東京オリンピックを見据えた 競技用車いす へのFRP適用
今日のコラムでは「 東京オリンピック を見据えた 競技用車いす へのFRP適用」という題目で、
開催が来年に迫る東京オリンピックでのFRP活躍の一例をご紹介したいと思います。
2020年パラリンピックでの車いす競技
競技でいうと陸上競技の分類になります。
トラックやロードが車いすで主に活躍する領域のようです。
車いすと一言で言ってもかなり細かいクラス分けがされており、
脳性まひ、頚髄損傷、脊髄損傷、切断、機能障害、
といった障碍者種別とその程度によってそれぞれのクラスが存在するようです。
車いすは短距離から中距離、そして長距離と様々な種目があるとのことです。
この辺りの概要情報は以下のHPからも見ることができます。
https://tokyo2020.org/jp/games/sport/paralympic/athletics/
日本には数社の 競技用車いす メーカーが存在
競技用車いすを作っている日本の主なメーカーをご紹介しておきます。
– 株式会社オーエックスエンジニアリング: http://www.oxgroup.co.jp/index.html
車いすに加え、自転車も作っているメーカーです。ハンドサイクルという製品もあり、興味深いです。
– 日進医療器株式会社: http://www.wheel-chair.jp/index.php
車いす、または車輪の着いた医療機器にほぼ特化している企業のようです。
– 八千代工業株式会社: https://www.yachiyo-ind.co.jp/
本田技研工業の資本の入った企業です。燃料タンク、サンルーフ、樹脂部品等が主な製品ですが、競技用車いすも作っています。
※八千代工業の競技用車いす関連のプロモーションビデオもあります。
競技用車いすには多くのCFRPが使われている
あまり知られていないことかもしれませんが、
競技用車いすにはCFRPが使われているケースが比較的多いです。
オリンピックレベルの車両ではほとんど使われているといってもいいかもしれません。
主に使われているのはフレーム、車輪です。
上記でご紹介した企業のうち、オーエックスエンジニアリング社は東京オリンピック向けのモデルを発表 という題目で、 日刊工業新聞社 でリリースもかかっています( 2018年6月5日 )。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00476109
CARBON GPX という製品については以下のページに概要が書かれています。
http://www.oxgroup.co.jp/wc/products/gpx_cfrp/info-gpxcfrp.htm
シートフレームはアルミに加えて、マグネシウムもあるようです。
Vフレームというフレーム形状を採用するなど、
培われたノウハウをふんだんに注ぎ込んだということが伝わってきます。
乗り味の最適化や剛性向上のために、
織り角度、積層枚数、積層角度に研究を重ねた、
と書かれていることからもCFRP扱いに積極的に取り組んだものと考えられます。
日進医療器の競技用車いすの紹介ページは以下の所にあります。
http://www.wheel-chair.jp/nissinpdf/sw_nsr09.pdf
メインフレームとシートフレームが脱着可能か否かによって、
NSR-C02 、 NSR-C03 という2つのラインナップがあります。
この企業はホイールのラインナップも紹介があり、後輪については
– アルミリム
– カーボン4本スポーク ( CORIMA )
– カーボンディスクホイール ( ZIPP )
などの種類があります。フレームカラーを選べるのは嬉しいですね。
また上記で紹介した八千代工業のプロモーションビデオでも、
織物のCFRPプリプレグを型に積層し、
それをオートクレーブに入れて脱型している様子も描かれています。
バギング技術が素晴らしいですね。
比較的角部が少ないといってもこれだけの大きさですので、
リークが起きないかとひやひやものではないかと思います。
加えてレーザースキャニングによる形状測定と、
それの画像をモデル化、メッシングして応力やひずみの予想をCAEで行っています。
正直なところCAEは精度を求め始めるときりがないので、
せいぜい面内の異方性を考慮した弾性率とポアソン比を入力し、
全体的な傾向を把握しようということなのではないかと推測します。
CAEを複合材料で活用する際には、
実用的なレベルがどこなのか、という見切りをつけ、
最終的には実態で評価する、というバランス感覚が重要です。
面内、層間の異方性を考慮するくらいまでやれば十分ですが、
そこに繊維と樹脂の間の界面が…というマクロの話をしだすと、
計算量も膨大になり、合わせこみも難しくなります。
ローラー走行試験の様子も映っていますね。
このような単体試験ではひずみや振動といった各種情報を取得するものと考えます。大切なのはここで得られたひずみや応力分布がCAEとどのくらい合致しているのか、どのくらいずれているのかを把握することだと考えます。
今回はレース車両なのであまり関係ないですが、長期間使う市販品の場合、FRP固有の初期破壊の有無をAEで検査する、その初期破壊が問題ないのか否かについて カイザー効果 を考慮して評価するといった技術評価が重要になるでしょう。
尚、この辺りの話は以前、「カイザー効果 をベースにした AE によるCFRP健全性評価検討」というコラムでも述べているので興味ある方はこちらもご覧ください。
福祉関係分野へのFRP適用の可能性
今回ご紹介したのは競技用車いすへのCFRP適用でした。
個人的にFRPは軽いというその最大の特徴故、
福祉関係に今以上拡大できないか、
と考えています。
なぜならば、福祉業界で軽量化というのは絶対的な正義だからです。
私が以前会社員だったころ、
色々面倒を見ていただいた職場の先輩が車いすでした。
その方は車で通勤されていたのですが、
車の近くまで移動した後、運転席に乗り込み、
車のそばにある車いすを助手席に片手でのせていました。
その方は力のある方だったのでまだよかったのですが、
力がそれほど強くないお子さんや女性、お年寄りではこうはいかないのではないでしょうか。
これを見た時に、
「FRPは何らかの貢献をできるのではないか」
と強く思ったことを思い出します。
もちろん本命は異方性の無いアルミニウムだと思いますが、
特定の方向に力がかかる、より軽量化が必要だ、
という部分についてはFRPは十分に活用できる可能性があると思っています。
そしてコスト的なことはもちろんですが、
市場での生産量と供給安定性の観点からも、
どちらかというとCFRPよりもGFRPの方が本命といえるかもしれません。
車いすや義肢に加え、今後のさらなる展開も期待されます。
福祉領域でどのようなアプリケーションの可能性があるのか、
ということを調査するにあたっては「 国際福祉機器展 」等に行くのも一案かもしれません。
以下にURLがあります。2018年は10月10日から12日までの開催予定です。
https://www.hcr.or.jp/
FRPの新たな展開検討のご参考になれば幸いです。