから貨物列車も多く運行しています。
この貨物のコンテナは非常に大型のものが多く、これらコンテナをFRP化できれば輸送に必要な電力の削減につながる可能性もあります。
耐腐食性もきちんと設計できれば金属より優れているため、拡大していく可能性があると考えています。
4.Process(製造)
Manufacturing and processing of tailored thermoplastic composite blanks
Winner: Fraunhofer Institute for Production Technology (IPT) (Germany)
Partners: HBW-Gubesch Thermoforming GmbH (Germany), Bond Laminates GmbH (Germany)
Fraunhofer IPT お得意のプリフォームに関する技術です。
材料を積層するATL(Automated tape placement)やAFP(Automated fiber placement)を起点としている技術ですが、ポイントはヘッドを動かすのではなくテーブルを動かすことでブランクを作っていくというところです。
平面ブランクを主体とした技術は昔 Fiber Forge が開発をして一世を風靡しましたが、それをより小型化にしたイメージです。
ブランクの最適化は廃材の減少にもつながるため製造コストの削減にも効果があると述べられています。
課題としては、結局のところ最終的には平面ブランクではなく3D形状の製品を作らないといけないという事実です。
そのため、ブランクを後工程の形状を考えながら設計できるのか否かという設計者のスキルを求められてしまいます。
ポイントとなるのは繊維の配向による素材の変形予想です。
プリプレグはドレープ性があまりよくないため、できる限り動きやすいよう材料の配向をあらかじめ設定するという先を見越した設計思想が必要となります。
とりあえず半球体形状ができればいい、という短絡的な思想でこの手の技術を使わないことです。
今日は前半の4つの技術についてご紹介しました。
まだまだ要素レベルである、というものからそれなりに拡大が見込めそうな産業を意識したものまであるというのが上記4つの印象です。
次回のコラムで残りの JEC Innovation Awards Atlanta 2016 受賞技術をご紹介したいと思います。