月刊プラスチックス に特集記事を寄稿
日本工業出版社が出版している、 月刊プラスチックス 2017年7月号 の特集: 注目複合材料と製造技術 、という中で、該出版社の依頼により
繊維強化プラスチックの適用拡大に当たっての課題と解決に向けたアプローチ
という題名の記事を寄稿しました。
本雑誌の紹介URLを以下に記載しておきます。
http://www.nikko-pb.co.jp/products/detail.php?product_id=4098
今回は複合材料向けの記事が特集で組まれているため、
本コラムをご覧の方にも参考になる点があるかもしれませんので、
FRP consultant以外の記事の概要を紹介したいと思います。
1. CFRPの設計と保証の課題
大同大学の先生の記事です。
CFRPの歴史や航空機を中心としたCFRP適用の歴史、
接着接合を中心とした破壊の形態などについて紹介がされています。
製造工程の影響が品質にも与える、という重要な観点が述べられています。
2. MRJへの複合材料の適用と開発状況
日本が国を挙げて販売を進めるMRJに関する三菱航空機の顧問の方の記事です。
尾翼にA-VaRTMを使っているという話はあまりにも有名ですが、
ベリーフェアリング、フラップトラックフェアリングにGFRPを使っているなど、
あまり知られていない話も紹介されています。
The Composite Materials Handbook-17(CMH17)と呼ばれる、
昔はMIL17と呼ばれた規格を参照して残寿命評価を進めたこと、
ビルディングブロックアプローチ(材料試験片を基本としたデータをベースに単体試験へと進めること)を基本として評価を進めているということが書かれています。
1/1スケールで行う水平尾翼強度試験機の写真は圧巻です。
Tier1ではなく機体メーカーとして取り組んでいる苦労が伝わってくる記事です。
3.シートワインディング成形で作るCFRP製品の進化
信濃工業の方の記事です。
フィラメントワインディングではなく、プリプレグを基本としたシート材を用いたシートワインディングの歩みと、現状について述べられています。
シートワインディング装置としては、ローリング・テーブル形式、ローラー・ローリング形式という、
主に二つの形式があること。
シートワインディングは1960年代にゴルフシャフトに適用されたことを皮切りに、
工業用ロール、プロペラシャフトに拡大してきていること。
そして、最近はねじれ抑制に異なる角度の積層を入れていることなどが紹介されています。
CFRPを早い段階から適用してきた業界企業の視点からの概要は興味深いです。
4. 熱可塑性CFRPと金属のレーザー溶着
FRP業界最大かつ最難関の課題の一つである接着と接合。
その課題に対し、レーザーという媒体でアプローチをかけるタマリ工業の方の記事です。
化学的結合に加え、機械的な結合について詳細が述べられており、
特に後者の金属表面にパルスレーザーをあって空孔を形成させ、
アンカー効果を狙う技術などが紹介されています。
またレーザーグラディング(PMS処理)により金属表面に微細特記構造を形成させる、
といったものも紹介されています。
さらにはCFRTPと金属をレーザーで融着させるにあたり、
回折光学素子で強度分布を整形することで均一加熱するための方法を構築。
このようにして得られた接着せん断TP(CFRTP/A5052)では凝集破壊を確認したとされています。
工程がすべてドライで接合という難課題に取り組む非常に共感できる記事です。
5.炭素繊維熱可塑性樹脂複合材料の高サイクル成形とテキスタイル加工を実現するコミングルヤーン
コミングルヤーンを販売するカジレーネの方の記事です。
炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維を混在した形でヤーンを形成し、
それをそのまま加熱、加圧することで成形できるという内容です。
高い繊維加工技術を有する企業らしく、
プリフォームに注目した刺繍技術を応用した基材加工技術についても述べられています。
合わせて円筒組物といった中空物を連続成形する技術も紹介されています。
6. 新しい難燃技法によるFRP成形品の開発
最外層にClaist® Layerという酸素遮蔽層を設定することで、
透明性と難燃性を両立させた製品、EXVIEWができたという宮城化成の方の記事です。
内装材を中心に難燃性能が求められる昨今において、
ニーズが多い取り組みであると考えます。
JEC Singapore 2016でInnovation awardも取り、鉄道車両への適用検討を進めているようです。
材料形態で難燃性を実現しようという、興味深い記事です。
7.力学特性に優れた生分解性複合材料の特徴と応用
稲わらを基本とした生分解性複合材に関する記事で、秋田県立大学の先生が書かれたものです。
従来の稲わらの表面に反応性高分子をグラフと重合させる、というものから、
薬品を使わない水中混錬を基本とし、表面にある油脂成分を取り除く、
という前処理で複合材を形成させよう、というものです。
15時間程度攪拌した稲わら30から50wt%をPLA(ポリ乳酸)と複合化することにより、
PLA単体と同等の引張強度を発現したとのことです。
稲わらがフィラーの役割を果たしたといえます。
グリーンコンポジットとしての新たな提案として面白いテーマであると考えます。
8. 金属加工廃棄物を利用した機能性複合材料の特徴
金属加工くずを再利用しようという九州工業大学の先生と明菱の方の記事です。
使用済み切削油の底に沈殿するヘドロに含まれり粒子を機能添加剤として再利用しようという試みです。
XRDのスペクトルを確認したところFe3O4が多いことが判明、
そして粒径は100nm以下が多いことがわかったとのこと。
この微粒子をマグネットセパレータで分離、回収し、
伝熱性、導電性、電磁波遮蔽効果、といった機能性発現に成功したとのこと。
機能性発現と廃材再利用という一種の両立困難なテーマに取り組んだ、
優れたアプローチであるという印象です。
いかがでしたでしょうか。
FRPというとCFRPを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、
実は複合材料の一種に過ぎない、ということを再認識いただけたかもしれません。
ご参考になれば幸いです。