Cevotec が展開する Fiber Patch Placement (FPP)
今日のコラムではFRPの積層技術の一つである Cevotec が展開する Fiber Patch Placement ( FPP ) について述べてみたいと思います。
Fiber Patch Placement ( FPP )とは
ここ2、3年でコンセプト提案されてきているFPPですが、
どのようなものなのかは代表的なメーカーである Cevotec を一例に、
以下の動画を見ていただくのがイメージをつかむには最適かもしれません。
プロトタイプの型にパッチを高速で貼り付けていく様子がわかります。
工程の概要は上記の動画の通りですが、
少し技術的に中身を見ていきたいと思います。
FPP最大のメリットはその卓越した積層配向精度
最初に認識すべきはFPPのメリットでしょう。
Tailored Fiber Placement (TFP)やNon Crimp Fabric( NCF )もそうですが、
ドライの基材を中心とした製品最大の強みはその 繊維配向精度の高さ です。
FPPも規定長さと幅にそろえられたパッチを、
指定された位置に貼り付けていくというのが基本コンセプトです。
この取り付け位置の精度が高いということは、
強化繊維の空間固定位置精度が高いということ。
配向精度を高めることができれば、
FRPが有する機械、物理特性を狙い通りに発現させる、
ということに大きな貢献をすることは間違いないでしょう。
なぜならば異方性の高いFPRの特性は繊維配向と繊維量によって支配されるのが一般的。
そのうち、一般的には成形中の材料移動により変動幅の大きい繊維配向に精度が担保される、
ということは非常にメリットがあるというのが設計的な見方でしょう。
FPPに使われる材料はドライの基材(強化繊維)が基本
FPPで誤解されがちなのは貼り付けているものですね。
これは樹脂が含侵されているプリプレグではありません。
繊維にバインダーのついたドライ基材であるというのが基本なのです。
ドライ故、フィーディングもやりやすくカットもやりやすい。
そしてこのカットに熱が発生するレーザーを使えるというのもドライ故のメリットです。
バインダーがついているので型には貼り付きますが、
マトリックス樹脂が存在するわけではないのでそのまま圧力と温度をかけても成形物になりません。
ここがポイントでしょう。
仮にFPPで積層したとしても、その後樹脂を含侵するという工程が不可避なのです。
もちろんCevotec等のメーカーに対しては顧客からプリプレグでできないのか、
プリプレグでも熱硬化だけでなく熱可塑でもできないのか、
といった話が出ているとは思います。
しかし、現段階ではドライの繊維が基本であるということは認識する必要があります。
シミュレーションソフト
CADを基本とした ARTIST STUDIO というソフトウェアを Cevotec は有しています。
以下のページに概要が書かれていますので、もう少し中身を見ていきましょう。
https://www.cevotec.com/en/artist-studio-software/
PATCH ARTIST 、MOTION ARTIST 、 Cevotec plug-in for FE-software という3つのソフト(一部プラグイン)が紹介されています。
PATCH ARTIST というのはCADの型表面データ上に繊維配向、繊維長さ、繊維幅等を設定の上、
貼り付けていくということをデザインするソフトです。
後述するMOTION ARTISTと連携するものと考えられます。
MOTION ARTIST はパッチを型に貼り付けるという作業をシミュレートしたもの。
狙いのパッチを積層するにあたり、どのようにしてヘッドの動きを最適化させるのか、
という検証に用いるようです。
Cevotec plug-in for FE-software というのはFEAのプリプロセッサーとのことです。
プリプロセッサーはメッシング、境界条件設定等の解析条件設定に使うものです。
上記のソフトはパッチによって積層された積層物についてオートメッシングができると書かれています。
(このプラグインが使えるソフトウェアは HyperMesh というものに限られているようです)
このようにFPPの工程に関するシミュレーションはもちろん、
積層したものについて最低限のFAEをやるための準備ソフトを提供している、
ということも言及しておきます。
このようなソフトウェアをハードと同時に提供するというコンセプトは事業的には重要です。
客観的技術視点からみてFPPはどうか
ここから先は私見を述べてみたいと思います。
まず、FPPが設計の観点で機能するか否かはFRPにおける荷重伝達のCoxモデルとも呼ばれる古典理論である
「 Shear lag model 」
を基本とした必要なオーバーラップ量をきちんと把握できるか、
ということが勝負になるでしょう。
Shear lag modelというのはマトリックス樹脂から強化繊維への荷重伝達はせん断荷重によって起こる、
ということを基本にした理論で、私の知る限りこの理論を「強く否定する」事実に直面したことはありません。
微視強度論で述べられる臨界繊維長さをオーバーラップ量に置き換えると、
不連続な繊維があたかも連続繊維(もちろん完全な連続繊維にはなりませんが)として振る舞えるために必要なオーバーラップ量を示すという解釈もできるようになります。
このロジックをFPPに用いると、パッチのように細かく裁断されたようなものでも、
規定量オーバーラップさせると連続繊維のように振る舞えるのではないか、
と考えています。
もし上記のような観点で検証設計をする前提であれば、
FPPは非常に強力なツールになるかもしれません。
尚、 Shear lag model に関連する記事は過去にも以下のようなものを書いているのでご参考していただければと思います。
はじめてのFRP 材料仕様を示す 目付 、 Vf そして RC
上記の私の過去のコラムでもご紹介していますが、
以下の論文は参考になるかもしれません。
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A shear-lag model for a broken ®ber embedded in a composite with a ductile matrix
Chad M. Landis, Robert M. McMeeking
Composites Science and Technology 59 (1999) 447-457
https://pdfs.semanticscholar.org/866f/6d436ced14dd8b1ed37bda48c426b3e70559.pdf
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いかがでしたでしょうか。
今日はFPPについてのご紹介とそれに対する技術的なコメントをつけてみました。
上記の通り、FRPの製品を形にするときに重要なのは、
「つくり方のようなプロセスではなく、設計コンセプトである」
というのが私の考えです。
目指すべき方向性にFRPも属する複合材料のコンセプトが活かされ、
それにより新しい技術的進歩を目指す、という基本からずれてしまうと、
プロジェクトそのものがちぐはぐなものになりかねません。
ものづくりの基本はあくまで図面です。
そして図面こそが最上位の技術書類です。
図面にその作り方の詳細を書くということは一般的には行わないことと同様、
つくり方をどうするかということはさほど重要ではないのです。
それよりも目指すべき姿をきちんと図面があらわされているのか、
ということがずっと重要なのです。
FPPはプロセスに関する技術ですが、
私個人的にも自動化を含めた工程にはさほど興味がありません。
どちらかというと、このFPPによって得られるFRP製品が、
上記のShear lag modelに基づいた準連続繊維のような特性を発現し、
そこにおいてFPPの「高繊維配向精度」というコンセプトが多大なる貢献をするのではないか、
というほうが興味があり、そしてそこが技術的本質だと思います。
ご参考になれば幸いです。