溶接を可能にするガラス繊維とCrNi Steel繊維を組み合わせたFAUSST Vol.179
FRPの応用展開で不可避ともいわれている異種材接合。
接合部の信頼性を考えればボルトやリベットなどによる機械的結合が基本ですが、
表面処理剤や接着剤の性能向上により、
接着だけで接合を担保させようとする取り組みも増えていると感じています。
そのような中、ドイツのベンチャー企業である HYCONNECT が、
溶接による接合を可能にするガラス繊維と CrNi Steel繊維を組み合わせた FAUSST について発表をしています。
HYCONNECT社とは
2017年に初の製品を上市した、
公的予算による研究プロジェクトからのスピンアウト企業のようです。
HYCONNECT社の概要についてはこちらのページに書かれています。
後述する FAUSST の製造にはイタリアの Comez という企業と取り組んでおり、
製品の展示には Saertex も関わっているようで、
各領域の企業とうまくやりながら事業を進めている印象です。
GREEN TECH FESTIVAL 2021 というドイツの展示会に参加した際、
CEOであるLars Molter 氏がインタビューに答えています。
趣旨としては以下の通りです。
・HYCONNECT社は異種材接合に関する技術と製品の展示をしている。
・技術の基本は海洋業界向けの研究プロジェクトから出発したもの。
・FAUSSTというのはドイツ語のプロジェクト名からきている。
・材料構成は市場の標準に合わせるイメージで、ガラス繊維とステンレスワイヤの物が主。
→詳細は不明ですが、欧州のレギュレーションにも適用している旨、発言があります。
・二酸化炭素の排出削減に直接貢献するというより、
軽量化により消費エネルギーを減らすということがGREEN TECH FESTIVAL 2021出典の狙い。
・まだ若い企業だが、企業活動における二酸化炭素排出削減に関する取り組みは既に社としても開始しており、
排出削減に関する権限を他社から購入する、本社のあるHumburgに植林するということも検討中。
・基本的には製品を輸送運輸関係の業界に展開したい。異種材結合技術により軽量化を実現し、
単位輸送当たりのエネルギー消費量を減らす事を目指したい。また、電車への適用も興味深い。
・自社の投資家は短期的な利益を目指すということより、いかに企業が持続していくかについて重視してくれている。
長期視点で様々な規模の大きな企業への自社製品紹介に尽力してもらっているのが現状である。
船舶業界における認証変化
船舶業界も自動車、航空機、その他産業同様型式認証があります。
商用船舶は大型船を中心に金属製が基本で、
なかなか代替材料の船体製造への適用が認められなかったようです。
例えば The Safety Of Life At Sea (SOLAS) は2002年まで商用船舶はステンレスで作ることを要求していたとのこと。
しかし、MSC/Circ. 1002というものが発行された際、初めて代替材の適用が認められたということから、
見方によっては航空機業界よりも保守的であると感じます。
代替材として着目された材料の一つがGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)でしたが、
ここで懸念として示されたのが
「接着による接合」
という部分。
認証機関であるDNVは、
「一次構造材について、接着による接合は認証しない」
と明言したこともあり、接着以外の選択肢が必要になったとのこと。
しかし、ボルト締結等の従来工法は用いたくない。
そういうジレンマもあって始まったのがFAUSSTのプロジェクトのようです。
尚、DNVについては以下のようなコラムでもご紹介したことがあります。
FAUSSTの概要
(Image above was referred from https://www.hyconnect.de/en/)
製品のイメージは Composite World の画像を見るとわかりやすいかもしれません。
Connecting composites to steel
https://www.compositesworld.com/articles/connecting-composites-to-steel
上記の記事には既に述べた認証の話に加え、 FAUSST の概要も述べられています。
一言でいうと、
「hybrid warp knitted textile」
となります。
経糸(たていと)を複数種、ここでいえばガラス繊維とCrNi Steel 繊維を編みによって組み合わせた、
強化繊維基材となります。
画像を見ていただくとわかるように、
全体的にCrNi Steel 繊維とガラス繊維が組み合わされるというよりも、
接合する部分のみ(一例としては基材の端)にCrNi Steel 繊維を集中的に取り入れる、
という構成になるようです。
製造スピードはおよそ 100m/h とのことです。
そしてこの基材のCrNi Steel 繊維が集中している部分を、
接合したい金属(この場合の被接合材料はステンレスとだけ書かれています)に接触させ、
円形の銅電極による連続的工程の圧接により接合させます。
このようにして金属と接合された基材を、
バックして樹脂を含浸させるインフュージョン成形をすることで、
金属とFRPが溶接によって一体化した異種材接合品ができるということになります。
FAUSST接合のせん断強度
HYCONNECT社より入手した資料によると、
長さ15mm 、幅50mmの接合面積を有するFAUSSTで接合されたGFRP/SUSの試験片に対し、
せん断特性を評価した結果、せん断強度は平均値で68.3MPa程度を示したとのこと。
このせん断強度は、かなり高い接着せん断強度を示す接着剤を用いて、
GFRP/SUSで評価した値の倍以上であり、
確かに接着よりも高いせん断接合強度を示しています。
入手した資料ではSS線図(応力ひずみ線図)も掲載されていますが、
破壊に対し、大きなばらつきがあるわけではありません。
ただし、早い段階で非線形になっていることには注意が必要です。
これは恐らくですがSUSと比べてGFRPの剛性(弾性率)が低いため、
せん断特性を計測中に変形したと考えられます。
異種材接合はFRPの適用拡大に不可欠な技術の一つとなるのは間違いないでしょう。
なかなかFRPだけで様々な特性を満たすのは困難だからです。
強化繊維の中に金属繊維を取り入れ、
この金属繊維を媒体として溶接することにより一体化するというのは興味深いアプローチであり、
今まであまり見られなかった技術だと思います。
その一方で課題もあるでしょう。
やはり材料の最終処分方法です。
異種材接合を成功させればさせる程、材料の分別は困難となり、
リサイクルはもちろん、廃棄も困難となります。
常に全体を俯瞰して見ることで、ゆりかごから墓場までイメージし、
持続可能な社会の一員にFRPがなるような継続的な取り組みが重要なのは言うまでもありません。