2019年のFRP業界最新ニュースの振り返り
2019年のFRP業界最新ニュースの振り返り として、昨年発行したメルマガを抜粋して概要を述べてみたいと思います。
各題目をクリックするとメルマガのバックナンバーに移動します。
1. Elekta のMRI設備 Unity MR-linac の床材にTRBのFRPを適用
医療業界へのFRP適用事例です。
FRPの高剛性に着眼し、床の変形を最小化しようというコンセプトです。
荷重分散をさせて変形を回避し、計測精度を高めようというのが背景にあるようです。
ケーシングにもFRPを使うことで、設備の軽量化はもちろん、
断面剛性の高さから、薄肉化を実現して機器収納空間確保も狙っているようです。
結果として設備を小型化できると考えます。
2. バイオ系材料である PFA をマトリックスとした内装構造部材
ポリフルフリルアルコール / polyfurfuryl alcohol (PFA) をマトリックス樹脂とし、
炭素繊維と組み合わせて片持ちの座席として鉄道車両に用いることを提案している例です。
PFAはコーヒーの苦み成分であり、天然素材の一種です。
そこに難燃性を組み合わせて環境にやさしい内装材を提案しています。
SDGs等の流れが強まる昨今において、必要とされる取り組みの一つでしょう。
3. KTMがFMC/NCF/elastomerでSkid plateを開発
二輪バイクメーカー KTM が、複数種の材料を組み合わせエンジンの保護カバーである Skid plate を開発したという内容です。
elastomer を用いることで衝撃吸収と寸法異常吸収を狙っていると推測します。
シミュレーションを多く使うということに加え、
マテリアルライフサイクルという観点に言及していることに注目すべきかと思います。
4. Toray が高柔軟性の新規 PPS を発表
高耐熱と柔軟性を両立させたPPSに関する情報です。
分子設計を行うことで、近年マトリックス樹脂として注目されるPPSの使い勝手を良くした製品になります。
もちろん分子内に硫黄原子を有するため、
設備への腐食などの問題を引き起こすことには留意が必要です。
5. MaxCore による Sandwich Core の層間方向への繊維挿入技術
FRP業界で再び注目を浴びつつある Skin / Core 構造。
この材料構成の主役を担う材料の一つがフォーム材と呼ばれる材料です。
フォーム材は軽量で成形時の形状追従性が高いなどのメリットがある一方、機械特性には劣ります。
この課題を解決するため 層間方向への繊維挿入技術 を使って層間を繊維補強しようというのがご紹介した取り組みです。
6. DLR が MultiMech を用いた CMC の亀裂進展予想技術を開発推進
DLR が MultiMech を用いて予測を試みているのは、CMCの破壊形態を予測することです。
CFRPを1600℃で加熱してマトリックスを炭化物とすることでCMCライクの材料にし、その材料の破壊進展の様子を予測対象としているようです。
注目しているパラメータは繊維とマトリックスの界面接着性です。
かなりハードルの高いシミュレーションと予想しますが、
CMCが脆性材料である以上、不可欠なアプローチといえます。
7. A350の一次構造材に適用された 熱可塑性CFRP (CRRTP)とその概況
熱可塑性CFRP、いわゆる CFRTP が航空機の一次構造材に使われたという事例の紹介です。
帝人の Tenax TPCL ( ThermoPlastic Consolidated Laminates )がその材料で、ドイツの Premium AEROTEC が設計と製造を担当しています。
結晶性ポリマーであるPEEKを用いている故、
成形時に結晶化度を評価する必要がある等、
留意点も述べています。
8. データマイニングを活用した熱可塑性FRP製パイプ/タンク製造システム ambliFibre
ambliFibre ではFRPのレーザーによる自動積層において、
レーザー出力、 押し付け荷重、プロセス速度といったキーとなるパラメータを、
smart human-machine interface (HMI) というアルゴリズムでこれまで蓄積されてきた経験値も参照しながら、
シミュレーションで最適な工程を提案するというインテリジェントシステムです。
熱可塑性FRP成形技術の新たなアプローチといえるでしょう。
9. Graphene を熱可塑性発泡ポリウレタンに添加した 安全靴 の保護材へ適用
昨年はナノカーボンがFRPに対して本格的に適用され始めた年といえるかもしれません。
安全靴の中足骨の保護に用いられている発泡ウレタンに Graphene (グラフェン)を添加することで、
衝撃吸収性を高めたという技術です。
ナノテクも身近になってきたといえます。
10. FRPのヨットの帆(sail)への応用
薄物のFRPの繊維配向を厳密に制御し、
規定形状への変形を狙ったアプローチです。
filamentary membrane と呼ばれるこの技術でヨットの帆に用いることで、
風を推力に変える効率向上と同時に軽量化を実現し、
推進スピードを上げるというのが狙いです。
FRPは構造材であるという概念にとらわれないところがとても興味深いです。
いかがでしたでしょうか。
FRPと一言で言っても様々な領域があることを感じていただいたかと思います。
今年も色々な情報をお伝えしていければと考えています。