JEC 2017 で聴講できる講演会について
いよいよ開催まで1か月を切った JEC 2017 。
今年も参加される方が多いかもしれません。
そしてこの展示会である JEC 2017 と同時開催されている講演会を見ると、
現在この業界がどの方向を向いているのかということを欧州視点から一部見えるかもしれません。
そこで本日は JEC 2017 に開催される会議を通じ、欧州視点でみた業界動向を見てみたいと思います。
6つの講演会
今回は6つの講演会が柱として添えられています。
– Thermoplastics – Multimaterial Solutions
– Aeronautics: Multiscale Modeling for Behavioral Predictions
– Production Technology for Multi-Material Lightweight Components
– Current Trends in the Automotive Industry
– Braiding: Taking the Technology to the Next Industrial Level
– Composites as a Worthy Alternative to Traditional Materials in the Construction Industry
引用元URL:
http://www.jeccomposites.com/events/jec-world-2017/conferences-knowledge/conferences
それぞれについてみていきたいと思います。
Thermoplastics – Multimaterial Solutions
欧州はもともと熱可塑を主体として業界を引っ張ってきた実績と誇りがあるのでこのテーマは外せないのだと思います。
実際、航空業界でも実績を挙げ、その貢献度は誰の目にも明らかといえます。
ここはフランスの研究機関Cetimが中心となり、熱可塑で攻勢をかけるSolvayも話をする様子が見てとれます。
内容的には新しい材料を紹介し、Multi Materialのコンセプトの紹介などが行われるようです。
ただ、熱可塑は熱硬化とは異なる知見が必要であるため、
熱可塑性FRPの特性をよくわからないまま熱可塑に傾くのは危険です。
その一方、短繊維(フィラー)を入れたものであればとても身近な材料であることも事実。
今回の講演でどのような展望が語られるのか興味深いところでもあります。
Aeronautics: Multiscale Modeling for Behavioral Predictions
言わずと知れたFRPがある意味当たり前に使われる業界の一つです。
ただこの業界もこの業界で変化が多少なりあります。
その一つが
CAEの適用拡大
です。
CAEは元々航空業界では当たり前に使われてきましたが、
近年のトレンドはこのCAEを実試験の一部と同等に扱うことで認定試験の一部に採用してもらい、
認定試験のボリュームを減らしたい、というものが多くなっています。
そのため今回の発表内容はCAEに関連するものが多いのだと思います。
取り組みそのものはとても興味深いですがFRPのCAEは至難の業です。
恐らく欧州といえども一筋縄ではできていないでしょう。
もしかするとFRPのCAEについては北米の方がやや進んでいるかもしれません。
ただどちらも万能解が出たわけでは無いのでまだまだこれから長い時間をかけ、
ソフトウェアとそれを用いる技術者の力量向上が求められると予想されます。
そのため今回の発表でもフランスの国立航空宇宙研究所のONERA、SAFRAN、AirbusなどがCAEを主体に発表するようです。
Production Technology for Multi-Material Lightweight Components
複数の材料を合わせ込んだ量産技術といったところでしょうか。
欧州もこの手の話に関するニーズが比較的高いことを示唆しています。
設備技術はもちろん、材料の観点からも生産性向上への取り組みがなされているようです。
多くの方が興味を抱く可能性が高い領域の話でもありますが、
これらの話は設計コンセプトが固まった後の話です。
製品図面の観点からはどのように作るのかということに対する比重はあまり高くありません。
図面要求を満たすことが重要で作り方に対する言及はパラメータに管理が必要な一部を工程規格で制限する以外、
図面上では制約をつける必要はないからです。
上述の前提を忘れずにいられるのであればこの領域の話も有意義に聴くことができると考えます。
Current Trends in the Automotive Industry
この業界ではお約束のテーマですね。
LUCINTELという調査会社の業界ニーズの発表や一部Magnaの発表もあるようです。
自動車へのFRP適用については私も色々な所で意見を求められることから、
業界もニーズ掘り起しに引き続き躍起になっている印象です。
恐らく産業界全体で見ても自動車業界の景気が良い、というのがすべての背景にあると感じています。
Braiding: Taking the Technology to the Next Industrial Level
これはちょっと意外なテーマでした。
組紐だけで一つのテーマにするとはとても興味深いです。
基礎研究からシミュレーション、オンライン画像検査まで様々な企業や大学が話をするようです。
日本でもFRP業界を支えるのは基材加工メーカーであることも事実。
どのような話が聞けるのか、個人的に最も興味のある内容といえます。
Composites in the Construction Industry
これはFRP業界の今後を占う重要な業界といえます。
量的にも事業的にも未開の地が残るブルーオーシャンではないか、
という見方があるのは事実の一つではあります。
欧州の流れは私が肌で感じている感じではこの業界に目が向きつつあることを感じています。
どこまで話を聴けるか否かはわかりませんが、本業会のことをあまりご存じでない方であれば、
一度話をきいてみる価値はある内容になるかもしれません。
もちろん課題がないわけでは無いので、この課題をわかったうえで話を聴けるとより有意義になるかもしれません。
全体を通じて
全体を通じて言えることはアプリケーションを主軸に議論をする傾向が強くなった、と感じています。
航空、自動車、建築物など、最終的に何に使うのかということを意識しながら議論しましょう、という流れが今回のJEC講演会から見てとれる特徴の一つといえます。
これは業界全体としても喜ばしいことであって、最終的なアプリケーションも検討しながら議論できれば、製品の基礎となる設計コンセプトを頭の片隅に置きながら話を整理できる可能性も高まるためです。
その一方で Production というところが一つのテーマになってしまうあたりが形を作りたいという過去の呪縛にとらわれていることを示唆していることも事実。その点、Open discussion という今回の6テーマ以外に併設されている講演会は設計コンセプトを議論しましょうという一つ上のフェーズでの話になります。
とはいえ、この手の話をコーディネートしてまとめあげるのは聴講者(出席者)とコーディネーターに高いスキルが求められるため現地で何かを生み出すのは困難で、議論をするためのスタートラインを引けるくらいのところまでは到達できるかもしれません。
いかがでしたでしょうか。
何かしらの参考になればと思います。
上記でご紹介したのはあくまで「欧州の目線」でのトレンドを感じる一つの例にすぎません。
別の所で何度も述べていますが、欧州の言っていることが必ずしも正解とは限りません。
これは北米からの情報も同様です。
本当の真実は実際に情報発信を行い、そして自社がリスクを取って進めた仕事を通じてしかわからないのです。
このことを今一度認識していただき、実際の真実を得るためにも情報収集にとどまらず、
自社の強みを主軸に情報発信に切り替えるという考え方がまず第一歩になると考えます。