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EVやAAMに実装されるバッテリー外装構造部材へのFRP適用の概況

2024-12-23

電動化が進むAAM(Advanced Air Mobility)の飛行距離やEVの航続距離で、
大きな役割を果たす部品の一つがバッテリーです。

このバッテリーの外装構造部材で、
コンポーネント、センサ、コネクタを含めたモジュールを、
バッテリエンクロージャーといいます。

本点については過去のコラムでも取り上げたことがあります。

 

※関連コラム

リチウムイオンバッテリーエンクロージャーへのFRP適用

 

今回はComposite Worldのレビュー記事として、
バッテリーエンクロージャーを中心としたバッテリー外装構造部材を特集した以下の記事を参考に、
概況を述べたいと思います。

※参照情報

On the radar: Innovations in composite battery enclosures

 

 

 

バッテリエンクロージャーの軽量化に対する強い要求の背景

EVやAAMに実装されるバッテリー外装構造部材へのFRP適用は着実に進んできている

おさらいも兼ねて、今回の主題であるバッテリエンクロージャーに関する技術的要件を述べていきたいと思います。

バッテリーエンクロージャーへのFRP適用は浸透してきているようですが、
その最大の目的は軽量化です。

何故軽量化が重要なのかについては、
重量エネルギー密度を認識いただく必要があります。

当該密度の単位はWh/kg(類似の表記として体積エネルギー密度もあります。単位:Wh/L)です。

つまりバッテリーが同じエネルギー量を蓄えられるのであれば、
軽いほうが性能が高いと評価されるのです。

バッテリーは重量密度が比較的高く、
例えばリチウムイオンバッテリーだと以下の参照情報に基づく計算では約2.59g/cm^3です。

※参照情報

リチウムイオン電池の基本(表1-1の情報から算出)/日刊工業新聞社

 

飛行距離や航続距離を長くしたければそれだけ多くのバッテリーを搭載する必要があるため、
全体として重くなります。

このバッテリー(セル)の外装構造部品であるバッテリーエンクロージャーを軽くすれば、
バッテリー全体としての重量削減につながり、
重量エネルギー密度を高められることにつながります。

空を飛ぶAAMはEV以上に軽量化が重要な要件となっています。

本観点がバッテリーエンクロージャーにFRPを適用したい技術的動機になっています。

 

次に冒頭の記事で紹介されている内容について、
順次触れていきたいと思います。

 

 

 

High-voltage battery system called BOLDair

これは前出の関連コラム(リチウムイオンバッテリーエンクロージャーへのFRP適用)で取り上げたものになります。

バッテリーエンクロージャーには熱暴走が他のセルに拡大しないよう、
Compression Padsが搭載されています。

また熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(PC)とガラス繊維を組み合わせたFRPを用い、
射出成型で成型したことを述べました。

繊維配向や絶縁性の評価など、
比較的細かい観点で設計をしていることは注目に値します。

 

 

 

Engel, SABIC and Forward Engineering’s battery enclosure concept

射出成型機のEngel、材料メーカのSABIC、設計技術系企業のForward Engineeringが共同で製作した、
バッテリーエンクロージャーです。

鉄鋼材を構造のコア材料としていますが、
その上から冷却機構を含めてサンドイッチ構造として一体化したもののようです。

使用した材料はSABICの難燃グレードのStamax PPで、
バッテリーエンクロージャーのFRP厚みは1.9mmとのこと。

FRP中間材料形態はOrganosheetと書かれているため、
上記の熱可塑性樹脂を含浸した織物強化繊維で鉄鋼材をサンドイッチして成型していると考えます。

 

 

 

Fiberglass/phenolic resin cover was made via wet compression molding

射出や混練を行う設備メーカであるイタリアのCannon Ergosに関するものです。

ガラス繊維と難燃性が特徴のフェノール樹脂からなるFRPを成型したSenviasは、
Cannon Ergosの設備を導入してwet compression moldingにより、
Battery Lid(バッテリーの蓋)を試作しています。

以下の動画で概要を見ることができます。

Wet compression moldingの詳細は分かりませんが、
熱硬化性樹脂を用いていることからDynamic Fluid Compression Moldingに近いイメージかもしれません。

※関連コラム

新しいFRP短時間成形工程として期待される Dynamic Fluid Compression Molding

 

バッテリーエンクロージャーを構成する蓋に該当する部品は薄くて大型のものが多いため、
薄物形状を得意とするFRPを採用やすいということを言いたいのかもしれません。

 

 

 

20% carbon fiber/ABS automotive battery covers 3D printed using a powerPrint

 

成形品の評価として3D printingを使用するという内容です。

型成形で本格的な量産に入る前の段階で、
炭素繊維とABSで構成されるFRPを用い、
3D printingでBattery Coverを成形しています。

概要は以下の動画で見ることができます。

ポイントは3D printingを使えば2カ月以上かかる金型製造の工程を経ずに、
製品を成形できるため、様々な評価を行うことができる、
というのが主張したい軸となります。

ただ個人的には型で成型したものと、
3D printingで成形したものでは、
成形時(成型時)の圧力や熱履歴が大きく異なるため成形体に対する同一の比較ができるのかは疑問です。

成形時の圧力は特にFRP特性への影響が大きい、
というのが上記の疑問の背景にあります。

上記の話は形状の妥当性検証、例えば締め付けができるか、
固有値はどうか、といった話を想定している可能性が考えられます。

 

 

 

Functionalized graphene materials into EV battery applications

Grapheneを添加材として用いることで、
FRPとしての特性を向上させようという取り組みです。

材料のサプライヤはMito Material Solutionsで、
過去のコラムでもこのサプライヤのGrapheneについてはご紹介したことがあります。

FunctionalizedはGrapheneの表面処理のことを指しています。

※関連コラム

かご型シルセスキオキサン(POSS)で表面処理したGrapheneのFRP製スキー板への適用

 

詳細は参照記事で触れられていませんが、
恐らく剛性や強度を高め、薄肉化をするという話が主となっていると考えます。

 

 

 

Lastan(R) nonwoven fabric

旭化成のLastan(R)をBattery pack内の熱暴走の保護層や、
複合材料の最外層、いわゆるSurface plyとして用いるようです。

Lastan(R)については以下のページを見ていただくと概要が分かるかと思います。

※参考情報

ラスタン(R)/旭化成アドバンス

 

アクリル繊維を原料とし、耐炎化処理したものが主であり、
炭素繊維の中間体という見方もできるかもしれません。

ただ炭化処理を行っていないため柔軟性が高く(高いドレープ性を有し)、
かつ限界炭素指数も50程度であり燃えにくいという特徴を有しているようです。

バッテリーの熱暴走を防ぐには熱伝導を防ぎ、
周りのバッテリーセルに熱が伝わらないことが最重要です。

Lastan(R)は1300℃の火に1分間暴露さらされても、火炎暴露の逆側は400℃程度に抑えることも可能なようで、
バッテリー外装構造部材であるバッテリーエンクロージャーの構成材料として求められる特性も有すると考えます。

※参照情報

Asahi Kasei launches Lastan flame-retardant nonwoven for EV battery packs

 

 

 

High-volume battery pack manufacturing line

これはバッテリー外装構造部材というよりもAAM向けバッテリーの量産ラインが完成した、
という話題として掲載されています。

AAMのメーカであるArcher Aviation Inc.は上記の量産ライン構築というニュースに加え、
株式会社 Soracle(住友商事と日本航空の共同出資で設立)にAAMの機体を100機供給予定(総額5億ドル)ということでご存じな方もいるかもしれません。

この内容は以下の動画でも述べられています。

Archer Aviation Inc.の製造機体であるeVTOL(電動垂直離着陸機)のMidnightは、
2025年の大阪・関西万博でデモ運航をする予定となっています。

商用運航開始は2026年を予定しており、
いよいよAAMが身近なものとして登場する日が近づいています。

※参考情報

ソラクルと米アーチャー,戦略的関係構築で基本合意 最大100機,5億ドル相当の購入権含む

 

 

前述のバッテリー量産ラインについては、年間の製造キャパシティーが15,000であり、
工程の多くが自動化されていることなどが触れられています。

参考にした情報によるとFAAの承認要件で難関と考えられたバッテリーの50回の落下試験が無事に終了した、といった認証に関する記述も認められます。

 

※参考情報

Archer Completes Installation Of High-Volume Battery Pack Manufacturing Line

 

 

これらの記事から考えられることについて述べたいと思います。

 

 

 

技術的要件で重要なのは軽量化に加え、難燃性と断熱性

現段階では、バッテリーの種類としてはAAMもEVも全固体電池等ではなくリチウムイオン電池が主体のようです。

その場合、技術的な観点で重要視されるのは軽量化に加え、

「難燃性と断熱性」

という安全に関する要件です。

断熱性は既に触れた通り熱暴走の抑止です。

加えて難燃性は万が一火が出た場合、
簡単に燃え広がらないようにするための予防機能となります。

FRPはマトリックスが有機材料であるため、
燃えるのは程度の違いはあれど原理原則上”不可避”です。

あくまで燃えにくいというレベルではありますが、
この性能はUL94等の規格で規定されています。

同様に量産性だけでなく断熱性に加えて絶縁性の観点から、
バッテリーエンクロージャーの強化繊維はガラス繊維が多い傾向にあります。

材料供給安定性の観点からもガラス繊維を選択することは妥当であると考えます。

 

 

 

バッテリー外装構造部材の軽量化ニーズはEVよりもAAMの方が高い

個人的には軽量化という観点だけでいうと

「EVよりもAAMの方が圧倒的にニーズが高い」

と考えています。

空を飛ぶ時は地面を移動するのとは異次元に重量の影響をうけます。

飛行距離に影響を与えるというのは当然ですが、
重量によってその他の一次構造部材に求められる要求値も大きく変化するためです。

例えば離陸時と着陸時に構造部材かかる荷重は定常荷重と比べて大変大きく、
その荷重数値は構造部材自体の重量の影響を大きく受けます。

このような技術的事実を踏まえると、
AAMの拡大はFRP適用拡大に直結するという予想は、
大きくはずれないと考えます。

 

※関連コラム

Advanced Air Mobility(AAM)の概況と構造材に用いられるFRP部品の型式証明

 

 

バッテリエンクロージャーを中心に、
バッテリー外装構造部材へのFRP適用の概況についてご紹介しました。

 

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