2024年 FRP業界最新ニュース総集編
2024年 FRP業界最新ニュース総集編という題目にて、昨年発行したメルマガを抜粋して概要を述べてみたいと思います。
各項目をクリックいただくと、該当するページに移動します。
はじめてのFRP FRPの非破壊検査に応用される超音波探傷
今まで様々な企業の支援を行ってきましたが、
その多くの企業では「形を作る」ところに強い関心がある一方、
検査、特に非破壊検査を全く想定していません。
分かりやすい成形に走るという製造業の文化は簡単には変わらなそうです。
しかし何度も述べている通りFRPの破壊は外観からは見えない内部欠陥から発生するものであり、
それが気が付かないうちに進展して最終破壊に至ることについて、
FRPを取り扱う技術者は理解すべきでしょう。
この記事ではそもそも何故FRPの非破壊検査では超音波が使われるのかから始まり、
超音波非破壊検査の近年のトレンド、
きずエコーの意味や何故超音波では欠陥といわず”きず”というのか、
といったFRPに関係する技術者であれば全員知っておくべき基本中の基本について述べています。
2024年にHPでも公開したこの記事は、
同年最も読まれた記事の一つになっていることからも、
非破壊検査を理解する必要性は多くの方にとっても共通認識になりつつあるのかもしれません。
個人的には前向きな変化として捉えています。
Advanced Air Mobility(AAM)の概況と構造材に用いられるFRP部品の型式証明
空飛ぶ車という名称でも知られるAAMについて取り上げました。
民間航空機以来、ようやくFRPが活躍すると期待される新産業が出てきたと感じています。
そしてFRPの技術的な基礎をうまく取り入れている側面もある型式証明の基本を、
Tier1や2ではなく、OEMの視点から述べました。
型式証明の本質は、図面、材料規格、工程規格の3本柱です。
これらを俯瞰的に見ることができることこそが、
本当の意味での設計の視点だと思います。
図面だけ、材料だけ、成形加工だけという”だけ”視点では、
FRPは使いこなせないためです。
過去の材料規格や工程規格が改めて注目され、
それを土台にFRPがAAMの構造部材に適用されていく流れが出てくるでしょう。
また社会的視点でいうと例えば欧州ではSpecific Operations Risk Assessment(SORA)が、
Open、Speciic、Certificationという3つのカテゴリーを用意し、
人の搭乗有無、飛行領域が居住地区か否かといった視点から分類を行うなど、
その準備は着実に進んでいることもご紹介しました。
2025年1月1日の日本経済新聞でも出ていたように、
ANA(全日本空輸株式会社)も27年度にAAMによる運航を開始するようです。
その裏付けとなる情報として、ANAは野村不動産、並びにAAMのOEMであるJoby Aviationと共同で、
AAM向けの離着陸場開発の検討を進めるとリリースを出しています。
※参照情報
ANAホールディングス、Joby Aviation、野村不動産が空飛ぶクルマの離着陸場開発に向けた共同検討を開始
FRPがその特性を考慮の上で活用される新しい時代の幕開けになるかもしれません。
CFとPEEK、PAEKを組み合わせたFRTP材料間の溶融摩擦に関する研究
CFRTPの積層や成形時に生じる溶融摩擦をモデル化し、
それをソフトウェアに実装するという研究例をご紹介しました。
面内せん断のみに着目することで荷重モードを簡略化することで、
動摩擦、静摩擦の挙動に加え、せん断速度に伴うせん断応力発生の挙動を線図として示すことで、
熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするCFRTPの溶融摩擦の挙動概要解明に挑んでいます。
特にせん断速度向上に伴い、あるせん断荷重に達するとせん断応力が変化しない”過渡期”が存在する、
という事実の解明はFRPを扱う技術者の方々は知っておいて損はない内容だと思います。
この過渡期は繊維界面に存在する樹脂、
いわゆる高分子の分子解きほぐしによるものと推測され、
確率論も取り入れた平衡反応として表記することで、
ある程度実測と合致したこともご紹介しました。
さらに高分子特性である粘弾性を考慮してWhite-Metxner modelによって挙動を面内せん断のみと簡略化したことで、樹脂自体のせん断変形と高分子解きほぐしに依存する関数という2つのパラメータのみで、CFRTPの溶融摩擦現象を表現することに成功したことに触れました。
最終的にCF/PEEKとCF/PAEKで溶融摩擦予測モデルとの合致性を確認し、
相応のレベルで溶融粘度変化を予測できていることを確認しています。
また最終的にソフトウェアに実装するにあたっては、
樹脂層厚みを10セグメントに分けるといった工夫により計算量を圧縮することが重要というのもポイントです。
何よりCFRTPの扱いやすさを議論するにあたっては、
融点の高い低いだけでなく、溶融粘度を高分子鎖の解きほぐしのしやすさといった、
よりミクロの視点も考慮しながら検討することが重要というのが、
ここで強調しておきたい部分といえます。
放射線のFRPへの影響
日本は世界唯一の被爆国であると同時に、
メルトダウンを経験した数少ない国の一つです。
このように一度暴走すると様々な影響が出る放射性物質から発せられる放射線が、
FRPに対してどのような影響を与えるかの評価結果についてご紹介しました。
評価対象となっているのは放射線のうち電磁波ではなく粒子線であり、
この粒子線の一種である電子線とγ線となります。
興味深いのはエポキシを一例として、
マトリックス樹脂の基本構造によって耐放射線性能が変化することです。
同様に硬化剤も同性能に影響を与えています。
評価の概要として放射線によってマトリックス樹脂の劣化が進行し、
それが結果的にFRPの特性低下につながる一方、
当該現象が生じるには数十MGyというかなりの放射線量を照射させる必要があることに触れました。
当然ながら暴露される放射線量は、場所によっては苛烈になる可能性もあり、
その場合、FRPであっても影響は避けられないといえるでしょう。
FRPの高品質、かつ高速での加工を実現するHufschmiedのT-Rex(R) tool
FRPの機械加工ツールに関する内容です。
エンドミル加工に用いるツールの刃物形状設計最適化により、
繊維を引き抜いてからマトリックス樹脂を切断するという加工順により、
層間剥離等の加工時に生じる可能性の高い損傷を回避できることがポイントであることを述べました。
また刃物の摩耗を抑制するためのコーティングは切れ味を落とすことにつながること、
穴あけ加工といった層間方向に加工を行う場合、
特に切削力を一定にすることが重要であることについてもご紹介しました。
FRP自動積層を応用した新しいCMC製造法
FRPではありませんが、同じ複合材料の一種であるCMCに関する内容です。
CF/PEEKをμAFPで積層の上で焼成して炭化させるPIP法と、
そこにSi粉末を供給してさらに焼成させるMI法を組み合わせたCMC製造法をご紹介しました。
ラマン分光分析を用いてCMC表面がSiCに変化していることを確認し、
また曲げ強度も200MPaを超える複合材料のCMCができたことを述べています。
恐らく1000℃を超える耐熱性を有するCMCの製造法に、
FRP積層技術であるAFPが応用されたことは、
大変興味深い一歩といえます。
FRPとCMC/MMCを用いた軍用車両向け装甲防御材の防弾性能評価
FRPが安定して古くから使われている軍需産業に関する内容です。
装甲車向けの防弾構造材の軽量化を目的に、
FRP+CMC+MMCという3種の異なる複合材料を組み合わせ、
その材料の評価を行った結果をご紹介しました。
マシンガンB32で発射された径14.5mmの焼夷弾に対する防弾性能で評価しています。
防弾構造材はFace-sheet、Strike-face、Intermediate layer、Backplatesの4層構造で、
それぞれCF+AR(アラミド繊維)+室温硬化樹脂の疑似等方積層のFRP、
六角形状タイルを組み合わせた炭化ホウ素、UHMWPE/PUのFRPであり、
最後のBackplatesのみ鋼鉄、A6082、A2024/CNTの3種で評価しています。
防弾試験の結果、Backplatesが鋼鉄の場合のみ防弾でき、
それ以外は非常に大きな変形をするか、微小弾丸が貫通することが確認されています。
防弾は複層で構成されるそれぞれの複合材料が自ら破壊されることによりエネルギーを吸収する、
ということについても述べました。
表面を平滑形状にこだわらず、エンボス/デボス構造にするといった形状に関する検討も、
この手の技術向上には必要な考え方ではないか、という私見についても触れています。
当該記事の閲覧数が比較的多いのも、
もしかすると昨今の社会的不安定さを感じている方が多いためかもしれません。
CF/PAの3D printing成形体の小型衛星規格3U CubeSat向け一次構造材への適用
小型衛星の規格であるCubeSatを軸に、CF/PAが一次構造材に使用されたという内容です。
つい先日も打ち上げには失敗してしまいましたが、
カイロスのように民間企業も宇宙産業に参入しています。
一次構造材に用いられているCF/PAは3D printingで成形しています。
熱解析、構造解析、試験の3本柱での結果をベースに設計をしており、
それぞれ蓄熱挙動、異方性を考慮した応力評価、
そしてへリコイルやボルト締結実施時のトルク荷重や冷熱サイクルに関連した評価を重視しています。
クリープや線膨張差に伴う繰返し応力発生による締め付け力の低下が、
技術的に言うと小型衛星では”致命的”になる可能性もある、
といった話は冷熱サイクルが激しい宇宙空間ならではの話かもしれません。
新しいFRP短時間成形工程として期待される Dynamic Fluid Compression Molding
FRP成形法/成型法に関連する設備技術について、
ここ10年程あまり大きな変化は見られないと感じています。
一方で継続して変化しているのが”材料”です。
紹介したDynamic Fluid Compression Molding(DFCM)は、
低粘度、高速硬化の樹脂特性を応用し、
強化繊維である基材に型へのチャージ直前に直接含浸して成形するというものです。
2液性の材料であるため、含浸直前に主剤と硬化剤を混錬させる必要があります。
型を閉じておく必要のある時間は実質1分程度であることから、
高速成型ができるというのが強みとして触れられています。
通常、低粘度の樹脂は低分子であるため成型中に揮発するため気泡として残りやすい一方、
DFCMで用いられる樹脂は発泡を抑えられるため成型後の内部欠陥が少ないという結果が示されていました。
材料のみの変更で、既存のオープンモールドに適用できるなど、
柔軟性が高いことは注目に値すると考えます。
また破壊靭性値 K1C が 1.0から1.1 MPa・√mであることから、
一般的には脆性材料である熱硬化性のエポキシ樹脂としては悪くない数値といえます。
このように、あえて材料そのものが苦手とする材料特性値を公開することは、
これからの材料メーカに必要な姿勢かもしれません。
最後に
今回は2024年 FRP業界最新ニュース総集編について述べました。
総集編ではご紹介しませんでしたが、
リサイクル材や天然素材を用いた材料についても多く取り上げたことについては述べておきたいと思います。
こちらについては連載中の月刊誌「プラスチックス」でも取り上げられています。
FRPについては従来のようなブームはありませんが、
きちんと使おう、きちんと開発しようというように、
丁寧に進めていこうという企業が出てきていると感じます。
このような企業担当者の方々にも参考になるよう、
今年もできる限り業界や技術領域に偏ることなく、
幅広くお伝えできればと考えています。