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3Dプリンタ向けFRP材料を用いた環境循環型 歩道橋 Vol.151

2020-07-13

FRPを用いた 歩道橋 への適用のポイントは異方性の理解

( The image above was referred from https://www.royalhaskoningdhv.com/en-gb/news-room/news/worlds-first-3d-printed-frp-footbridge-paves-way-for-circular-composites/10998 )

 

オランダの化学メーカー DSM が、
3Dプリンタ向けのFRP材料を用いた環境循環型歩道橋を世界で初めてリリース、
という内容を公開しました。

記事は以下のURLから見ることができます。

https://www.dsm.com/corporate/news/news-archive/2020/2020-07-07-worlds-first-3d-printed-frp-footbridge-paves-way-for-circular-composites.html

 

環境循環型歩道橋のコンセプト

ロッテルダム市が主体となり、
Royal HaskoningDHV が歩道橋の設計に関する知見を提供し、
DSM が3Dプリンタ向けのFRP材料を提供する、
という枠組みでこの歩道橋の設計と製作が進められるようです。

コンセプトで最も大切なのは

「長寿命で維持管理費を従来より抑えることによる、環境維持特性と循環特性」

とのことです。

この歩道橋については、2019年9月にコンセプトが発表され、
既に検証が進んでいる、というお話を紹介したことがあります。

※ Royal HaskoningDHV / CEAD / DSMのオランダ企業連合による FRP 3D printing製の橋コンセプト発表
https://www.frp-consultant.com/2019/09/10/royal-haskoningdhv-cead-dsm-3d-printing-bridge/

上記の過去のメルマガでも紹介していますが、ポイントとなるのは

「歩道橋製作時における材料の無駄がない」

という所でしょう。

これは、3Dプリンタが用いられる大きな動機の一つとも言えます。

一層ずつ積層していくというその作製方法故、
各断面図をニアネットで作れることから材料の無駄が発生しないからです。
(理屈上の話ではあり、実際は異なることもあります)

今回はこれまでのコンセプト検証で大きな問題が無かったことから、
ロッテルダム市という具体的な自治体との協力を得ながら、
1000以上の歩道橋をかける、ということのようです。

 

適用する材料

今回のリリースにおいて具体的な名称は記載されていませんが、
コンセプト検証時と変化が無ければ使用材料は、
Arnite(R) というPETをマトリックスとしたガラス繊維強化樹脂(GFRTP)だと考えます。

水の近くで使われること、そして風雨にさらされることを考えると、
より耐水性の高いPBT( polybutyleneterephtalate / ポリブチレンテレフタレート )をマトリックスにしていると考えます。

 

センシングによる保守点検のタイミングを把握

この機能もそのまま採用になったようです。

恐らくひずみを計測するセンシングを行うことで、
その歩道橋がどのタイミングで点検、また場合によっては補修が必要か、
といったことを管理するとのことです。

今回のような熱可塑性のFRPの場合に留意すべきは、

「クリープ現象」

です。

徐々に塑性変形し、あるところまでくるとその変形によって機能性が失われる、
今回の歩道橋でいうと下にある川に接触してしまうというのがクリープによって生じる問題の一例です。

センシングについては最近も小型のひずみセンサーである STREAL というものを紹介しました。

※ Small strain measurement module for composite structure monitoring
https://www.frp-consultant.com/2020/07/01/strain_measurement_composite_monitoring/

このようなセンシング技術と組み合わせることで、
今回のようなインフラ関係の長期信頼性が必要なところでの、
FRP適用実績を突き詰めていくという姿勢が今後、ますます重要だと考えます。

 

FRPを用いた設計でまず重要なのは異方性に対する考慮

今回は3Dプリンタを用いてFRPを積層する、
ということで歩道橋作製時の無駄な材料を減らす、
そしてFRPという耐水性の高さを武器に保守点検の頻度を減らして長寿命化させ、
構造物のトータル費用を下げ、また環境負荷も下げるというのが狙いです。

このようなプロジェクトにおいて、多くの場合に議論となるのが、

「既存設計技術をFRP材料構造物にどこまで流用するのか」

ということです。

一般的な構造設計は均質材をベースに構築されています。

このコンセプトをそのままにFRPを使おう、
という方はさすがに減ってきている印象ではありますが、
FRPを使うにあたって何を重視して設計をすればいいのかについては、
今でも不明確な方が多いと感じています。

私の個人的な考えとして、FRPを用いるのであれば最も重要なのは、

「FRPは異方性材料である」

ということへの認識です。

上記でご紹介した歩道橋は3Dプリンタを用いた積層ではありますが、
FRPである以上必ず異方性が存在します。

例えば3DプリンタでFRPを積層したとすると、
それが仮に連続繊維である時はもちろんのこと、
短繊維であったとしても面内と面外(層間)では特性が全く異なります。

これは層間方向では繊維の連続性が失われているからです。

上記のようなFRP固有の特性を設計段階で理解し、
その特性をうまく活用できるか、という設計思想が重要だと考えます。

Royal HaskoningDHV はFRPの異方性をはじめとした従来材との違いを踏まえ、
センシングをしながら実際の使用状況下での歩道橋の挙動を注意深く調査する、
という判断をしたのではないかと想像します。

コンセプト実証で問題なかったとしても、
長期利用における変化は実測で捉えるべき、
という真摯な姿勢を感じます。

 

 

公共の構造物にFRPを使おうという動きは日本でも出てきています。

 

その際にポイントとなるのはやはり「異方性」という特性に対する理解です。

 

FRPの有する長寿命という特性を生かせるか否かは、
異方性に対する理解ができるか否かにかかっているといっても過言ではありません。

そしてやはり長期利用についてはデータを蓄積し、
異方性を考慮した設計がどこまで実体として機能しているのか、
ということを把握し続けるという技術者としての姿勢が求められていると考えます。

 

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