JEC World 2024 conference program から見る業界動向
2024年3月5日から開幕する、複合材料業界最大の展示会JEC World。
業界の情報や企業が最も集まる場所とあって、
日本からも多くの関連業界の方々が参加されるようです。
今回はJEC World 2024開幕直前特集として、
JEC World 2024 conference program から見る業界動向という題目で、
conference programから適宜抜粋の上で紹介し、
今年の動向について私見を述べたいと思います。
JEC World 2024 conference program について
こちらについては、以下のJECのページよりご覧いただけます。
JEC World 2024 conference program
3月5日から最終日の3月7日までプログラムが組まれています。
以下、抜粋の上で概要を述べたいと思います。
The EU Green Deal 2050: the Key Milestones for European Industries and the Existing Mechanisms to Support this Transition
ブリュッセルに本部のあるヨーロッパ複合材料産業協会である、
EuCIA ( European Composites Industry Association )の話になります。
EUは環境意識の高い地域です。
EuCIAは
Europe’s ambition to be climate neutral by 2050
というスローガンを掲げているので、
これに関する話になると考えます。
以下のようなリリースも出ていますので、
興味ある方は事前に目を通しても良いかもしれません。
Showcasing the European composites industry at JEC World 2024
how to use EuCIA’s Eco Impact Calculator life cycle assessment (LCA) tool
という文言も見られますので、
環境アセスメントに関する話が含まれると予想されます。
Belgian Composites for a Sustainable Future
FRP業界という狭い世界においてですが、
欧州の中ではあまり目立ってこなかったベルギーが、
持続可能な世界というコンセプトについて話をするようです。
ここで話題の一つになると想像されるのが以下の事だと考えます。
Reprocessed ThermoSet (RTS) がキーワードです。
これに関連するのがREPROCOVERという組織です。
技術の詳細は不明な部分もありますが、
熱硬化性樹脂を含む材料の機械的破砕、評価、混錬等の技術を組み合わせ、
電車などの輸送機器向けの材料として再生させることがコンセプトとHPで述べられています。
材料まではできたものの出口が見えないため、
今回のような講演で最終製品等を提案できるパートナーを探したい、
ということなのかもしれません。
Process Material Kits Finish First by Offering Real Time Savings
個人的に興味のある話です。
バックフィルムなどの副資材メーカ Aerovac の話ですね。
副資材は比較的歴史の長い材料で、
かつFRP成形には無くてはならない一方、
技術革新が近年あまり見られないという印象もあります。
工程時間の短縮を基軸に最新製品の紹介があるようですので、
副資材の進化を見られるのかもしれません。
尚、以下のタイトルで似たような講演がありますので、
そちらを聴講するのも面白いかと思います。
こちらはインフュージョン成形を主とした内容のようです。
Save Time, Money, and Effort with Vacuum Infusion and Custom Process Material Kits from Aerovac
Leading into the Zero-Carbon Era: Swancor Recyclable Thermosetting Resin System “EzCiclo” and “CleaVER”
これは驚きました。
技術の詳細は見ていませんが、
いよいよ熱硬化性樹脂をマトリックスとする複合材料でも、
リサイクルが可能になりつつあるという話なのかもしれません。
三次元架橋に伴う硬化反応を、可逆反応にするといった話だと面白いですね。
高分子関連の学術領域ではしばらく可逆の架橋構造に関する研究が行われていましたので、
そのうちのどれかを使ったのではないかと勝手に想像しています。
近年の”リサイクルのしやすさ”というイメージで進行してきたFRPへの熱可塑性樹脂の適用拡大という潮流に、
一石を投じる内容となる可能性もあります。
Two Birds, One Stone: Cost Efficient and High Quality Products with an Intelligent Process Optimization Solution
今の時代では不可欠な視点です。
分析機器大手のNETZSCHが関わるというのが面白いです。
人工知能を活かしながらコストをかけずに、
高品質のものを作り続ける工程設計をする、
というのが売りのようです。
FRPをはじめとした複合材料を用いた製品製造でのキーパラメータは何か、
ということを抑えるにあたり、
外観からはわからない比熱や粘度の変化を捉えるという意味で、
NETZSCHの技術は応用できそうです。
恐らく化学的な観点が上記の取り組みの土台になっていると推測します。
Behind the Scenes of a Composite Mold Manufacturer – Fearless Automation
ブームが過ぎたともいわれる3D printingですが、
着実に進んでいるところでは進んでいるという印象を私は持っています。
少量多品種という制限がつきますが、
FRP化したいというニーズは意外な業界からも出ており、
複雑な形のものを作りたいという流れは今でも堅調です。
今回のお話では3D printingで seamless の型を作るという話も出るようですので、
3D printing最大の欠点ともいえる積層面の凹凸に関し、
どこまで平滑になったのか等、興味があります。
Composite Research, Innovation, Knowledge & Education @ Applied Mechanics & Vibrations Laboratory of University of Patras
こちらは完全に個人的な興味なのですが、
もし話の中にFRP構造材の振動特性が出てくるのであれば面白い、
と思いました。
異方性のあるFRPは通常の構造材と異なる振動応答をすることがわかっており、
また用いる強化繊維の種類や積層、配向、織り方等の基材構成によって、
その特性がさらに変化することもわかっています。
Vibration Laboratoryという登壇者の方の所属に興味があり、
上記のような記述にしました。
ただJECのHP上では特に振動について言及する、
といったことは触れられていませんでした。
もし私が会場にいたらFRPの振動応答についてどう考えるか、
という質問をしてみたいです。
Proxxima(TM) Systems: Redefining Thermosets
ポリオレフィンなのに熱硬化。
この一言で興味を持ちました。
ノーベル賞の技術を使っているとのことで、
2005年ノーベル化学賞である有機合成におけるメタセシス法の開発の技術かな、
と勝手に想像しています。
従来のポリオレフィンと比べ、
重合反応が早く、機械特性と疲労特性が高く、
さらに温室効果ガス排出削減にも貢献できると書かれています。
詳細はわかりませんが、
マトリックス樹脂の新たな展開として知っておいて損はないかもしれません。
Circularity meets Lightweight Design for the Future of Automotive
この議論は重要であり、
自動車業界が力を入れていると理解はしています。
しかし、これに向けてFRPが今何かできるかでいうと、
自動車業界はボリュームが大きする、
そしてコストが厳しすぎるため難しいのではないか、
というのが私の考えです。
もちろん短繊維の射出成形品等、
既に自動車業界で用いられているFRPもありますが、
例えばより長繊維、またはVfの高いFRPの適用等にに拡大できるかというと難しいのでは、
というのが上述の意図になります。
個人的には最近ご紹介したAAM等への適用が現実的だと考えています。
ただ、非常に大きな業界の取り組みですので、
複合材料として何ができるのかを考える観点で、
聴講する価値はあると思います。
The Future of Composites: Decomplexifying Sustainability
欧州を主とするJECではこの手の講演が多いですが、
冒頭のEuCIA同様、環境評価をどのように行うのかもポイントだと思います。
技術の目線からだとどうしても材料と製造に目が行きがちですが、
事業性も含めて俯瞰してみることが重要であるという観点で、
Distributorである登壇者のIMCDの話を聴くのも一案です。
製品のやり取りを生業とする視点から何を語るのかが興味深いです。
まとめ
全体を通じ、間違いなく主流の一つと考えられるのが、
地球環境を意識した取り組みです。
新材料の開発、工程の最適化、評価方法の構築等、
様々なやり方がありますが、
少なくとも環境問題を念頭に事業を進めることが、
今後さらに重要になっていくものと考えます。
それ以外にも3D printingの活用が続いていること、
熱可塑性樹脂をマトリックスとしたFRTPの成形に関する加熱技術も紹介されるなど、
これまでスポットライトがあてられた技術もやはり継続していることを、
今一度確認することも重要と言えます。
今回は紹介していませんが、Start up系の企業にも面白いものがあります。
このような企業の技術も念頭に置きながら、
場合によっては出資をする等、
戦略を立て、それを実行していくことが重要なのだと思います。
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