エポキシ樹脂の耐衝撃性を上げる コアシェル 構造の添加剤 Kane Ace MX
内側である「コア」と外側の「シェル」をもつ、 コアシェル 構造を応用した添加剤について、
エポキシ向けの製品 Kane Ace MX が発売されるとの情報がありましたのでご紹介します。
FRPのマトリックスに用いられる樹脂。
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂に関わらず求められるのは、
靭性(じんせい)
です。
靭性とは言い換えると、粘り強さとなります。
樹脂は基本的に室温状態では硬いので、衝撃を受けた時に変形に耐えられず「割れる」という事象が発生します。
この割れこそがFRPの最終破壊に至らしめる初期破壊であり、
層間方向に広がるこのマトリックス樹脂の破壊はトランスバースクラックとよばれ、
FRPの破壊状態のメカニズム解明や初期破壊の状況判断によく用いられます。
靭性を高めるにはやわらかくすればいいので、可塑剤とよばれる一種の油のようなものを入れることで、
樹脂の物性を改善する例も多くみられます。
ところが、やわらかくするという事は靭性が上がる一方で剛性が低下し、
耐熱性の指標であるガラス転移温度も低下してしまいます。
このように、樹脂の靭性を上げるという事は剛性や耐熱性の低下につながることが一般的で、
FRPのマトリックス樹脂の研究開発ではジレンマの一つと言われています。
そんな中、カネカが Kane Ace という コアシェル 構造を持つ添加剤で樹脂の靭性を高めるというアプローチを行っています。
http://www.kaneka.co.jp/kaneace/index.html
カネカは塩化ビニルに用いるブタジエンゴムをベースとしたBシリーズ、アクリル系をベースとしたFMシリーズ、そして熱可塑性樹脂に用いるMシリーズをラインナップとして持っています。
http://www.kaneka.co.jp/kaneace/products/index.html
これらの添加剤は可塑剤と異なり、樹脂の中に入り込むというよりは分散する状態となるため、
基本的には靭性や剛性に影響を与えないアプローチになります。
そんなカネカが今度はFRPのマトリックス樹脂として最も代表的なエポキシ向けのコアシェル構造を持つ粒子の添加剤を発売開始するようです。
詳細は明らかになっていませんが、Kane Ace MX という製品名での販売となるようです。
http://www.kaneka.be/products/liquid-polymers/kane-ace-mx
これはエポキシベースのマトリックス樹脂を開発しようとするにあたり、
非常に有効な添加剤の候補になりそうです。
ただし、注意点があります。
今回の Kane Ace MX がどのような製品になるのかはわかりませんが、
もしコアシェル構造に従来のようなゴムを用いている場合、
使用環境によっては破壊靭性を高める効果が見込めない可能性もあります。
特に、ゴムというより樹脂に近い物性へと変化してしまう低温環境や、
ゴムとしての機械特性が殆どなくなってしまう高温環境において靭性改善の効果が継続的に発揮できるのか、という所について注意を払う必要があります。
今回発売される添加剤 Kane Ace MX が、FRP のマトリックスであるエポキシにも十分適用できるものであるのか、非常に楽しみですね。