FRP 戦略 コラム – Airbus と中国の関係強化からみえること
自動車産業に次ぐ製造業の成功事例を作りたい日本にとっては注目すべきニュースが発表されました。
Airbus と中国が過去最大のA330購入契約を締結し、そのA330の最終組み立て工場を中国の Tianjin に作るということで最終合意したとのことです。
自動車の次は航空機で日本のものづくり産業を盛り上げようという日本にとっては驚きの内容ではないでしょうか。
とはいってもこれは今に始まったことではないようです。
既に中国の Tianjin Free Trade Zone Investment Company Ltd. は A320 の最終組み立て工程を作り上げており、Airbus 初のヨーロッパ外の組み立て工場としての実績を積み上げてきたようです。
組み立て工場としての実績を積み上げた上で、機体を購入すると言われれば、
「では、最終組み立て工場をさらに誘致しよう」
という流れになるのは自然かと思います。
最近少し保守的になりつつあるBoeingと反対に、Airbusの攻めの姿勢は際立っている印象です。
A330は2017年の販売が計画されている Trent7000 を搭載する最新型の neo ( new engine option )も持つ、ロングセラーの機体です。
加えてA330は中国全土や周辺国との行き来にちょうどいいサイズのようでニーズにマッチしているというのも追い風に違いありません。
AirbusのHPによると、A330の初期型であるA330-300にも10トン以上の FRP が用いられており、
今回のA330誘致を皮切りに中国が国を挙げて進めるFRP先進国の足掛かりをつかもうとしている戦略の垣間見えます。
http://www.airbus.com/aircraftfamilies/passengeraircraft/a330family/a330-300/
人件費の高騰に苦しむ中国が、早い段階で付加価値の高い航空機産業に目をつけ、
広い国土と多い人口、そして世界第2位のGDPを武器に参入を進めているという戦略は力づくのところはあるものの勢いという根本的な部分で他国を圧倒しているという現実があります。
しかし新しいものづくり産業を創出する、誘致するというこの流れは日本のものづくり産業にとっても参考になる部分はあるのではないかと考えています。
MRJを皮切りに同じことをやりましょう、というのではありません。
炭素繊維の製造の実に7割を日本企業が占めている今のアドバンテージも考慮しながら、日本企業の「文化」を尊重する 戦略が重要です。
もともとFRPの業界では東レを筆頭に航空機業界で実績を上げ、それを使ってもらうことでサプライヤーとしての立ち位置を確立してきました。
ところが東レがBoeingの厳しい要求をパスして、航空機業界に採用されたというのはもう20年近く前の話となっています。
高くても性能が良いものは売れるというだけでは非常に難しくなりつつあります。
ここで本来は欧米のように、
基礎研究は大学で
実用化研究開発は公的研究機関で
実際の認定取得や量産化はメーカーで
と役割分担をできていればいいのですが、日本企業は自社技術を必要以上に「隠したい」という考えがこの役割分担の障害となっているという印象です。
私の実経験でも、確かに欧米企業も機密に対してはとても厳しいですが、契約を締結すればノウハウを含めてかなり開示してくれます。
上記の大学、公的研究機関、メーカーのすみわけがうまくいくのは、
ある程度のルールが構築されれば基本的には開示するというその姿勢が成り立たせている主因の一つなのかもしれません。
その一方で日本企業に同じようにしましょうというのは難しでしょう。
というのもこれは「文化」だからです。
そうなると戦略として考えられるのは、
「自社の強み技術を主軸として可能な限りすそ野を広げる」
というアプローチではないかと考えています。
特にここ最近のFRP業界を見ていると、形が見えてわかりやすい「成形加工」や、
実際の実験結果との相関が取れずに精度に疑問の残る「解析」だけが盛んなイメージで、
FRPの全体を見渡すということはとても難しいのではないかと感じることが多いです。
せっかく身近にFRPの大手メーカーがいるのに、材料は材料メーカーから買ってきて、成形メーカーで成形して形にすればいい、という試作段階の考え方から抜けきれないというのが日本のFRP業界の現状ではないか、と感じています。
自社の技術を隠したい、という文化があるのであればそれを最大限尊重しながら各社の強みを軸にすそ野を広げて、FRPを次のものづくり産業の主軸にしていくという他国と異なる戦略が、日本企業にとっては必要なのかもしれません。
FRP業界での業務拡大、新規参入をお考えの企業の方々にとって参考になれば幸いです。