インフュージョン成形の効率化に貢献するメディア G-FLOW Vol.167
FRPの成形法には様々な手法があります。
一般的によく認識されているのはオートクレーブ成形やハンドレイアップ成形、
そしてプレス成形でしょうか。
ハンドレイアップを除き、これらの工程の前提となっているのは、
「強化繊維とマトリックス樹脂が予め一体となったプリプレグを使っている」
ということです。
つまり、強化繊維へのマトリックス樹脂含浸という工程が概ね終わっているということですね。
これに対し、強化繊維とマトリックス樹脂が別々の材料について、
その成形方法として一般的なものの一つがRTM(Resin Transfer Molding)です。
RTMについては、以下のようなコラムで過去にも取り上げたことがあります。
※ FRP製マンホール蓋向けの ウレタンアクリレート 樹脂の適用拡大
上下が型で構成される成形設備の型内に、
予め強化繊維を入れた上で型を閉じ、
そこに硬化前の熱硬化性マトリックス樹脂を注入するというものです。
一般的には樹脂側を加圧し、マトリックス樹脂を型内に注入します。
一時期はHP-RTMという樹脂側を超高圧にして注入する装置が注目されていました。
この辺りの事も過去に取り上げたことがあります。
※ DIFFENBACHER の HP-RTM 装置を中国企業に本格導入
今回ご紹介する G-FLOW という製品は、もちろんRTMにも使えますが、
下型だけが金型で上型に相当する部分はバキュームバックである、
「インフュージョン成形」
での使用を主に想定した材料になります。
この成形法では、強化繊維のおかれたキャビティー内を減圧することで、マトリックス樹脂は大気圧との差圧により型内に注入されます。
樹脂を後含浸する場合に必須ともいえるメディア
強化繊維を置いて、樹脂を注入するというと簡単に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、
実はかなりのスキルが必要です。
大型になればなるほど、そして厚くなるほど、さらには形状に凹凸が出るほど難しくなっていきます。
大型になればそれだけ大量の樹脂を入れなくてはならず、
途中で樹脂が硬化して粘度が上がれば、それ以上流れなくなります。
また、厚手のものも難しい。
重力という避けられない力により、
樹脂はどんどん下に流れていきます。
そのため、厚手のものほどその重力に逆らって樹脂を流さなくてはならず、
様々な工夫が必要になります。
凹凸が多い場合も同じ理由で樹脂が末端まで含浸しないケースが多発します。
このような樹脂流れをスムースにするのに適用されるのが
「メディア」
と呼ばれる副資材です。
樹脂が流れやすいよう、チャンネルと呼ばれる繊維間に意図的な隙間を作り、
そこを通り道として樹脂ができる限り均一にかつスピーディーに含浸することを目的としています。
(一般的には積層の最も外側にこのメディアを適用します)
G-FLOW はこのメディアの一種です。
樹脂の流れやすさを実現したガラス繊維100%のメディア
G-FLOW の一番の売りは、
「構成材料がガラス繊維のみなので、FRPと一体化した際に強化繊維としての役割を果たすことから、
物理特性、機械特性への悪影響が少ない」
ということのようです。
(The image above was referred from https://composites.chomarat.com/en/brand/g-flow/)
他の製品でもガラス繊維が100%のメディアはあるようですが、
100 sqmのような大型のサイズになると、
チャンネルをはじめとした、樹脂の流れを最適化する基材構成設計が不十分のためか、
樹脂の流れ方があまり良くないとのこと。
またこのような大型のメディアは合成繊維と組み合されることも多く、
結果として、FRPとなった後の特性低下につながるようです。
メディアは使用後にはがすと思うので、この主張は理解しきれていない部分もあります。
もしかすると、はがすときに平板に損傷が出るということを言いたいのかと想像しています。
この辺りの概要を理解するには以下の動画を見るのが最適かと思います。
これを見るとG-FLOWの適用の方法が描かれています。
注目すべきポイントは、この材料がメディアにもかかわらず中間層(最外層ではない)に適用していることです。
これは、材料そのものがガラス繊維(ロービング)でできているため、
メディアであると同時に、強化繊維としての機能を発現することを示唆しています。
動画では以下のような順番で金型上に材料を積層しているようです。
1. ゲルコート
2. 多軸のガラス繊維(+45/-45のNCFとチョップの複合体のようです)
3. 多軸ガラス繊維(0/90のNCF)
4. G-FLOW(積層の表裏を考え、メディアの凸部でNCFの凹部を埋めないように注意する必要があるとのこと)
→樹脂の通り道であるチャンネルがつぶれてしまうためです。
5. 多軸ガラス繊維(0/90のNCF)
6. 多軸のガラス繊維(+45/-45のNCFとチョップの複合体のようです)
※個人的には素手で積層するところがすごいと思いました。チクチクしそうですね。
上記の情報から、この平板は疑似等方積層材であることがわかります。
その後、一般的なメディアの積層例が描写されています。
やはり最外層に置いていますね。
バックの様子も描かれています。
そして樹脂の流れがメディアによってどのくらい違うのか、
ということを左右で比較しています。
左が G-FLOW 、右が一般的なメディアですね。
インフュージョンは上型の代わりにバックをするので、
樹脂の流れが見やすいというメリットがあります。
凹凸のある同等形状の成形において、左が15分、右が23分とのことで、
差があります、ということを言いたいようです。
その上で曲げ試験を行い、
G-FLOW を使った方が強度が高いという旨の試験風景も見られます。
様々な形に切り出して使うことができるうえ、
副資材としてのごみが少なく(一般的なメディアは使い捨てだが、メディアは強化繊維と一体になる)、
曲げ試験による強度が高い、といったメリットも合わせて述べられています。
G-FLOWの仕様
G-FLOW(TM) 980L という製品を一例にその仕様を見てみます。
こちらのページに概要が掲載されています。
以下、抜粋してみます。
Total weight: 982 gsm
Fibres orientation: 0°/90° (BT)
Warp Glass : 4 ends/cm – 1200 tex
Weft Glass : 4 ends/cm – 1200 tex
Pattern: Leno
Width(s): 125 cm
Roll Length: 100 ml
あまりなじみのない標記の一つが ends/cm でしょうか。
これは恐らく1cm あたりの打ち込み本数のことを言っているかと思います。
1cmという幅(または長さ)あたりに何本のロービングがいるか、というお話かと思います。
また、 Leno というのもあまりなじみがありません。
これは「絡み織(からみおり)」というものです。
以下のページに絡み織の製品が紹介されています。
https://yasuda-tex.jp/karami/
尚、最後の 100 ml はミリリットルではなく、
meter length の事だと思います。
要は、ロール当たり長さが100mということですね。
ではこれを踏まえて考えるべきことは何でしょうか。
曲げ試験では比較にならない
やはりここに尽きます。
曲げ試験を算出する式を見ていただければ、
その意味は分かるでしょう。
曲げ試験は面外に対する複合モードの試験であるため、
見かけの強度を算出しているにすぎず、
その前提は厚さ方向に軸応力が直線分布している、
というものになります。
しかし異方性の強いFRPでは圧縮特性と引張特性に差が出るのが一般的で、
この前提は成り立たないと考えるのが普通です。
さらに言うと、形状因子がそのまま強度データに影響を与えるため、
全く同じ形状(厚みと幅)の試験片で評価しないと、相対比較さえできません。
この辺りは以下のような40年前の文献でも述べられており、
何故今でも曲げで評価するケースがあるのかについて、私はどうしても理解できません。
※ FRPの力学的特性試験法の問題点と設計基準(II)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscm1975/7/2/7_2_74/_pdf
更に留意すべきが、曲げという複合モードにおいて、
中間層の寄与率は比較的低いということです。
上層程圧縮で、下層ほど引張ということを考えれば、
一種の不動層のような位置づけになるのです。
中間層に入れたメディアの効果を見るのであれば、
曲げで見るのは明らかに矛盾を感じてしまいます。
もちろん今回の結果がすべてダメとは言いませんが、
何故引張や圧縮、面内せん断で評価しないのかわかりません。
この辺りはユーザーもきちんとFRPの基本を理解し、
基本を最重要として取り組む姿勢が重要なのかと思います。
評価については課題があるものの、
メディアという製品としては大変面白いのではないでしょうか。
今後増えると予想される洋上発電のような大型のGFRP成形物が増えると予想される昨今、
ガラス繊維はもちろん、炭素繊維との組み合わせで活躍するケースも出てくる可能性があります。
ご参考になれば幸いです。