はじめてのFRP – Water Jet 加工技術の基礎
FRPの成形加工で必須となる「 トリミング 」。
トリミングとは加工の時に出てきたバリを除去する工程のことです。
先日の記事ではレーザーでの加工技術をご紹介しました。
この記事の中でも述べましたが高速加工が可能なレーザーの弱点は加工中に発生する熱。
加工速度は劣るものの、熱が発生しないことからFRP加工、特にトリミングで注目されるのが ウォータージェット ( Water Jet )です。
FRPのことを調べられている方であればご存じのあの BMW もウォータージェットを使っているのを見たことがあるのではないでしょうか。
そのウォータージェット。
実は加工技術としては奥の深いものです。
ウォータージェット技術では世界的に有名な Flow がウォータージェットの加工に関する技術的な発表を行いました。
Flowのホームページは以下をご覧ください。
http://www.flowwaterjet.com/en.aspx
さて、今回の発表の要点は
「ウォータージェットで重要なのは射出圧力である」
というところです。
たまに誤解されている方がいるのですが、ウォータージェットは純粋に高圧の水で加工するわけではありません。
水と一緒に砥粒という研磨石の粒が入れられており、水と一緒に高速、高圧で吐出することで加工を行います。
過去の検証において、ウォータージェットの加工スピード、加工精度、メンテナンス期間の延長
を試みるため以下のような観点で検証が行われてきました。
– 吐出力を上げるためにポンプの出力を上げる
出力を上げることで水の吐出量と加工速度の向上を試みましたが、
結局のところ水と砥粒(Garnet)の消費拡大につながってしまい、
トータルとしてはコストアップになってしまったそうです。
– 硬度の高い砥粒を採用
砥粒をより硬いものに変更したそうです。
しかし砥粒を硬くしたことにより、
石、アルミ、ガラスといったものの加工は逆に加工効率が低下したとのこと。
それだけでなく、砥粒を混ぜる混錬管の消耗が激しくなるなど、
メリットはあまりなかったようです。
– 複数のヘッドの利用
複数のヘッドから同時にウォータージェットを吐出するというコンセプトです。
これにより見かけの加工圧力を上げ、加工効率を上げることを目指しました。
ところが、複数のヘッドを使うことはポンプの出力を上げることと比較し、
加工効率改善効果はほとんどなく、また複数のヘッドを同時に制御するということが、
想像よりもかなり難しく結局頓挫したようです。
そのような中、ポンプの出力向上と同時にノズルの吐出径を小さくするなどして
吐出するときの「圧力」を60,000psi(約413MPa)から94,000psi(約647MPa)に向上することで、
使用する砥粒を30%以上削減する一方で加工に必要な時間も30%削減することに成功したとのこと。
Flowはこの技術を HyperPressure 技術として述べています。
上で紹介したURL中の動画を見ると、「圧力」の差による加工スピードの差異は歴然です。
さてこのように良いことづくしのように見える ウォータージェット ですが当然限界もあります。
1.直線しか切れない
基本的に直線でしか切れません。
ただし、Flowはロボットアームで制御するウォータージェットも製品にそろえており、
エンドミル加工のようなことがウォータージェットで加工のようです。
2.テーパーができる
厚手のものを切ろうとすればするほど、
表層付近で高速だった砥粒は裏面近くで減速するため加工性能が低下します。
このため断面は斜め、つまりテーパーがかかってしまい表面と裏面で寸法が異なることがあります。
Flowはこのテーパーをできる限りなくすためのノズル制御システムを付与していますが、
現実的にはかなり細かくカスタマイズしないとテーパーを防ぐことができません。
3.ノズルの摩耗
ウォータージェットは高速で砥粒の入った水を吐き出します。
これによって多くのものを切り裂くことができるのです。
これは同時に砥粒を吐き出すノズルの摩耗に直結します。
初めは精度よく細いノズルで出せていた水柱も使っていくうちに水柱が太くなり、
それにより加工精度が低下する可能性もあります。
ウォータージェットでもメリットとデメリットがあるということを述べさせていただきました。
結局のところ完璧なFRPの加工技術は確立されていません。
それでもウォータージェットがFRP加工に有効であることは疑いのない事実です。
特定の技術にのめりこむのではなく、
技術の特徴と限界をよく吟味しながら自社の技術を盛り込んでいく、
というスタンスがFRP業界への参入や事業拡大に重要です。